経営ハンドブック

定着率を高める幹部教育

理念を共有し、経営を学ばせ、「使命感」を持たせる

IoT(モノのインターネット化)やAI(人工知能)などデジタル化の進展で、企業経営を取り巻く環境は大きく変わりつつある。状況を総合的に判断して最適な経営判断を下すためには、社長を支える経営幹部の役割が増している。ワンマン経営からチーム経営への転換が必要だ。

経営幹部に「使命感」を持たせ、能力を発揮できるような場を経営者が提供することが、結果として定着率の向上にもつながる。ここでは、経営幹部を育てる方法を説明する。

経営幹部を育てて定着させるためのポイント

  1. 経営理念を共有し、ビジョンを明確にする
  2. 経営を学ぶ機会を提供する
  3. コーチングを通じて、傾聴・対話力をつける

1.経営理念を共有し、ビジョンを明確にする

幹部や幹部候補生の定着率を高める最善の方法は、自社が魅力的で「この会社で働きたい」という気持ちを強く持ってもらうに尽きる。人が働く理由は、必ずしも金銭的な待遇だけではない。自社で働くことを通じて、人の役に立っている、社会に貢献できるといった「使命感」も大事な要素だ。経営理念やビジョンを通じて、会社に対する従業員のロイヤリティが高まる。

まずは、社長自ら企業理念を熱く語ろう。会議や研修などの場を通じて、経営理念に基づく会社の展望を幹部と共有する。「他社に移って成績で評価されるより、この会社の中で共に成長していきたい」と思ってもらえれば、多少の収入が増えるからといって幹部が会社を去るような事態を招くケースはほとんどなくなるはずだ。

そして、経営理念を実現するためのビジョンを明確にして幹部に伝えること。何年後には売上高をいくらにする、数年後の上場を目指す、看板商品やサービスのシェアを伸ばして業界を変えるなどと掲げ、そのための施策を打っていく。経営幹部も従業員も目標に近づいている手応えを感じれば、定着率は高くなる。

2.経営を学ぶ機会を提供する

有能な幹部には、早くから経営意識を持ってもらうことも重要だ。経営者の視点で幹部がモノを考えるようになれば社長にとっては頼もしい存在となり、長い目で見れば後継者の育成にもつながる。

そのためには、幹部に経営を体験させる必要がある。しかし、いきなり会社を任せるわけにはいかない。そこで、マネジメントゲームのようなツールを使って、現在の状況を踏まえてこれから採るべき経営戦略を立てられる人材を養成するといったことが考えらえる。

このゲームは、これから先の5年間の経営を想定し,それを実際に2日間(延べ20時間)に短縮して「机上」で経営してみるという内容だ。参加者一人ひとりが会社の経営者として、材料の仕入れや生産、販売、代金回収などを企業会計に沿って進める。その意志決定によって、経営内容が黒字決算になったり、または赤字決算や倒産に追い込まれたりといった結果が出る。緊張感と楽しさを味わいながら、経営を理解できる。

また、社内の各部門の現場を経験させるという手もある。

三重県の食品メーカーでは、将来の幹部候補生である30~40代の役職者を、2~3年に1度のペースで、5つある事業部の枠を超えて異動させる。秘書室のメンバーも同様だ。秘書室で仕事をすれば、社長をはじめ経営層の考え方や会社のお金の流れなどを学ぶことができる。このようにして、会社経営の実態と将来性を体感させる教育を現場で施している。

3.コーチングを通じて、傾聴・対話力をつける

幹部教育のもう1つの視点として、定着率を高める部下の育成や指導ができる幹部の養成がある。

若年者が退職する理由として、労働時間や賃金などの待遇面のほか、人間関係が挙がる。人間関係を良くするためにはスムーズなコミュニケーションが必要だ。だから、職場で一緒に仕事をするリーダーには、コミュニケーション力、つまり傾聴・対話の能力が求められる。

ところが、独立行政法人労働政策研究・研修機構の『「人材マネジメントのあり方に関する調査」および「職業キャリア形成に関する調査」結果』によると、部下や後継者の指導・育成力(傾聴・対話力)が管理職に不足していると6割以上の企業、正社員ミドルマネジャーが指摘している。これでは、従業員の定着率は高まらない。部下が辞めれば部署の負担は増し、幹部にとってもストレスになる。この悪循環を断つのが狙いだ。

しかし、聴く・話すという行為は、当たり前のこととしてなかなか意識的に教育・訓練をするべき技術として認識していない経営者が多い。そこで、相手から話を引き出していくコーチングの技法を学ぶことで、聴く・話すというコミュニケーションの基本を身につける再教育が注目されている。コーチングは、目標設定、目標達成、問題解決などへ導く手法なので、部下の育成や指導にさまざまな形で活用できる。