2026年 7月 27日
「在籍型出向の活用(第2回)」では、在籍型出向がどのような場面で活用されているのかを、雇用維持、人材育成、事業承継、社会貢献、業種間の繁閑調整という5つのパターンに分けて整理します。あわせて、送り出す側・受け入れる側の主なメリットや、相談先・公的支援を確認する際のポイントも紹介します。
在籍型出向とは、労働者が出向元企業との雇用関係を維持したまま、一定期間、出向先企業で勤務する仕組みです。近年は、大企業だけでなく、中小企業でも活用が広がっています。
第1回は、在籍型出向の基本的な仕組みと、転籍・派遣との違い、そしてこの制度が近年注目される背景を整理しました。今回は、実際にどのような場面でこの仕組みが活用されているかを、具体的なパターンに沿ってご紹介します。
在籍型出向は、もともと大企業がグループ会社間で人材を融通し合う手段として広く使われてきました。しかし近年は、中小企業においても、経営上のさまざまな課題に対応する手段として活用の場が広がっています。その使い方は一様ではなく、企業の状況や目的に応じて多様なパターンがあります。
1.在籍型出向の多様な活用パターン
パターン1. 雇用の維持——仕事が減っても、社員を手放さない
受注の急減、季節的な需要の落ち込み、あるいは取引先の都合による仕事の一時的な縮小——こうした状況では、社員の雇用をどのように維持するかが経営上の重要な課題となります。仕事がない状態で社員を抱え続けることには限界がある一方、解雇に踏み切れば、事業が回復したときに即戦力となる人材を失ってしまいます。
在籍型出向は、こうした局面での有力な選択肢となります。人手を必要としている別の企業に社員を一時的に送り出すことで、出向元企業は人件費の一部を軽減しながら雇用を守ることができます。出向期間が終われば社員は戻ってくるため、事業回復後の体制を維持できるという点も大きなメリットです。
新型コロナウイルス感染症の影響で事業縮小を余儀なくされた観光業・飲食業・航空関連業などで、在籍型出向を通じて雇用を守った事例が多数報告されています。事業回復時に必要な人材を再確保しやすい点が、この仕組みの大きな価値として評価されています。
パターン2. 人材育成——異なる環境が、社員の力を引き出す
自社の業務だけでは得られない経験やスキルを社員に積ませたい——そう考える経営者にとっても、在籍型出向は有効な手段です。異業種・異業態の職場で働くことは、社員に新たな視点をもたらし、業務の幅を広げるきっかけになります。
たとえば、製造業の社員が物流企業に出向してサプライチェーンの現場を経験する、あるいはサービス業の社員が異なる業態の接客現場を経験するといったケースでは、戻ってきた社員が異なる職場経験を持つ人材として、自社に新たな視点や改善提案をもたらすことが期待できます。
こうしたスキルアップを目的とした在籍型出向については、国の助成制度も用意されています。厚生労働省の産業雇用安定助成金(スキルアップ支援コース)では、在籍型出向によって社員のスキルアップを図り、復帰後6か月間の賃金を出向前と比べて5%以上引き上げた場合などを要件として、助成金が支給されます。令和8年4月8日以降に出向実施計画届を提出した場合は、これまでの出向元事業主に加え、出向先事業主も助成対象となりました(企業グループ内出向を除く)。送り出す側・受け入れる側の双方が活用できる制度として、さらに使いやすくなっています。支給要件や助成額の詳細は、厚生労働省の公式ページまたはハローワークでご確認ください。
パターン3. 事業承継——後継者候補を、外の現場で育てる
中小企業における事業承継は、後継者の経営能力をいかに高めるかという点でも多くの課題があります。自社だけで後継者を育てようとすると、どうしても視野が狭くなりがちです。取引先や関係会社への在籍型出向を通じて、後継者候補に「外の経営現場」を体験させるという活用も注目されています。
出向先での業務を通じて、コスト意識、対外折衝、現場マネジメントといった実践的な経営感覚を身につけさせる。自社では得られない緊張感のある環境に身を置かせることで、後継者としての自覚と能力を養うことができます。「自社だけでは教えられないことを、出向が教えてくれた」という経営者の声もあります。
パターン4. 社会貢献——人材を通じて、地域や被災地に貢献する
在籍型出向には、経営上の合理性を超えた活用もあります。大規模な自然災害が発生した際、被災地の企業では人手不足が深刻化します。一方で、支援したいという意思を持ちながらも、具体的な行動の手段が見当たらないという企業も少なくありません。
在籍型出向は、そうした「支援の意思」を形にする手段として機能します。被災地の企業に社員を一定期間送り出すことで、被災地企業の人手不足支援につながります。能登半島地震の際にも、復興支援を目的とした在籍型出向の活用が進められ、産業雇用安定センターや各都道府県労働局がマッチング支援を行いました。こうした取り組みは、企業としての社会的責任(CSR)の観点からも意義があります。
パターン5. 業種間の繁閑調整——業種間の繁閑差を調整する仕組みとして活用
農業・観光・建設・食品加工など、業務量が季節や時期によって大きく変動する業種では、繁忙期の人材確保が慢性的な課題となっています。その一方で、同じ時期に閑散期を迎え、人員に余裕が生じる業種もあります。在籍型出向は、こうした業種間の繁閑差を調整する仕組みとして活用されています。
繁忙期だけ人材を受け入れ、期間終了後は出向元に戻す——この仕組みにより、受け入れ側は業務経験を有する即戦力人材を確保でき、送り出す側は閑散期の人件費負担を軽減しながら社員の雇用を守れます。
産業雇用安定センターの事例では、コロナ禍で運休を余儀なくされた観光バス会社の運転手が、精密部品の輸送を行う物流企業に出向したケースが紹介されています。丁寧な運転技術が求められるという共通点が、異業種マッチングを可能にした好例です。
2.送り出す側・受け入れる側、それぞれのメリット
在籍型出向は、送り出す側と受け入れる側の双方にメリットがあります。主な内容を整理すると次の通りです。
3.活用を後押しする支援の仕組み
在籍型出向の活用を検討する企業に対して、産業雇用安定センターが出向元・出向先のマッチング支援を無料で提供しています。全国47都道府県に事務所があり、業種・地域を問わず相談に対応しています。「出向させたいが、相手先が見つからない」「受け入れたいが、どこに声をかければよいかわからない」という段階から気軽に相談可能です。
第3回では、在籍型出向を進める際の実務上の留意点を整理します。本人の同意の取り方、契約書に盛り込むべき事項、賃金の負担割合と差額の問題、社会保険の扱い、そして職場ミスマッチへの対処など、トラブルを防ぐための具体的な知識を取り上げます。




