2026年 11月 2日
2020年に施行された民法の大改正により、取引における「時効」「金利」「保証」のルールが大きく変わり、さらに2027年3月31日には電子交換所における約束手形・小切手の交換が終了し、「手形・小切手機能の全面的な電子化」は大きな節目を迎えます。また、2026年1月に施行された「取適法」(旧下請法)により、対象となる取引では手形による支払が禁止されています。これまでの契約書・取引慣行をそのまま使い続けると、知らないうちに不利な条件を受け入れてしまったり、必要な保護を受けられなくなったりする可能性があります。
本稿では、中小企業の経営者・取引担当者がまず確認しておきたい5つのテーマ(消滅時効の統一、法定利率の変動制、個人保証の保護強化、手形廃止と代替手段、取引先倒産への対応)を、変更点と実務対応のポイントに絞って解説します。
1.消滅時効の統一(2020年民法改正)
売掛金などの債権には、一定期間が経過すると権利を行使できなくなる「消滅時効」があります。2020年の民法改正前は、債権の種類によって時効期間が異なり、たとえば商事債権は原則5年、医師の診療報酬や工事の請負代金などは1〜3年といった「職業別の短期消滅時効」が数多く存在し、非常に複雑でした。
改正後は、これらが整理・統一されました。原則として、消滅時効は次のいずれか早い方で完成します。
-
権利を行使できることを知った時から5年
-
権利を行使できる時から10年
通常の売買代金請求権などは債権者が支払期日を当然に把握しているため、「権利を行使できることを知った時」は通常は支払期日となり、支払期日から5年で時効が完成することになります。旧法の「短期消滅時効」は廃止されましたので、業種によって時効期間が異なるという複雑さは解消されています。なお、2020年4月1日より前に発生した債権や、同日より前に締結された契約に基づいて発生した債権には、原則として改正前の時効期間が適用されます。
実務上のポイント
-
売掛金などの債権は「5年」を基準に時効管理を行う(なお、請求書・契約書などの書類の保存期間は、法人税法上、原則7年とされている点に注意)
-
古い債権を放置している場合、時効完成前に督促・内容証明の送付などの対応を検討する
-
時効の完成を猶予・更新する方法として、「催告」(6か月間時効の完成を猶予)のほか、書面による「協議を行う旨の合意」(1回で最長1年間時効の完成を猶予し、合意を繰り返すことで通算最長5年間まで猶予できる)といった制度も新設されている
-
取引先から「債務確認書」を取得するなど、債務者が債務の存在を認める「承認」があった場合は、時効が更新され、その時点から改めて時効期間が進行する
2.法定利率の変動制への移行
契約で利息や遅延損害金の利率を定めていない場合に適用される「法定利率」についても、大きな変更がありました。旧法では、民法上の法定利率は年5%の固定でした(商行為によって生じた債務には商法により年6%の商事法定利率が適用)。改正後は、商事法定利率が廃止され民法の法定利率に一本化されたうえで、年3%からスタートし、3年ごとに市中の金利動向に応じて見直される「変動制」に移行しています。
法定利率は、契約に利率の定めがない場合の遅延損害金の算定や、将来の損害賠償額を現在の価値に引き直す際の「中間利息控除」の計算などに用いられます。固定5%から変動制(2026年4月〜2029年3月は年3%)に変わったことで、これらの算定結果にも影響が生じます。
実務上のポイント
-
既存の契約書で遅延損害金の利率を「法定利率による」としている場合、現在の利率(3%)を前提に金額を見積もる(遅延損害金に適用される法定利率は、支払が遅れた時点の利率で固定され、その後に法定利率が変わっても変動しない。また、2020年3月31日以前に支払遅延が生じている債権には、旧法の利率〔年5%・商事年6%〕が適用される)
-
取引先との契約書を新たに作成・更新する際は、遅延損害金の利率を契約で明記しておくと、将来の利率変動に左右されず予見可能性が高まる
3.個人保証の保護強化
中小企業が金融機関から融資を受ける際や、取引先との継続的な取引を始める際には、経営者や第三者が「保証人」となることが一般的です。2020年の民法改正では、特に個人が保証人となる場合の保護が大幅に強化されました。
(1)個人根保証契約の極度額の明確化
将来発生する不特定の債務を包括的に保証する「根保証」について、個人が保証人となる場合には、保証の上限額(極度額)を契約書に定めなければ、その契約は無効となります(民法465条の2)。「いくらでも保証する」という内容の契約は、個人を保証人とする限り認められません。
(2)事業用融資等における第三者保証の特則
事業のために負担した貸金等債務(借入金など)について、経営者以外の第三者(親族や知人など)が個人で保証契約・根保証契約を結ぶ場合には、契約締結の日前1か月以内に、保証人になろうとする者が公証人の作成する公正証書(保証意思宣明公正証書)で保証の意思を確認していなければ、保証契約は無効となります(民法465条の6)。次の者は、この規制の対象外です。
◎主たる債務者が法人の場合
・理事・取締役・執行役など(これらに準ずる者を含む)
・議決権の過半数を有する株主など
◎主たる債務者が個人事業主の場合
・その共同事業者
・その事業に現に従事している配偶者
なお、この公正証書の規制は融資(貸金等債務)の保証が対象であり、売掛金・買掛金などの取引上の債務の保証には適用されません。
(3)主たる債務者の情報提供義務
事業のために負担する債務(融資に限らず、取引上の債務も含みます)について個人に保証人を依頼する場合、依頼する側(主たる債務者)は、自らの財産・収支の状況、ほかの債務の有無や返済状況、担保の内容などの情報を、保証人になろうとする者に提供しなければなりません。情報が提供されなかったり、事実と異なる情報が提供されたりして保証契約が結ばれ、債権者がそのことを知っていた、または知ることができた場合には、保証人は保証契約を取り消すことができます(民法465条の10)。取引先の債務について個人保証を取る側も、この点に注意が必要です。
実務上のポイント
-
代表者など個人が自社の債務について金融機関等と結んでいる根保証契約(個人根保証契約)に、極度額が明記されているか確認する
-
親族や知人に融資の保証人を依頼する予定がある場合は、公正証書の作成が必要になることを把握しておく
-
取引先の債務について個人を保証人とする場合は、取引先から保証人に財産状況等の情報が提供されているかを確認し、その旨を書面に残しておく
-
経営者保証については、別途「経営者保証に関するガイドライン」に基づき、保証を求めない融資への切り替えが進められている
4.手形・小切手の交換廃止と代替手段(2027年3月31日)
長年、中小企業間の決済手段として利用されてきた約束手形・小切手は、政府・全国銀行協会の方針により、2027年3月31日に電子交換所での取扱いが終了します。手形そのものが法律で一律に禁止されるわけではありませんが、2027年4月1日以降は電子交換所を介さず、各金融機関の間で郵送等による個別の決済を行うことになるため、金融機関の判断により手形・小切手の取扱いが縮小・終了される可能性があり、従来どおりの利用は難しくなると見込まれます。手形を受け取る側にとっては「支払期日まで資金化できない」「不渡りのリスクを抱える」という負担があり、支払う側にとっても振出・印紙税などのコストがかかっていました。
また、交換終了に先立ち、多くの金融機関では、支払のための手形・小切手の最終振出期限や、他の金融機関を支払地とする手形・小切手の入金受付の終了日を2026年9月30日に設定するなど、取扱いの縮小がすでに進んでいます。具体的な期限は金融機関ごとに異なるため、取引金融機関への確認が必要です。
さらに、2026年1月1日に施行された「中小受託取引適正化法(取適法、旧下請法)」により、同法の対象となる取引では、施行日以降に発注されたものについて手形による代金の支払が一律に禁止されました。電子記録債権や一括決済方式(ファクタリング等)による支払であっても、支払期日までに代金の満額を現金化することが難しいものは、支払遅延として禁止されます。国は、取適法の対象とならない取引も含め、サプライチェーン全体で支払手段の適正化に取り組むよう要請しています。
廃止後の代替手段としては、主に次のものが想定されています。
-
銀行振込:支払期日に銀行間で資金を移動する、最も基本的な方法
-
電子記録債権(でんさい):手形と同様に債権を分割・譲渡できる電子的な仕組みで、印紙税が不要
-
ファクタリング:保有する債権を期日前に金融機関等に譲渡し、早期に資金化する方法
実務上のポイント
-
現在手形払いを行っている場合は、取引先ごとに支払サイト・支払方法の見直しを早めに協議する
-
自社が取適法の対象取引の発注者(委託事業者)にあたる場合、手形払いは禁止されているため、電子記録債権等で支払う場合も、支払期日までに満額を現金化できる条件になっているかを確認する
-
取引金融機関における手形・小切手の振出期限・入金受付期限を確認する
-
電子記録債権(でんさい)を利用するには、自社・取引先双方が「でんさいネット」に参加している必要があるため、利用可否を確認する
-
手形払いから振込等に変更する場合、資金繰り(支払タイミングの変化)への影響を事前に検証する
-
ファクタリングについては、近年、ファクタリングを装った高金利の貸付を行うヤミ金融業者の存在が確認されているため、注意が必要
5.取引先倒産への対応
取引先の経営状況が悪化した場合、自社の売掛金が回収できなくなるリスクが生じます。早期に異変を察知し、適切な保全策を講じることが重要です。特に手形・小切手の電子交換所の交換廃止後は、これまで取引先の信用不安を示す代表的なシグナルだった「手形の不渡り」だけに頼らず、支払状況や決算内容の変化など、ほかの手がかりから異変を察知する必要があります。なお、電子記録債権(でんさい)にも、6か月以内に2回の支払不能が生じると取引停止処分となる、手形の不渡処分と同様の仕組みがあります。
(1)危機察知時の保全策
-
支払の遅延や支払期日の延期(手形のジャンプなど)の申し出があった場合は、追加担保の差し入れや債務確認書の取得を検討する
-
既存の債権と取引先に対する債務(買掛金等)がある場合、相殺が可能か確認し、必要な手続きを早めに検討する。
(なお、取引先の支払停止や法的整理手続きの申立てを知った後に取得した債権・負担した債務などは、相殺が禁止される場合がある。また、民事再生手続きでは、債権届出期間内に相殺の意思表示をする必要がある) -
新規取引・追加納品については、当面見合わせるなど取引条件の見直しを行う
(2)法的整理手続きが開始された場合
取引先について破産・民事再生などの法的整理手続きが開始されると、原則として個別の債権回収(督促・差押え等)はできなくなります。破産手続きでは、配当に回せるだけの財産(換価して債権者への配当に充てられる財産)がなく、配当が行われないまま手続きが終了するケースも少なくありません。会社の資産があった場合にはそれを換価処分して債権者に配当されますが、債権の全額を回収できるケースは多くありません。一方、民事再生手続きでは、会社が事業を継続しながら再建計画(再生計画)を策定し、計画に基づいて段階的に債権が支払われる仕組みとなっています。
自社が保有する債権については、手続き開始後に裁判所が定める期間内に「債権届出」を行う必要があります。届出を怠ると、その債権について手続き内での権利行使ができなくなる可能性があるため、注意が必要です。なお、民事再生計画によって債権が段階的に支払われる場合でも、弁済の内容は個々の再生計画によって定められ、債権の大幅な免除(カット)を伴うことが多いため、その点には留意が必要です。
実務上のポイント
-
主要取引先の決算状況や支払状況に変化がないか、定期的にモニタリングする
-
取引先について法的整理手続きの開始が判明した場合、裁判所からの通知を確認し、債権届出の期限を必ず確認する
-
今後の取引継続の可否は、再生計画の内容や取引先の事業継続性を踏まえて判断する
今すぐ確認!対応チェックリスト
以下の項目をもとに、自社の取引実務の状況を確認してみましょう。
【消滅時効】
-
古い未収金について、時効完成(原則5年)が近いものがないか確認しているか
【法定利率・契約書】
-
契約書の遅延損害金条項を確認し、必要に応じて利率を明記しているか
【個人保証】
-
個人根保証契約に極度額が定められているか確認しているか
-
第三者に融資の保証人を依頼する場合、公正証書が必要となる場合があることを把握しているか
-
個人の保証人を取る際、主たる債務者から保証人への情報提供の有無を確認しているか
【手形・決済】
-
手形払いを行っている取引先について、振込・でんさい等への切り替えを協議しているか
-
でんさいネットへの参加状況を確認しているか
-
取適法の対象取引で、手形払いや、支払期日までに満額を現金化できない電子記録債権等での支払をしていないか
-
取引金融機関の手形・小切手の取扱い期限を確認しているか
【取引先倒産対応】
-
主要取引先の経営状況を定期的にモニタリングする仕組みがあるか
-
取引先の法的整理手続き開始時の対応フロー(債権届出等)を把握しているか
取引・契約に関するご相談は、最寄りの弁護士会の法律相談窓口や、各地の商工会議所・中小企業活性化協議会、よろず支援拠点にご相談ください。
監修
新麹町法律事務所
弁護士 豊浜 由行









