2022年4月から中小事業主にもパワハラ防止措置が義務化されます。(第1回)~パワハラって何?どうしたらいいの?~

2021年12月15日

解説者

弁護士 前波裕司

本稿では、パワハラがいかに身近で、影響が大きい事柄か、起きる前の対策がとても大事であるということをお伝えしたいと思います。

1.パワハラは、全ての会社にありえる話で、皆さん自身の問題です。


【 パワハラなんて、そんなにあるのか。うちは関係ない。】

パワハラと聞いて、大多数の人は、こう思うことでしょう。しかし、複数の社員がいる限りにおいて、全ての会社においてパワハラは起こり得ますし、起こってもいます。

そもそも、パワハラは、管理職とその部下という上下関係だけでなく、力関係が異なる場面では、常に生じる危険があります。

パワハラ防止法において、パワハラとは、「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業関係が害されること」と定義されています。

「職場において行われる」とは会社の中という意味ではありません。職務や職場の関係性の中にある限り該当することになります。勤務が終わった後の上司との飲み会などは当てはまると思われます。

「優越的な関係を背景とした行動」とは上下関係ではなく、優位性を意味します。人事権などの職務権限が典型ですが、人脈、スキル、ノウハウ、専門性、集団、など優位性が生じる場面は多岐に渡ります。新入社員が結託して集団で上司に対抗する、PC操作に熟知した者が初心者に対応する、社交性の高い社員と人付き合いの苦手な社員など、優位性に基づくパワーがある場合にはパワハラの元となる関係性があるといえます。おしゃれな人脈を自慢しても当てはまりませんが、会社の重役につながる人間関係を示すような場合には該当することになります。

「業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより」とは、行為の必要性や相当性であり、全くのプライベートに関わる事柄や、執拗な要求などは明確に超えることになります。叱るという行為が適切な指導にとどまらず、行き過ぎた行為としてパワハラになるのもこの要件に関連します。個々の関係性による相対的判断という面がありますので、行為者がパワハラでないと思っていても、パワハラになることがあり、行為者が自覚を持ちにくく、自制や自覚だけでは防ぎきれないという困った現象を生み出します。個人的なことを執拗に聞いたり、怒鳴りつけたりする行為が該当することになると思われます。

「その雇用する労働者の就業環境が害されること」とは、被害の発生を意味しますが、個人に対する身体的・精神的ダメージだけでなく、職場環境の悪化なども就業環境を害したことになります。平均的な労働者の感じ方を基準としますが、職場での関係性もそれぞれですので、個別に客観的に判断されることになります。あの人は私と仲がいいから大丈夫だ、などと思っていると足元をすくわれることになりますし、就業環境の悪化は、見えにくい形で徐々に進んでいくため、気づいたら手遅れということになりかねません。直接関係していない同僚が、あの部署は雰囲気が悪いから居たくない、という感じになっていたら、就業環境は害されているといえるでしょう。

パワハラは、仕事場において、その人の自覚のないところでなされてしまうのが特徴で(自覚があったら大問題ですし、犯罪ものです。)、うちは関係ないという気持ちは何の意味も持ちません。パワハラの芽はすべての会社にあります。

厚労省のサイト(下記参照)によると、いじめや嫌がらせの相談件数は2007年に28335件だったのが、2019年には87570件と3倍にも増えています。同サイトは、他にもいろいろなデータがありますので、機会があればご参照ください。

2.パワハラが生じた場合、会社に相当に大きな影響が生じます。


【 パワハラがあったら、会社はどうなるのか。】

会社の責任の前提として、当事者は、傷害、暴行、脅迫、強要、名誉棄損、などの犯罪が成立することにより、刑事上の責任を負います。また、相手方当事者から訴訟を起こされて損害賠償請求を受けるといった不法行為などの民事上の責任を負います。

会社側も、使用者責任、労働契約の債務不履行、安全配慮義務違反、など民事上の責任を負うことになります。そして、それは労働災害として、労働基準監督署の対応なども必要になります。

パワハラの場合、加害当事者より会社が加害者として訴えられることが多く、単なる訴訟対応だけでなく、労基署も含めた非常に複雑な対応が要求されます。

法的責任だけでなく、会社内部や取引先への影響も見過ごせません。

加害当事者のパワハラ行為は、被害当事者だけでなく、周囲の社員も目にしていますし、人目につかないところで行われても、被害当事者の変化で周囲の社員も理解してしまいます。周りの社員は、自分がそうならないようにしよう、関わらないでおこう、など自分の身を守ることを考えますが、それは当事者との関わりを避けるだけでなく、あらゆることから距離を置こうという行動につながります。頑張って失敗してパワハラの的にされるくらいなら、何もしないでおこう、という考えにもつながります。周囲の社員がみなそのように考えている職場を想像してください。とても息苦しい職場になり、頑張ろうという気力を失います。生産性は著しく低下し、閉塞感が蔓延します。

パワハラが生じるということは、ブラック企業をいう印象を与えかねません。被害当事者保護や再発防止など、様々な理由から、一定の社内処分等がなされることになると思いますが、前向きな出来事ではなく、上述の生産性の低下や閉塞感は、社内に広がります。

取引先は、この会社大丈夫なんだろうか、と管理体制に疑問を持ちます。取引先は、断片的な情報で疑問を持ち、取引を続けていいか疑問を持ちますが、会社側にその疑問を払しょくする機会はあまりありません。うちはパワハラしてません、と取引先に説明する機会は乏しいし、ことさらに強調することはイメージ戦略としてマイナスに作用します。信用を作るためには長い時間と努力が必要ですが、失うときは一瞬です。

パワハラは、法的責任を生じさせるだけでなく、目に見えない形で相当に会社をダメにします。起こってから対応しても傷は残ります。もちろん、対応することは必要ですが、起こらないようにすることが何より大事です。

3.パワハラの生じにくい風通しのいい職場環境が大事です。


【 パワハラは、なぜ起こるのか、どうやったらなくせるのか。】

パワハラは、いろんな形があり一概に言えるものではありませんが、急に降って沸いたように生じるものではなく、ある程度の発生機序、メカニズムがあります。

基本的には、パワハラは、組織のストレス反応の一種ということが出来ます。職場の人間関係、過大な業務、成果不足、さまざまなストレスの発露の一つがパワハラということになります。

ストレスは、ある意味、頑張っている人や責任感ある人の特権です。頑張らない人や無責任な人はストレスも感じないでしょう。その意味において、ある程度のストレスが生じることはやむを得ないことといえます。家族、友人、趣味、様々な関係性によってストレスを解消できるのが健全ですが、頑張り過ぎたり責任を重くとらえすぎたり、解消しきれないストレスが溜まっていくこともあります。また、そのような解消は、対症療法ですので、原因が改善されない限り、ストレスが刷り込まれていきます。

大事なのは、原因の除去や解消ということになります。仕事が多すぎるのであれば仕事を減らすこと、成果不足であれば要求水準を下げること、などで原因を除去する必要があります。なお、職場の人間関係は断トツのストレス原因になっています。その解決はとても難しいことですが、基本的には、こうすべきなのにしない、わかるべきことがわからない、やってはいけないことを考えなしにする、など相手に対する期待感を前提に、その期待に反しているという判断により人間関係のストレスが生じているように思います。

ということは、その人の適切な仕事量、その人の達成可能な目標、その人が相手に期待していることなどが理解できて、それに対応することが出来れば、職場のストレスは相当になくすことが出来るでしょう。それは、その人の個性を理解し、会社の中での関係性を調整するということになりますが、そのためには個性をある程度表現できる環境があることや関係性を調整するための相互理解の機会があることが必要です。平たく言うと、風通しのいい職場環境ということになります。

未然にパワハラを防止するためには、風通しのいい職場環境を作ることが大事ですが、それは常に意識すべき努力目標という面もあり、完全な実現や維持ができるものではありません。ですので、その社内の風潮を第三者的に俯瞰で見てもらうことや、制度的なパワハラ防止策がどうしても必要になってきます。

弁護士は、紛争処理を通じて、紛争の原因や対応策、予防策について一定の知見を有しています。社内のガバナンスや、パワハラ対応策の構築など、皆様のお手伝いができる部分は相当にあります。また、パワハラが生じてしまった場合の対応も含め、弁護士の知見は企業経営にぜひ生かしていただきたいと思います。

以上

上記の通り、弁護士はハラスメントに関する相談をお受けしています。相談する弁護士がおられない中小企業経営者の相談へとつなげる窓口として、日弁連には、ひまわりほっとダイヤルが設置されております。 

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解説者

弁護士法人前波法律事務所 代表社員 弁護士 前波裕司