業種別開業ガイド

ワインスクール

2026年 1月 23日

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トレンド

日本のワイン市場は近年、着実な成長を遂げ、人々の日常に浸透してきた。以下では、ワインスクール開業を考える上で押さえておきたい市場動向と、消費者側の意識の変化について解説する。

(1)ワイン消費の拡大と日常化

日本のワイン消費は長期的に拡大傾向にある。国税庁などのデータに基づき民間企業(キリンホールディングス)が公表した資料によると、2022年の国内ワイン消費数量は、10年前の2012年と比較して約110%と市場が拡大している。さらに過去40年間では約6倍に伸長しており、もはやワインは特別な日の飲み物ではなく、日常の食卓を彩る定番酒として定着したといえる。

ワインの消費数量の推移

特に顕著なのが、スパークリングワインの伸長だ。同資料によれば、スパークリングワインの輸入数量は10年間(2013年比)で約130%と大幅に拡大している。ハレの日だけでなく、日常的に飲用の機会が増えていることがうかがえる。

(2)地域発ブランドとして進化する日本ワイン

ワイン市場の大きな潮流として、「日本ワイン」の台頭が挙げられる。日本産ブドウを100%使用し、国内で製造される日本ワインのワイナリー数は年々増加している。国税庁の「酒類製造業及び酒類卸売業の概況」によると、国内ワイナリーの数は、2015年に280場だったものが、2024年には493場に達している。

規模は小さいながらも、地域の風土や個性を生かした高品質なワインづくりを目指す生産者が増えており、地域のブランド価値の向上に貢献している。また、近年では、国際的な品評会で最高賞の受賞が相次ぎ、世界からも日本ワインの評価が高まっている。

(3)ワインを「学ぶ・体験する」で楽しむ時代へ

ワインは単なる嗜好品から、教養としての側面を強めつつある。SNSでは「ワイン×旅」「ワイン×料理教室」といった投稿が増えており、ワインが生活を彩る文化的アイテムへと進化していることが分かる。

近年は、商品の背景や生産者の思いが消費者の心を動かす重要な要素となっている。ワイン市場においても、ワインに関する知識とともに、ワインができるまでのストーリーやテロワール(産地の個性)を学びたいというニーズが見られ、全国的にワインビジネス関連の裾野が広がっている。

観光庁・経済産業省が推進する「ワインツーリズム」のように、各地でワインを「学ぶ・体験する」ことで楽しむ文化が形成されつつある。企業研修や自治体の観光振興事業においても、ワイン講座を導入する例が増加傾向にある。地域ワイナリーと連携した体験型スクールは、地方創生の新たな形として注目されている。

近年のワインスクール事情

前述のとおり、消費者のワインへの関心は、単なる購買行動に留まらず「学び」への意欲にもつながっている。このような学びのニーズを受け止める場として、ワインスクールは大きな可能性を秘めている。業界全体は今、消費者ニーズの多様化とテクノロジーの進化によって大きな変革期を迎えている。

(1)資格対策から教養・趣味へのシフト

かつてのワインスクールは、ソムリエやワインエキスパートといった資格取得対策が中心であった。しかし、ワインの日常化に伴い「教養」や「趣味」としての需要が大きく拡大している。市場では、以下のような多様なニーズに応える講座が増加している。

  • ペアリング特化型:和食や中華料理など、特定の料理との相性を深く掘り下げる講座
  • 産地特化型:日本ワイン、ニューワールド(※1)、自然派ワイン(※2)など、テーマを絞った専門性の高い講座
  • ライフスタイル型:ワインと健康、アロマテラピーなど、他分野と組み合わせた講座

(※1)ヨーロッパ以外のワインづくりの歴史が浅い国や地域。主にアメリカ、チリ、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ、アルゼンチンなど。
(※2)化学肥料や農薬を極力使わずに育てたブドウを使い、人工的な添加物をできるだけ加えずに醸造されたワイン。

特に、資格取得を目的としない趣味層は、「楽しさ」や「共感」といった付加価値を重視する傾向がある。1回完結型や少人数制など、柔軟なカリキュラム構成で受講しやすい講座が増えているのも近年の特徴といえる。

(2)オンライン・サブスクリプションモデルの台頭

コロナ禍を経て、学習スタイルが劇的に変化した。従来の対面式に加えて、オンラインでのワイン学習が定着してきている。これまでのオンライン講座は動画視聴のみが多かったが、近年は「試飲体験」を組み合わせることで、対面と同じような学習効果と満足度を提供するスクールが増えている。

例えば、試飲用のワインを小瓶化して受講生の自宅へ配送し、動画教材とライブ配信で講義を行う「自宅に届くワインスクール」のようなサブスクリプションモデルが成功事例として生まれている。この仕組みは、受講者が全国どこからでも本格的な学習に参加できるだけでなく、ワインスクール側も、安定した月額収入(ストック型ビジネス)を確保できるという大きなメリットがある。

(3)法人向けビジネス(BtoB)市場の拡大

ワインスクールは、個人(BtoC)向けのビジネスだけでなく、法人(BtoB)向けのビジネスとしても可能性を広げている。

  • 福利厚生:企業が社員の教養や交流促進を目的として、ワインセミナーを導入するケース
  • 異業種連携:百貨店や高級ECサイトの顧客向けに、文化体験セミナーを共同開催するケース
  • 専門研修:食品メーカーや商社が、新商品開発や仕入れ担当者向けに専門的なワイン研修を依頼するケース

これらのBtoB案件は、一般的に単価が高く、安定的な収益源となるため、開業の際には積極的に開拓すべき市場といえる。

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ワインスクールの仕事

ワインスクールの主な業務には、以下のようなものがある。

  • 講座企画・開発:ターゲット層(資格対策、趣味、法人など)に合わせたカリキュラム設計、教材作成、テイスティング用ワインの選定など
  • 講師業務:講義の実施、テイスティング指導、質疑応答への対応、外部講師マネジメントなど
  • ワインの仕入れ、在庫管理:試飲用ワインのインポーター選定、購入、在庫管理、品質管理(温度・湿度管理)など
  • 教室運営管理:受講受付、予約・出席管理、受講料の徴収、問い合わせ対応、会場設営、清掃、備品管理、撮影機材・配信システムの管理など
  • 経営管理:収支管理、財務管理、労務管理、法務、税務処理など
  • マーケティング・集客:WEBサイト運営、SNS運用、広告運用、SEO対策、体験レッスンの実施、イベントの企画・出展など

ワインスクールを開業するには、ワインに関する専門知識だけでなく、ビジネスを成功させるための多岐にわたる経営スキルが必要だ。事業規模に応じて業務を分担したり、外部サービスを活用したりする柔軟性も成功の鍵となる。

ワインスクールの人気理由と課題

人気理由

  1. 得意分野を仕事に生かせる
  2. スモールスタートが可能
  3. 多様な収益モデルを構築しやすい

課題

  1. 講座内容の継続的なアップデートが必要
  2. 多様なワインの仕入れと管理コストがかかる
  3. 開業初期は集客が困難
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開業のステップ

ワインスクールの基本的な開業ステップは、以下のとおりとなる。

開業のステップ

ワインスクール開業に役立つ資格や許可

ワインスクールの開業自体には、法律上必須となる資格や許可はない。ただし、場合により食品衛生法上の届出や酒税法上の扱いに留意する必要がある。考えられる許認可を、以下の表にまとめた。

ワインスクール開業に必要な許認可・届出

また、事業の信頼性を高め、質の高いサービスを提供するために、講師が所持すべき推奨資格は多数ある。代表的な資格としては、次のものがある。

日本ソムリエ協会(J.S.A.)認定資格

「ソムリエ」「ワインエキスパート」など、業界内での信頼性が高く、講師の実力証明に役立つ。協会の認定講師制度もあり、登録すればワイン検定認定の講師として活動できる。

WSET(Wine & Spirit Education Trust)認定資格

世界最大のワイン教育機関が認定する資格で、Level1からLevel4(Diploma)まである。特にLevel3以上を取得していると、国際的な知見を持つ講師として差別化できる。

開業資金と運転資金の例

ワインスクールの開業にかかる費用は、事業の規模や形態によって大きく異なる。ここでは、以下の前提条件での開業資金と運転資金の例を示す(参考)。

(前提条件)
賃料が1日約1.5万円のレンタルスペースを利用
月12日程度、対面式のスクールとして開講
スタッフは雇用しない(本人のみのスモールスタート)
受講者は1回あたり4人程度を想定
ワインセラー、グラス、試飲用ワインなどは自宅で保管

開業資金例
運転資金例

なお、ワインスクールの開業に活用できる支援制度には、次のようなものがある。

  • 小規模事業者持続化補助金:商工会議所経由で申請可能、広告宣伝費などが補助対象
  • IT導入補助金:顧客管理システムや予約システム導入に活用可能
  • 創業融資制度:日本政策金融公庫による新規開業者向け無担保・無保証融資

また、都道府県や市区町村でも創業支援や補助金制度を実施しているところがある。低金利での融資や利子補給などの優遇措置がある場合が多い。各自治体の商工会議所や産業振興部門に問い合わせて、詳細を確認すると良いだろう。

売上計画と損益イメージ

最後に、ワインスクールを開業した場合の1か月の収支をシミュレーションしてみる(参考)。

まず、売上イメージを以下のように設定する(例)。

売上計画

売上見込みから支出見込み(前項、運転資金例)を引いた損益イメージは次のようになる。

損益イメージ

ワインスクールの経営は、講座の稼働率や受講料設定、仕入条件などにより損益が大きく変動する。開業初期は稼働率が低く、広告宣伝費が高くなる傾向があり、安定した利益を得るまでには時間を要する。季節による需要変動もあるため、年間平均での収支計画を立てることが重要だ。

安定経営の鍵は、リピーター戦略とコミュニティ形成にある。初級から上級へと段階的に学べるカリキュラムを整え、受講生との長期的関係を築きながら再受講率を高めていきたい。さらに、交流イベントなどの定期開催は「学びの場」を超えた高付加価値を提供できる。スクールのファンが増え、口コミによる新規獲得にもつながるだろう。

収益源の多様化も欠かせない。定期講座に加え、企業研修やワイナリーツアー企画、ワイン販売などを組み合わせることで、経営の安定性が高まる。自身の強みを存分に生かしたスクールを築き、他にはない価値を提供して信頼を積み重ねていこう。

※開業資金、売上計画、損益イメージなどの数値は、開業状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

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