2026年 10月 5日

2019年から順次施行された「働き方改革関連法」により、労働時間・年次有給休暇・同一労働同一賃金をめぐるルールが大きく変わりました。さらに、パワーハラスメント防止措置が中小企業にも義務化されるなど、人事・労務に関する法律は近年急速に整備が進んでいます。「以前からこのやり方でやっている」という慣行が、今では法律違反になっているケースも少なくありません。

本稿では、中小企業の経営者・人事担当者がまず確認しておきたい6つのテーマ(時間外労働の上限規制、裁量労働制の見直しと変形労働時間制、年次有給休暇の取得義務化、同一労働同一賃金、解雇・整理解雇の要件、ハラスメント防止の義務化)を、法的根拠と実務対応のポイントとともに解説します。末尾の対応チェックリストも、自社の現状点検に活用してください。

1.時間外労働の上限規制

労働基準法が定める法定労働時間は、休憩時間を除いて1日8時間・週40時間です(労働基準法32条)。これを超えて労働させる場合には、労使間で時間外・休日労働に関する協定(いわゆる「36協定」)を締結し、労働基準監督署長に届け出なければなりません(労働基準法36条)。なお、常時10人未満の労働者を使用する商業・接客娯楽業・映画演劇業・保健衛生業については、週44時間の特例が設けられています(労働基準法40条・同法施行規則25条の2)。

かつて36協定さえ締結すれば時間外労働に法律上の上限はありませんでしたが、働き方改革関連法により罰則付きの上限が設けられました。2019年(大企業)、2020年(中小企業)に順次導入され、さらに2024年4月からは、それまで猶予されていた建設業、運送業(ドライバー)、医師などの業種についても適用が開始されました。これにより、現在は原則としてすべての業種において上限規制を遵守する必要があります。

原則として、時間外労働は月45時間・年360時間を超えられません。これを超えて残業させる場合は、36協定の締結・届出が必要です。

さらに、臨時的な特別の事情がある場合に限り、あらかじめ「特別条項付き36協定」を締結・届出することで、月45時間を超える時間外労働が認められます。

ただし、この場合でも以下の上限を超えることはできません。

  • 年720時間以内
  • 単月100時間未満(休日労働含む)
  • 複数月(2〜6か月)の平均がすべて80時間以内(休日労働含む)
  • 月45時間を超えられるのは年6か月まで

これらに違反した場合、「6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金」という刑事罰が科せられる可能性があります。

実務上のポイント
  • 36協定の内容が現行の上限規制に適合しているか確認する
  • タイムカード・勤怠システムで実労働時間を個人別・日別に正確に把握する
  • 管理職(管理監督者)であっても深夜労働の割増賃金や、休日労働・過度な長時間労働に対する健康確保措置が必要となる
上限規制の運用見直し(2026年9月〜)

2026年9月1日から、労働基準監督署による監督指導の運用が見直されました。ただし、月45時間・年360時間などの法律上の上限規制そのものが緩和されたわけではありません。

月45時間を超える時間外労働が一定の条件の下で認められる「特別条項付き36協定」について、これまでは月45時間以内への削減を求める一律の指導が行われるケースがありました。今回の見直しにより、時間外・休日労働時間数のみに着目して一律に削減を求めるのではなく、36協定で定めた健康・福祉確保措置(たとえば、残業が増えた従業員への医師による面接指導など)が実際に機能しているかどうかを重点的に確認する運用となりました。

なお、今回の見直しは「残業をさせやすくなった」ということではありません。引き続き上限規制を守り、長時間労働の抑制と従業員の健康確保に努めるとともに、厚生労働省などの公式情報を確認し、最新の実務対応を把握しておきましょう。

2.裁量労働制の見直しと変形労働時間制

(1)裁量労働制の見直し(2024年4月施行)

業務の性質上、業務の具体的な遂行方法や時間配分を労働者の裁量に委ねる必要がある業務については、「裁量労働制」の下で実際の労働時間にかかわらず一定時間労働したものとみなすことができます。裁量労働制には、研究開発やシステムエンジニア、デザイナー、記者などが対象の「専門業務型」と、事業の運営に関する事項についての企画・立案・調査・分析業務が対象の「企画業務型」の2種類があります。

2024年4月の改正では、両制度において新たに本人の同意が必要となりました。同意しないことを理由とする不利益取扱いは禁止されており、本人が同意を撤回できる仕組みの整備も義務付けられています。また、「名ばかり裁量」(※)による長時間労働を防ぐため、健康・福祉確保措置の強化も求められています。

※裁量労働制は「時間ではなく成果で評価する制度」として導入されるケースがありますが、実際には長時間労働の温床になるケースも指摘されています。制度の適正な運用が求められます。

(2)変形労働時間制

季節や期間による業務の繁閑差が大きい場合、一定期間の労働時間の平均が週40時間以内であれば1日8時間を超える労働を認める「変形労働時間制」が活用できます(労働基準法32条の2・4・5)。1週間単位・1か月単位・1年単位のものがあります。変形労働時間制を採用する場合でも、時間外労働の上限規制との組み合わせで運用する必要があります。

3.年次有給休暇の取得義務化

従業員が6か月間継続して勤務し、全労働日の8割以上出勤した場合、会社は10日間の年次有給休暇を付与しなければなりません(労働基準法39条)。その後、全労働日の8割以上の出勤が続く限り、1年ごとに付与日数が加算され、最長20日間まで付与されます。

2019年4月の改正により、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、使用者は年5日以上の年次有給休暇を取得させる義務を負うことになりました(労働基準法39条7項)。労働者が自ら取得した日数が5日に満たない場合には、使用者が時季を指定して取得させなければなりません。違反した場合、30万円以下の罰金が科せられます(労働基準法120条1号)。なお、この罰金は対象となる労働者1人につき科される可能性があるため、対象者が多いほど実務上のインパクトは大きくなります。

実務上のポイント
  • 社員ごとの付与日数・取得日数・残日数を年間で個人別に管理する
  • 年度末に5日未満の取得にならないよう、年度途中でも取得状況を確認し、必要に応じて時季指定を行う
  • パートタイム労働者にも週所定労働日数に応じた比例付与があり、一定日数以上の付与を受ける場合は同様の取得義務が生じる

4.同一労働同一賃金

正規雇用労働者と非正規雇用労働者(パートタイム・有期雇用・派遣労働者)の間の不合理な待遇差を禁止する「同一労働同一賃金」の原則が、2020年(大企業)・2021年(中小企業)に施行されました(パートタイム・有期雇用労働法・労働者派遣法の改正)。

基本給・賞与・手当・福利厚生など、あらゆる待遇について、職務内容・責任の程度・配置変更の範囲・その他の事情を考慮した上で、不合理な待遇差を設けることが禁止されています。また、非正規雇用労働者から待遇差の理由について説明を求められた場合、使用者はその内容を説明する義務を負います。「正社員だから賞与・退職金がある」という慣行も、合理的な理由を説明できない場合には法的なリスクとなります。

実務上のポイント
  • 基本給・賞与・手当・福利厚生を正規・非正規で比較し、差異の一覧を作成する
  • 差異については、職務内容・責任の程度・配置変更の範囲などを根拠として説明できるよう文書化しておく
  • 非正規雇用労働者から待遇差の理由について説明を求められた場合の対応フローをあらかじめ整備しておく

5.解雇・整理解雇の要件

会社が従業員を解雇する場合には、原則として少なくとも30日前に解雇の予告をするか、30日分の平均賃金(予告手当)を支払わなければなりません(労働基準法20条)。さらに、解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、その解雇は権利を濫用したものとして無効となります(労働契約法16条・解雇権濫用法理)。また、次のような解雇は法律で禁止されています。

  • 業務上の負傷・疾病による休業期間中およびその後30日間の解雇
  • 産前産後休業期間中およびその後30日間の解雇
  • 労働者の国籍・信条・社会的身分を理由とした解雇
  • 育児・介護休業の申し出または取得を理由とした解雇
  • 労働基準法違反を労働基準監督署等に申告したことを理由とした解雇

長期的な経営悪化による人員削減(整理解雇)は、判例上、次の4つの要件(要素)が総合的に考慮して判断されます。これらの要件(要素)を欠く整理解雇は無効とされる可能性があります。

(1)人員削減の必要性

会社の経営が危機に瀕しており、人員削減が事業運営のために真に必要であること。

(2)解雇回避努力

希望退職の募集・配置転換・新規採用中止・残業削減など、解雇を回避するための措置を尽くしていること。

(3)人選の合理性

整理解雇の対象者を選定する基準が客観的かつ合理的であり、その基準に沿って適正に選定されていること。

(4)手続きの妥当性

労働組合や従業員に対し、整理解雇の必要性や対象者の選定基準などについて、十分かつ誠実な説明・協議を行っていること。

6.ハラスメント防止の義務化

(1)パワーハラスメント防止(2022年4月・中小企業義務化)

労働施策総合推進法の改正により、職場のパワーハラスメント(パワハラ)防止措置が、2020年(大企業)・2022年4月(中小企業)に義務化されました。パワハラとは、1.職場において優越的な関係を背景として、2.業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動によって、3.労働者の就業環境が害されることをいいます。会社には相談窓口の設置・行為者への対応・プライバシー保護・不利益取扱いの禁止などの措置を講じる義務があります。違反した場合は企業名が公表される場合があります。

(2)セクシュアルハラスメント・マタニティハラスメント・パタニティハラスメント防止

男女雇用機会均等法11条は、職場のセクシュアルハラスメント(セクハラ)防止のための措置を会社に義務付けています。2019年の改正により、セクハラ相談を行った労働者に対する不利益取扱いの禁止が明確化されました。また、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント(マタニティハラスメント・パタニティハラスメント)についても、男女雇用機会均等法11条の3・育児介護休業法25条に基づく防止措置が義務付けられています。

実務上のポイント
  • 社内または外部(社労士・弁護士等)に相談窓口を設け、従業員に周知する
  • 就業規則にハラスメントの禁止・対応手順・懲戒処分の規定を明記する
  • 管理職を含む全従業員を対象にハラスメント防止研修を定期的に実施する

今すぐ確認!対応チェックリスト

以下の項目をもとに、自社の労務管理の状況を確認してみましょう。

【労働時間管理】

  • 36協定を締結・届出しており、内容が現行の上限規制(月45時間・年360時間)に適合している
  • 実際の労働時間を個人別・日別に正確に記録・管理している
  • 時間外労働が上限を超えている社員がいないか定期的に確認している

【裁量労働制】

  • 裁量労働制を採用している場合、本人の同意取得と同意撤回の仕組みを整備している

【年次有給休暇】

  • 年10日以上の年次有給休暇が付与される社員の取得状況を個人別に管理している
  • 年5日未満の取得にならないよう、取得促進の仕組みがある

【同一労働同一賃金】

  • 正規・非正規の待遇差を一覧化し、差異の合理的理由を説明できる状態にある
  • 非正規雇用労働者から待遇差の説明を求められた場合に対応できる準備がある

【解雇】

  • 解雇・整理解雇の要件を満たす場合に限り、解雇・整理解雇を実施している

【ハラスメント防止】

  • パワハラ・セクハラ・マタハラの相談窓口を設置し、従業員に周知している
  • 就業規則にハラスメント防止規定を明記している
  • 管理職を含む全従業員向けの研修を実施している

労務管理に関するご相談は、各都道府県の「労働局・労働基準監督署」または「社会保険労務士」にご相談ください。厚生労働省の「働き方改革特設サイト」にも実務資料が充実しています。

監修

クルーシャル法律事務所
代表弁護士 山下 諒