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カリフォルニア州法の Prop 65の規制値のばく露量の確認方法を教えてください。 また、ばく露量を確認しないで警告表示をしてよいでしょうか。

2022年 4月 6日

カリフォルニア州の輸入者からProp 65の警告表示に関する適合確認が来ました。
カリフォルニア州法の Prop 65はばく露量の規制と承知しており、当社製品の用途を考えるとばく露は考えられません。
経費節約のため、ばく露量の確認をコンサル会社に依頼せずに自ら行いたいと思います。
ばく露量の確認方法を教えてください。
ばく露量の確認が面倒であれば、ばく露量を確認しないで警告表示をしてよいでしょうか。

回答

製品含有化学物質による「ばく露が規定量を超えるリスクがない決定」(Safe Use Determination SUD)ができれば、「明確かつ合理的な警告」表示は不要です。
Prop65の対象物質である“The Proposition 65 List”の収載物質を含有していなければリスク評価は不要になります。サプライヤからの情報で確認するなどの方法により、対象物質の絞り込みができます。慣れないうちは、専門家の支援を受けるのがよいと思います。
ばく露評価をしないで、警告表示をすることは、規定上は禁止されていません。しかし、規制当局(OEHHA“ Office of Environmental Health Hazard Assessment”)への情報提供義務などがあり、安易に警告表示はするものではないと思います。

1)Prop65の概要

カリフォルニア州法プロポジション65(Prop65)(*1)の法律名は「1986年の安全飲料水及び有毒物質執行法“Safe Drinking Water and Toxic Enforcement Act of 1986”」です。
Prop65は6条構成ですが、下位の規則で詳細が規定されています。

第1条 前文及び定義
第2条 ガイドラインと安全運用判定手続き
第3条 科学諮問委員会:発がん性物質識別委員会及び発達・生殖毒性物質識別委員会(Developmental and Reproductive Toxicant Identification Committee :DARTIC)
第4条 排出
第5条 ばく露の程度
第6条 明確かつ合理的な警告
第7条 有意なリスクを呈さないレベル
第8条 最大無影響レベル
第9条 その他

Prop65のリスク解釈をするための「Prop65の解釈指針」(*2)もあります。
Prop65は濃度規制ではなく、基準を超えるばく露が推定される場合に、第6条(明確かつ合理的な警告)による警告表示が要求されます。
警告表示は、ラベル様式(Form)がありますので、難しくはありません。しかし、別項で説明しますが、ばく露量の推定の判定(SUD)に戸惑います。

2)ばく露リスクとは

Prop65の対象物質は“The Proposition 65 List”(*3)(以下リストと略記)に約1,000物質(群)が収載されています。リストには、発がん性物質の重大なリスクレベル(NSRL)または生殖毒性物質の最大許容用量レベル(MADL)が示されています。
この数値が“Safe harbor levels”(許容レベル)と言われるもので、“Safe harbor levels”以下であれば警告表示義務はありません。
なお、リストは少なくとも年1回は更新されます。

濃度規制については、測定という手段で遵法性を評価できますが、ばく露については製品の用途(使い方)により評価方法が異なります。製品の用途は「ばく露シナリオ」とも言われますが、生産者が想定した使い方で、ばく露は「ばく露シナリオ」により評価します。
しかし、顧客は時には想定外の使い方をしますので、どこまで「ばく露シナリオ」に含めるかべきか悩みます。
また、“Safe harbor levels”が記載されていない物質の場合は“Safe harbor levels”を決定し、それから評価しなくてはなりません。
このため、一定の知見を有する専門家に評価を委ねることが推奨されています。

3)安全使用判定Safe Use Determination SUD)について

第6条の警告表示が不要となるためのSUDの手順は、27 CCR § 25204(Safe Use Determination)(*4)に規定されています。

SUDとは、Prop65の規制当局であるOEHHA(Office of Environmental Health Hazard Assessment) が発行した文書による判定で、事業者の要求に応じて、OEHHAが“Safe harbor levels”以下である安全な使用であると認めるものです。
SUDを受けるためには、事業者は特定の事業活動または特定の製品を平均的に使用した場合のばく露が警告要件に当てはまるかどうかについてOEHHAに判定を求める必要があります。

§ 25204の要求事項(要旨)
SUDを受けるためには以下の情報と手数料等を添えて申請する必要があります。

(1) 安全使用判定を申請する活動に関連する事項
・すべての利害関係者の名前と住所、活動の事業理由の説明、活動の詳細な説明など。
(2) 安全使用判定を申請する活動及び活動に直接関連する契約書、協定書、文書、報告書、分析書又はその他の文書のコピー。
(3) 安全使用判定を申請する問題又は問題点の記述。
(4) 安全使用判定のための申請内容に特定の化学物質が含まれる場合は、化学品名とCAS登録番号を含める必要がある。

安全使用判定の申請にあたっては、1,000ドルの返金不可の手数料が伴うものとする。
さらに、申請者は、OEHHAまたはその他州当局が要求を検討する際に必ず必要となる、1,000ドルを超える追加費用を支払うものとする。
この追加費用は、申請事業者が追加費用の見積りの提示を受け、安全使用判定の申請手続きを進めることを選択し、追加費用を支払うことに同意した後にのみ課されるものとする。
申請者が上記の規定に基づく手数料やその他の追加費用を支払うことが困難である、あるいは手数料の納付なしに請求を処理することが公共の利益にかなうとOEHAが判断した場合には、手数料は免除される。

4)企業対応

警告表示をしないためのSUDの手続きは面倒です。企業としての対応方法はいくつか考えられます。

i)類似品の状況を確認する
 類似品が警告表示をしているかどうかはビジネスの観点から重要です。

ii)判例を確認する
 類似品のProp65に関する和解や判例情報を確認します。輸入者(現地法人)の顧問弁護士の協力を得て、自社に有利な和解や判例情報を探し、それに沿った対応をします。

iii)成分調査をする
 サプライヤからSDS、非含有証明書などで情報を集めて、製品へのリスト収載成分の含有の有無を確認します。
 金属製品にはリスト収載の有機系化学物質などは含有されることは稀(ない)です。
 リスト収載物質が含有されていないことが確認できれば、そもそもばく露はありません。

iv)警告表示をする場合
 リスト収載物質が含有されていれば、SUDの手順によります。
 SUDは慣れるまでは、Prop65の専門家にばく露量の評価を委託するのがよいと思います。
 警告表示免除は§25249.10 (警告要求の免除)(*5)によると、以下の要件を満たす必要があります。
 §25249.6(警告表示手順)は、以下のいずれかに該当する場合には適用されないものとする:
 (a) 連邦法が州当局に優先する形で警告を管理するばく露
 (b) セクション25249.8の小分類(a)の下で公表する必要のあるリストに、問題となる化学物質が掲載されてから12カ月以内に発生するばく露
 (c) 責任者が、そのばく露が、がんを引き起こすことが知られている物質について、問題のレベルでの生涯ばく露を仮定して、重大なリスクをもたらさないこと、及び、第25249.8条(a)に従って、そのような化学物質のリストの科学的根拠を形成する証拠及び基準と同等の科学的妥当性の証拠及び基準に基づいて、そのばく露が、生殖毒性を引き起こすことが知られている物質について、問題のレベルの1000倍のばく露であると仮定して、そのばく露が観察可能な影響を及ぼさないことを示すことができるばく露

ばく露が“Safe harbor levels”を超えると警告表示が必要ですが、“Safe harbor levels”未満で警告表示をしてはならないとは規定されていません。
ただ、警告表示は表示をすれば終わりではなく、§ 25205(OEHHA Webサイト)(*6)による情報提供義務などがあります。
また、“Short Form”による警告表示でも物質名の記載をする改定(*7)が検討されています。
安易に警告表示はするものではないと思います。

引用情報等:

回答者

中小企業診断士 松浦 徹也

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