経営ハンドブック

福利厚生

従業員のワークライフバランスを意識した福利厚生制度を整えよう

福利厚生は、法令によって義務づけられている法定福利厚生と、企業が任意で行う法定外福利厚生に大別される。前者は健康保険、介護保険、厚生年金保険、労働者災害補償保険、雇用保険、児童手当拠出金が該当する。一方、法定外福利厚生の内容は幅広く、健康診断費用や医療費の補助など健康・医療に関するもの、育児費用の補助や介護休暇制度など育児・介護に関するもの、通勤手当や住宅取得費用の補助など通勤・住宅に関するもの、社内運動会やスポーツ施設の利用などスポーツ・レクリエーションに関するものなど多岐にわたる。

福利厚生の充実は、社員の心身の健康維持や働きやすい職場環境づくりにつながり、エンゲージメントや社内コミュニケーションを高める効果が期待できる。結果的に社員の離職防止や生産性の向上にも寄与すると考えられる。ぜひ前向きに取り組みたい。

これからの福利厚生充実のポイント

  1. 育児・介護休業は、職場の実態に則した制度対応を
  2. 健康経営の観点で考える
  3. 福利厚生ニーズの多様化に効率的に対応する

1.育児・介護休業は、職場の実態に則した制度対応を

働き続けたいと思っているにもかかわらず離職につながるケースが多いのは、育児と介護だろう。貴重な人材が育児・介護で離職することになれば、会社にとって大きな痛手となる。

最近では、女性はもちろん男性社員の育児休業取得を求める声が高まっている。この場合の課題は、その間の業務を代替する人材の確保だ。定型的な事務作業であればパート社員・派遣社員に任せることが可能だが、専門性や属人性の高い仕事は、他の社員が代替するのが難しくなる。中小企業において男性社員の育児休業取得がなかなか進まない要因の1つと考えられる。

この状態を放置すると、せっかく育児休業制度を取り入れても、絵に描いた餅になってしまう恐れがある。育児参加を望んでいる男性社員を想定して、まずは時間単位有給休暇や短時間勤務などを取り入れていくのが現実的な方法といえる。

介護休暇・介護休業については、まだ育休ほど浸透していないようだ。厚生労働省「雇用動態調査」によると、看護・介護を理由とする離職者は2015年に年間9.3万人に達し、直近10年間で2倍となった。介護休暇では年間5日、介護休業では通算93日まで認められているが、育児と違って終わりの見えない介護では十分とはいえず、介護離職を選ばざるを得ないケースも多いと推定される。上述の育児休業の場合と同様、介護を想定した時間単位有給休暇や短時間勤務を取り入れたり、費用補助や融資制度などを設けたりすることで、不本意な介護離職を防ぎたい。

2.健康経営の観点で考える

健康経営(Health and Productivity Management)は、従業員の健康管理や健康増進に取り組むことで生産性向上を図る経営手法のことである。米国で1990年代に提唱され、日本でも2010年代半ばより大きな注目を浴びるようになった。企業価値や投資の判断材料ともなるため、大企業ではこれを経営戦略と捉えて積極的に取り組むケースも多い。中小企業にとっては就活生に対する格好のアピールになる。

福利厚生を考えるうえでも、健康経営の観点は参考になる。具体的には、定期健康診断の受診率100%の実現、スポーツジムの利用補助、ストレスチェック制度、メンタルヘルスやウェルネス研修などだ。ただ、運動を好まない従業員に強制するのは好ましくない。嗜好の分かれるテーマについては経営陣の価値観を押しつけることのないように注意したい。

3.福利厚生ニーズの多様化に効率的に対応する

近年の福利厚生の課題の一つは、従業員の価値観同様、福利厚生に対するニーズも多様化していることである。画一的な福利厚生を提供していると、利用する従業員と利用しない従業員が出てしまうため、費用のムダが生じ、従業員の満足度も高まらない。

そのための対応策として挙げられるのが「カフェテリアプラン」だ。福利厚生のメニューを複数用意し、各従業員が好みにあったものを自由に選べる仕組みだ。従業員は自分に与えられた持ち点(ポイント)の範囲内で選ぶので、企業側としては福利厚生予算の総額を管理しやすい。従業員としても、自分のニーズに合致したメニューを選べる良さがある。結果的に費用のムダを抑えることができる。中小企業が導入する場合、カフェテリアプランの代行サービスを利用するのが早道だ。

なお、カフェテリアプランを導入し、せっかくの福利厚生メニューを複数用意しても、利用されないのでは意味がない。利用度をチェックし、明らかに利用されていないものは廃止して、新しいメニューを取り入れていくことが必要だ。

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