業種別開業ガイド

子育てサポート

2020年 10月 22日

トレンド

(1)ニーズは拡大基調で推移

核家族化や共働き世帯の増加により、子育てサポートサービスのニーズは拡大傾向にある。2018年度の保育園・託児所市場規模は、前年度比6.0%増の3兆3,500億円で、2019年度も引き続き拡大の見込みである(矢野経済研究所調べ)。これに伴い、放課後や長期休暇中の小学校児童の保育を担う学童保育の需要も高まっており、厚生労働省によると2019年の放課後児童クラブ(公設の学童保育)への登録児童数は129万9,307人、クラブ数は2万5,881ヶ所といずれも過去最高となった。一方、学童保育を利用できない待機児童の数も増加しており、厚生労働省は更なる受け皿の整備に取り組む考えを示している。

(2)民間学童への参入

公設の学童保育施設不足を背景に、民間企業が学童保育サービスに参入するケースがここ数年増えている。沿線価値向上により居住者増加につなげたい鉄道会社や、少子化の中で将来の利用客を確保したい英会話教室、学習塾、スポーツクラブなど、幅広い業界から進出が相次いでいる。駅の近くに立地して利便性を図ったり、勉強や英会話などを教えたりなど、それぞれの業種の長所を生かしたサービスを提供し、差別化を図っている。

公設の学童保育は公的補助を受けて運営しているため、行政により利用条件、定員や設備など多くの基準が定められているのに対し、公的補助を受けない民間学童保育はそういった条件や基準に関係なく、サービスの内容を自由に決めることができる。

(3)オンライン学童保育

新型コロナウイルス感染拡大防止のために外出自粛が続く中、リモートワークが忙しくて子どもを見ている時間がなく、仕事で外出しなくてはいけないが子どもの預け先がないといった家庭向けに、オンラインによる学童保育サービスを開始する民間学童保育も現れた。自宅にインターネット環境があれば、平日朝から夕方までサービスを受けることができる。

ビジネスの特徴

学童保育は、基本的に保護者が仕事などで日中不在にしている家庭を対象に、放課後や長期休暇中の小学生を預かり、遊びや生活、学習の場を提供するサービスである。公的に補助を受けて運営している公設の学童保育とは異なり、民間学童保育は利用者が利用したいサービスを選んで料金を払い、その対価としてサービスを提供している。多くの民間学童保育では、週当たりの利用回数によって料金が決まっており、別料金で土日利用、延長保育、給食、送迎のほか、習い事や学習などのプログラムが用意されている。公設の学童保育にはないサービスを提供している分料金は高く、1か月に数万円かかるところがほとんどである。

民間学童保育でも、自治体の条例に定められた基準を満たし、審査に通れば補助金を受けて運営することも可能だが、法人のみが対象となっているケースや運営実績が必要とされるケースがほとんどで、個人開業での参入は難しいと思われる。

開業タイプ

(1)フランチャイズ加盟型

学習塾運営企業などが展開する民間学童保育のフランチャイズ加盟による開業。フランチャイズ元のノウハウやプログラムが提供されるメリットがある。

(2)独立型

個人による独立開業。立地場所は、保護者にとって利便性の高い駅近くか、子どもの通いやすさから小学校が近い住宅街などが望ましい。商圏内の小学校や競合相手(学童保育や塾など)についても事前に調査しておくことが重要である。少人数制でのスタートであれば個人宅での開業も可能である。

開業ステップ

(1)開業のステップ

開業のステップ

(2)必要な手続き

公的補助を受けない民間学童保育の場合、経営や運営に特別な資格・免許は必要なく、職員や施設・設備についても特に基準はない。個人であれば一般的な開業手続きとして税務署への開業申請を行う。法人であれば必要に応じて、健康保険・厚生年金関連は社会保険事務所、雇用保険関連は公共職業安定所、労災保険関連は労働基準監督署、税金に関するものは所轄税務署や税務事務所にて手続きを行う。併せて、消防署への防火管理者の届出も行う。

万が一の事故に備え、施設賠償責任保険、傷害保険などには必ず加入しておく。

メニュー、商品の品揃えなど

ほとんどの民間学童保育では、週当たりの利用日数で料金プランを設定している。これに加え、送迎、延長保育、食事提供、休日・祝日利用など、保護者が必要なサービスが選べるようになっている。

また、宿題指導のほか、英語やプログラミングといった新しい科目に対応した学習プログラム、スポーツやアートなど習い事などのサービスを取り入れることで、公設の学童保育との住み分けや同業者との差別化を図ることが重要となる。その一環として、料理教室やドッジボール大会、キャンプといった親子で参加できる交流イベントの開催を行うところもある。

必要なスキル

公的補助を受けない民間学童保育の開業にあたって、教育や保育の有資格者である必要はないが、日常的に子どもや保護者と関わる業態であることを考えると、子育て経験、または学童保育、子どもスポーツクラブ、学習塾などで子どもと接した経験があることが望ましい。ただし、保育士、小学校教諭などの有資格者がスタッフにいた方が、保護者への信頼や安心が得やすいであろう。また、習い事などをサービスに入れる場合は、そのスキルを持っていることが必要である。

(補足:公設の学童保育施設においては公的資格である「放課後児童支援員」を1名以上置くことが義務付けられている。)

開業資金と損益モデル

(1)開業資金

【独立型、自己所有物件を改装して民間学童保育施設を開業する際の必要資金例】

必要資金例の表

(2)損益モデル

a.売上計画

利用会員20名を有していることを前提に、以下の利用料金などをもとに売上高を算出。

売上計画例の表

b.損益イメージ

人件費は、正規職員(年収200万円)1名、非正規職員(年収150万円)1名を想定。
駐車場代は1台のみで月1.5万円、その他には保険料(月3万円)が含まれると想定。

 損益のイメージ例の表

※標準財務比率は、学習塾に分類される企業の財務データの平均値を掲載
(出典は東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」)。

c.収益化の視点

人件費の割合が高く収益を圧迫する要因となっており、パートやアルバイトを雇うことで人件費の抑制と指導員の人員確保を図る。学童保育は次年度の新1年生の確保が重要となるため、チラシのポスティングやホームページの整備など広告費の投下も欠かせないものとなる。

民間保育は利用者から支払われる料金が売上となる。まずは赤字を出さない最低利用者数をキープし、保護者間の口コミやネットワークなども使って定員まで増やしていければ黒字化が期待できるだろう。料金プランは学童を選択する上で大きなポイントとなるため、商圏内の同業他社をリサーチしつつ、適正かつ黒字化が可能な価格に設定する。客単価向上のため、固定利用料金に上乗せが期待できる習い事等のプランの充実も必要であろう。

※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)