トランスジェンダーの従業員に対して、性別適合手術を受ける前の写真や戸籍上の名前を開示するように求めること(*5)
「良い年なのだからそろそろ結婚してはどうか」、「もう少し男らしく/女らしくしなさい」など、性的指向が異性であることや、身体的性別と性自認が一致していることを前提とした発言をすること
近年では、性的指向に関する情報を第三者に漏えいされたことによる精神疾患の発症が労災として認定される事例(*6)や、トランスジェンダーの従業員と他の従業員、それぞれの要望を踏まえて最適な職場環境を整備することが大事であるという裁判例(*7)が出てきています。
日本におけるLGBTQ該当者は、概ね3%~8% (*8)(調査機関や調査方法によって異なる)と言われています。自身がLGBTQであることを職場に伝えていない人もいるため、自社にはいないと考える企業の方がいるかもしれません。ただし、無意識のうちに、性的指向・性自認を理由とするハラスメントを起こしてしまうリスクがあるので、企業としては、自社にLGBTQの従業員がいることを前提とした対応が求められます。
3.厚生労働省が示した7つの取組み
厚生労働省が2020年に公表した「多様な人材が活躍できる職場環境に関する企業の事例集~性的マイノリティに関する取組事例~」では、企業の取組みとして主に以下のようなことが挙げられています。
(1) 方針の策定・周知や推進体制づくり
性的指向・性自認にかかわらず多様な人材が活躍できる職場づくりをすることを企業が表明することで、LGBTQである/ないにかかわらず、従業員が安心して働くことができます。
(2) 研修・周知啓発などによる理解の増進
LGBTQの従業員が働きやすい職場をつくるには、従業員一人ひとりがLGBTQについて正しい知識を身につけ、理解の増進をはかることが大切です。
(3) 相談体制の整備
性的指向や性自認に関する相談窓口を明確化し、実際に相談を受けたときは、その内容をどこまで社内で伝えるか、当該従業員の承諾を得ましょう。当該従業員がLGBTQであるという情報が、本人の承諾なく、当該従業員の承諾を得た範囲外の人に漏れないようにすることが重要です。
(4) 採用・雇用管理における取組み
採用や配置、昇格、昇進などの場面で、性的指向や性自認を理由とした不利益を従業員が被ることのないよう、公平な取り扱いが求められます。
(5) 福利厚生における取組
企業が整備している各種制度について、LGBTQの従業員にも柔軟に適用できるようにしましょう。
(6) トランスジェンダーの社員が働きやすい職場環境の整備
LGBTQのなかでも特にトランスジェンダーの従業員については、氏名の表記やお手洗いの使用、海外出張、医療機関での治療など、配慮が必要な場面があります。
(7) 職場における支援ネットワークづくり
LGBTQについて正しく理解して支援する姿勢を表明することで、LGBTQの従業員が安心して働くことができます。
実務上は、上に示した取組みを参考に、自社の状況に応じて適切に対応していくことになります。例えば、身体の性別が男性で性自認が女性のトランスジェンダー従業員が女性用のトイレや更衣室を使用したいと希望した場合、他の女性従業員の意見も取り入れながら最適解を模索、調整することなどが挙げられます。
なお、性的少数者・セクシュアルマイノリティと呼ばれる人びとを指す言葉として「LGBTQ」の代わりに「SOGI」が用いられることがあります。厚生労働省の「多様な人材が活躍できる職場環境に関する企業の事例集~性的マイノリティに関する取組事例~」において、SOGIは、「性的指向(Sexual Orientation)と性自認(Gender Identity)の頭文字をとった略称」であり、「特定の性的指向や性自認の人のみを対象とするのではなく、すべての人を含む表現」であると定義されています。
すべての人を含むので、身体的性別と性自認が一致しており、性的指向が異性である「性的多数派」の人も含まれることになります。一人ひとりのSOGIを尊重した言動がとれるよう企業内での理解増進に努めつつ、LGBTQの従業員に配慮した職場環境を整えることは、誰もが安心して力を発揮できる職場づくりにつながるのです。
(*1) 3つの要素に加えて、言葉遣い・服装・振る舞いなどの性別表現を加えた、4つの要素の組み合わせとする向きもあります。
(*2) 厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)
(*3) 厚生労働省「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(平成 18 年厚生労働省告示第 615 号)
(*4) 厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク「採用選考自主点検資料~公正な採用選考を行うために~(令和5年度版)」
(*5) 国連人権高等弁務官事務所「国連ビジネスと人権の作業部会 訪日調査、2023年7月24日~8月4日 ミッション終了ステートメント」(2023年8月4日)
(*6) 日本経済新聞「性的指向の暴露「アウティング」で労災認定 労基署」(2023年7月24日)
(*7) 裁判所「令和3(行ヒ)285 行政措置要求判定取消、国家賠償請求事件」(2023年7月11日 最高裁判所)
(*8) 一般社団法人日本経済団体連合会「週刊経団連タイムス 2023年8月10日 No.3602」