2026年 7月 15日

企業経営を行ううえで、法律の遵守は必要不可欠です。資本金の規模にかかわらず、企業には法律を守る責任があり、中小企業であっても「知らなかった」では罰則や損害賠償責任を免れられないことがあります。特に会社法は、代表取締役や取締役の権限、会社の意思決定、役員の責任など、会社運営の基本を定める重要な法律です。社長、代表取締役、取締役、部長・課長といった役職の違いを正しく理解していないと、取引先との契約や社内決裁をめぐって思わぬトラブルにつながることがあります。

本稿では、中小企業の経営者・経営幹部が押さえておきたい会社法の基礎として、代表取締役、取締役、部長・課長の権限と責任、近年の会社法改正のポイントを整理します。

1.代表取締役と社長の違い

「社長が会社の代表者」というのは広く知られていますが、会社法に「社長」についての規定はありません。社長という名称は法律によって定められたものではなく、会社内部において定款などによって定めた呼称にすぎません。会社法では、対内的にも対外的にも会社を代表する権限があるのは「代表取締役」(取締役会がない会社で、代表取締役を定めていない場合は取締役)と定められています。

では、代表取締役と社長は実質的に同じでしょうか。代表取締役は取締役の中から選ばれますが、員数に特に制限はありません。一方、社長は会社に1人です。代表取締役が数人いる場合には、会長・副社長・専務・常務取締役なども代表取締役になっている場合があります。通常、社長は代表取締役を兼ねていますが、代表取締役が社長であるとは限りません。

2.代表取締役の権限と会社が責任を負う場合

代表取締役の選任方法は、取締役会を設置しているかどうかによって異なります。取締役会設置会社では、取締役の過半数が出席した取締役会において、出席取締役の過半数の決議によって選任されます。取締役会を設置していない会社では、定款、定款の定めに基づく取締役の互選、または株主総会の決議によって代表取締役を定めることができます。いずれの場合も、選任された代表取締役は、法務局の商業登記簿に登記しなければなりません。

代表取締役は会社を代表する権限を持ち、会社の業務を執行します。取締役会設置会社では、重要な業務執行については取締役会の決議を経る必要がありますが、日常的な業務については代表取締役が広く権限を持っています。

代表取締役の行為と会社の責任

代表取締役は、会社の業務に関する一切の裁判上・裁判外の行為をする代表権を有します。ただし、取締役会設置会社では、重要な業務執行については取締役会の決議を要するなど、会社内部の意思決定手続に服します。では、次のような場合、会社は責任を問われるでしょうか。

代表取締役が取締役会の決議に違反したり、権限を制限されていたにもかかわらずその制限を超えて第三者と取引を行った場合

代表取締役には会社を代表して取引を行う広い権限があるため、取引先がその内部的な制限を知らなかった場合には、会社は「この制限があるからその契約は無効だ」ということはできません。

一方で、取引先が、代表取締役の行為が会社内部の制限に反していることを知っていた場合や、必要な取締役会決議を経ていないことを知り得た場合には、会社は「その契約は無効だ」といえる余地があります。

 

代表取締役でないにもかかわらず、社長・副社長・専務取締役・常務取締役といった肩書を持つ人物を代表取締役と誤認して、第三者が取引をした場合

登記を確認すれば代表権の有無はわかりますが、取引のたびに確認することは実務上困難です。そのため、会社が代表権のない取締役に対し、社長、副社長、専務取締役、常務取締役など代表権があると誤解される肩書を与えている場合(このような取締役を「表見代表取締役」といいます)、その事実を知らずに取引した第三者に対して会社は責任を負わなければなりません(会社法354条)。

3.取締役の義務と損害賠償責任

取締役の員数と選任方法は、取締役会を設置するかどうかによって異なります。取締役会を設置しない会社(中小企業に多い形態)では、取締役は1名から設置が可能です。一方、取締役会を設置する会社では、3名以上の取締役を株主総会の通常決議によって選任しなければなりません。いずれの場合も、選任された取締役は法務局の商業登記簿に登記しなければなりません。

取締役の任期は原則2年です。ただし、非公開会社(株式譲渡制限会社)では、定款により最長10年まで延長することができます。中小企業の多くは非公開会社であり、任期を長く設定しているケースも少なくありません。また、中小企業では取締役が営業部長や経理部長を兼務する、いわゆる兼務取締役が一般的です。

取締役会設置会社では、取締役は取締役会に出席して経営・業務執行に関する方針などの決定に参画します。ただし、個々の取締役が当然に会社を代表したり業務執行を行う権限はなく、代表取締役や業務執行取締役がその役割を担います。一方、取締役会を設置しない会社では、各取締役が原則として業務執行の権限を持ちます(取締役が複数いる場合は、原則として過半数で業務を決定します)。

会社と取締役との関係は民法上の「委任」とされており、委任の本旨に従って「善良な管理者の注意をもって職務を処理」しなければなりません(善管注意義務:民法644条)。さらに会社法355条では「取締役は、法令および定款の定めならびに株主総会の決議を遵守し、会社のために忠実にその職務を執行する義務を負う」と定めています(忠実義務)。

この基本関係の下に、会社と取締役の間には次の具体的な義務が規定されています。

  • 競業避止義務(会社法356条・365条):自己または第三者のために会社の事業の部類に属する取引を行うには、取締役会設置会社では取締役会の承認を、取締役会非設置会社では株主総会の承認を得ること
  • 利益相反取引の制限(会社法356条・365条):自己または第三者のために会社と取引をするには、取締役会設置会社では取締役会の承認を、取締役会非設置会社では株主総会の承認を得ること
  • 報酬の決定(会社法361条):取締役の報酬を決めるには、定款の定めによるか、株主総会で決議すること

さらに取締役の責任として、会社法では次のことを定めています。

  • 対会社損害賠償責任(会社法423条1項):法令や定款に違反する行為をした場合、会社に対し損害賠償責任を負う
  • 利益相反取引と損害賠償責任(会社法423条3項):利益相反取引によって会社に損害が生じた場合、関与した取締役は責任を負うべき行為があったものと推定されます。特に取締役が「自己のために」会社と行った直接取引については、責任の免除に株主全員の同意が必要となるなど責任の範囲が一層厳格です(会社法428条)
  • 対第三者損害賠償責任(会社法429条):取締役が悪意または重大な過失によって第三者に損害を与えた場合、その第三者に対しても直接損害賠償責任を負う
  • 利益供与の禁止(会社法120条):会社は、株主の権利行使に関して財産上の利益(例えば、株主総会で特定の議案に賛成してもらう見返りの金銭など)を供与してはなりません。違反した場合、関与した取締役はその利益額を会社に返還する責任を負うことがあります。
  • 違法配当の責任(会社法462条):違法な剰余金の配当をした場合、取締役は連帯して会社に対し、違法に配当した金額を補填しなければならない

4.部長・課長など管理職の権限と会社の責任

会社法・商法では、部長・課長という役職について具体的な権限を規定していません。ただし会社法は「事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人は、当該事項に関する一切の裁判外の行為をする権限を有する。」と定めています(会社法第14条)。商法でも、「商人の営業に関する特定の種類または事項の委任を受けた使用人は、当該特定の種類または事項に関する一切の裁判外の行為をする権限を有する」と定めています(商法25条)。

※「裁判外の行為」とは、裁判手続ではなく、契約の締結、請求、支払い、通知など、会社の通常業務として行われる行為をいいます。ただし、部長・課長という肩書だけで当然にすべての契約権限が認められるわけではなく、会社から委任を受けた事項の範囲内で権限が認められます。

この規定に基づき、部長や課長には、通常、営業・経理・総務などの特定の事項について会社から委任を受け、その範囲においては特別な授権を受けなくても活動できる権限が与えられています。

では、次のような部長・課長の行為について、会社は責任を負うでしょうか。

部長・課長が与えられた権限の内部的制限を超えて行為した場合

会社内部で部長・課長の権限を制限することはできますが、その制限を知らない第三者にはその事実を主張することができません(会社法14条2項、商法25条2項)。したがって制限を知らない第三者には会社が責任を負うことになります。

部長・課長が権限のない行為をした場合

総務部長が権限なく借入契約を締結したような、委任された範囲の外にある行為については、会社法14条や商法25条の規定は適用されません。ただし、他の法律上の責任を負う可能性もあるため、慎重な検討が必要となります。

部長・課長が権限を濫用した場合

経理部長が自分の借金返済のためにリース契約や保証契約を締結したような権限濫用については、相手方がその事情を知っていた、または知り得た場合に限り、会社は責任を負いません。

なお、一般の従業員も含め、被用者が会社の事業の執行につき第三者に損害を与えた場合、会社が「使用者責任」(民法715条)を負う場合があることも、あわせて押さえておく必要があります。

5.中小企業が知っておきたい会社法改正のポイント

近年の会社法改正による新制度のうち、中小企業の経営者・役員が把握しておくべき主要なポイントを整理します。

(1)取締役の報酬規制の整備(会社法361条)

一定の会社では、取締役の個人別報酬内容についての決定方針を定めることが義務付けられました。非上場の中小企業には直接の義務は生じませんが、役員報酬の決定過程を透明化しておくことは後のトラブル防止につながります。

(2)役員等賠償責任保険(D&O保険)の整備(会社法430条の3)

取締役が職務上の判断ミスなどを理由に損害賠償を請求された場合に備える「役員等賠償責任保険(D&O保険)」について、一定の手続きを経ることで会社が保険料を負担できることが明確に規定されました。以前は法的根拠が不明確でしたが、会社法改正によって、適法に保険契約を締結できることが明示されています。なお、契約内容の決定には株主総会の決議(取締役会設置会社では取締役会の決議)が必要です。経営リスク管理の一環として導入を検討する価値があります。

(3)株主総会資料の電子提供制度(2022年9月施行)

上場会社には、株主総会資料をウェブサイトで掲載することが義務化されました。非上場の中小企業には義務はありませんが、任意で採用することが可能です。ペーパーレス化・事務負担軽減の観点から、今後の検討材料として知っておくとよいでしょう。

監修

松澤経営法律事務所 所長
松澤社会保険労務士事務所 所長
弁護士・社会保険労務士 松澤 功