経営ハンドブック

コスト削減の仕方

「細分化」「単位化」でムダ・ムラ・ムリをあぶり出す

企業経営では、売り上げを伸ばす一方で、原価や経費などのコスト削減もしていかなければならない。材料費や人件費の値上がりをそのまま価格に転嫁することは難しいからだ。コスト削減で財務体質を改善しておくことで、不況期で売り上げが一時的に落ち込んだとしても資金面で耐えることができる。ここでは、中小企業のコスト削減のポイントを解説する。

財務体質を改善するコスト削減3つのポイント

  1. ABC(活動基準原価計算)でコストを把握する
  2. 「ダラリの法則」でコスト削減対象を見つけ出す
  3. コスト削減に伴う士気低下に注意する

1.ABC(活動基準原価計算)でコストを把握する

企業がコスト削減を考えるとき、その前提条件は、「どの業務に、どの程度のコストがかかっているのか」「そのコストは適正であるか」を明らかにすることだ。コストについては、直接コストは管理できていても、間接コストが見える化できていない企業が多い。この間接コストの把握と管理を行うための手法の1つに「ABC」がある。これは「Activity Based Costing」の頭文字を取ったもので、日本語では「活動基準原価計算」という。

間接コストは、売上高や生産数量などを基準として、製品やサービスに按分するケースが多い。この方法では、製品やサービスごとの正確な間接コストが分からない。それに対しABCは、製品やサービスごとの間接コストを、できるだけ正確に計算するための方法である。

具体的には、ABCでは間接コストを、アクティビティ(活動)単位に分割する。
このアクティビティがどれだけリソース(資源)を消費するかを、「リソース・ドライバー」で設定する。これでアクティビティ単位のコストが計算できる。さらに、製品やサービスがアクティビティをどれだけ使うかを、「アクティビティ・ドライバー」で設定する。この方法により、製品やサービス単位の間接コストを、より正確に計算できるようになる。

実際の企業活動は営業、製造、販売など広範にわたる。すべての活動にABCを導入すると、頓挫してしまうことがある。業務を細分化してコストを算出するのは手間がかかるためだ。

従って、目標達成のために必要な分野から着手することが大切になる。ABC導入の推進に当たっては、現場に加えて総務部・経理部・人事部などから人選し、プロジェクトチーム(メンバーはリーダー、分析担当者など)を編成して臨むことも重要になる。

2.「ダラリの法則」でコスト削減対象を見つけ出す

現場でコストダウンを実践するには、「ムダ」「ムラ」「ムリ」を見つけ出して改善していくことがポイントとなる。ここでいう「ムダ」「ムラ」「ムリ」は次のように定義できる。

ムダ

時間や労力、経費などを本来必要のないものに利用している状態

ムラ

ムダとムリがばらつきながら発生している状態

ムリ

目標達成に必要な時間や労力、経費などが不足している状態

この3つの語尾を取って、「ダラリの法則」と覚えておくといいだろう。この視点を意識して、現場を見直すと、改善ポイントが見えてくるはずだ。

顕在化した「ムダ」「ムラ」「ムリ」を解消するには、「止める」「減らす」「変える」の3つで考える。販売管理費のコストダウンを例に説明しよう。

「止める」とは、対象となる業務活動などの費用の発生要因となる活動自体を止めること。例えば、新聞図書費であれば「雑誌の購入をやめる」などを検討する。「減らす」とは「止める」ことのできない業務活動などについて、その回数などを「減らす」こと。例えば、会議は重要な経営活動であり、ゼロにはできない。しかし、毎週の会議を隔週に「減らす」ことで会議開催に伴う支出費用は削減できる。そして、「変える」は、よりコストのかからない方法などに「変える」こと。例えば、地代家賃の場合は「より安い物件に借り換えを行う」ことが考えられる。

3.コスト削減に伴う士気低下に注意する

現状を改善するためのコスト削減には、多少なりとも痛みが伴うものだ。そのため、現場レベルで不平不満が生じることは容易に想像できるし、モチベーションが下がってしまうことも起こり得る。

従って、強権的に一律のコスト削減を行うことは得策でない。各部門におけるコスト削減で生じる負荷が均一化するように目を配る必要がある。「自部門だけが無理を強いられている」といった不満を生じさせないためだ。

コスト削減に当たって、財務諸表(特に損益計算書)や事業計画の数値を「細分化」「事業部単位化」「月次単位化」し、実績数値を出して従業員にも実態を把握してもらうのも有効な手だ。こうした数値の裏付けを踏まえて、コスト削減を一緒に進めていくことが可能になる。

経営者は従業員に対して、設定目標は公平であり、その目標には根拠があることを数値で示して納得するまで説明することが求められる。

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