民法改正による新制度(第3回)- 契約不適合責任

2021年7月28日

解説者

弁護士 橋本阿友子

従来、民法では、「隠れた瑕疵」がある場合の売主の責任(瑕疵担保責任)が規定されていました。2020年4月1日に施行された改正民法では、この「瑕疵担保責任」に代わって、「契約不適合責任」が定められました。売主の責任は、「隠れた瑕疵」ではなく、契約において定めた品質を伴っていなかったり、数量が不足するなどといった、契約の内容に適合しないことについての責任として、見直されています。

1.前提-瑕疵担保から契約不適合へ

改正前民法では、売主には「隠れた瑕疵」についての責任が規定されていました。民法上、「瑕疵」の定義は明記されていませんでしたが、「瑕疵」とは「個々の契約の趣旨に照らせば目的物が通常有すべき性質・性能を欠いている」ことであると解されていました。買主としては、通常人ならば買主の立場におかれたときに容易に発見できなかったことがいえれば、売主の責任を追及することができました。

例えば、居住用に購入したマンションの一室が、雨漏りをした場合を想定してみましょう。売主・買主の認識としては、雨漏りしないという性質を備えていることを前提としたマンションの売買が行われているはずです。

「瑕疵」の判断として、「通常有すべき性質・性能」の「通常」といえるかは、当時者の合意だけではなく、「社会通念」の観点からも評価されます。このケースにおいて売買の目的物(マンションの一室)の「通常有すべき性質・性能」は、雨漏りをしないという性質と考えられます。

また、「隠れた」とは、瑕疵があることにつき買主が善意無過失であることをいうものと解釈されていました。つまり、雨漏りしていることを認識していたり、容易に認識できたの場合、雨漏りは「瑕疵」と考えられますが、「隠れた」瑕疵ではないので、買主は売主に対して瑕疵担保責任を追及できないということになります。

さらに、瑕疵担保責任は、その法的性質について争いがありました。法的性質のとらえ方(法定責任か、契約責任か)により、瑕疵担保により追及できる責任の範囲、具体的には損害賠償の範囲、代替物引渡請求や瑕疵修補請求などの追完請求権が認められるか、代金減額請求が認められるか、などの論点が生じていました。

法定責任説とは、瑕疵担保責任は、本来、特定物の売買では、売主は目的物をそのまま引き渡せば債務の履行としては充分であるところ、法があえて定めた責任であるとする見解です。契約責任説とは、売主は契約上瑕疵のない目的物を引渡す義務を負っていることを前提に、目的物に瑕疵がある場合には(瑕疵担保責任の定めがなくとも)債務不履行と評価できるところ、瑕疵担保責任は債務不履行の特則であるとする見解です。

この点、法定責任説と親和性があるとみられる裁判例などもありましたが、近時の学説は契約責任説が有力となっていました。改正にあたっては、契約責任説の立場から整理がなされています。

2.変更点-法定責任から契約責任へ

改正民法では、この「隠れた」、「瑕疵」という表現を削除し、売主の責任が発生する場合を「目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき」と明記しました(562条1項)。つまり、売主の責任は、売主と買主の間で合意された「売買契約の内容」に適合しないものを買主に引き渡すことに対する責任として、規定されています。また、買主の売主に対する追完請求権(562条)、代金減額請求権(563条)を明文化した上、債務不履行の一般法理の適用により解除権や損害賠償請求権がある旨も明記されました(564条で準用される541条・542条)。

条文上は、「瑕疵」という表現を意図的に削除し、売主の責任についての法的責任を契約責任であることが明確に表されていることから、「担保責任」という考え方は特別な意味を持たず、債務不履行責任へ一元化されたものと考えられます。

とはいえ、この契約不適合は従来の「瑕疵」とほぼ同様の概念と考えられます。ただし、民法改正前は「隠れた」瑕疵に対して責任を認めていましたが、改正後は、隠れていたか隠れていないかは問題とならないという違いがあります。

また、改正前は、数量の瑕疵と品質の瑕疵は別個に考えられていましたが、改正後は、契約適合性という共通のルールで位置づけられるようになりました。

3.改正後の制度

ここで改めて、改正民法の売主の責任を整理してみましょう。

(買主の追完請求権)
第五百六十二条 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。

契約不適合責任が生じるのは、「目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき」です。

ここで、<種類に関する契約不適合>とは、購入したものと違う種類の商品を間違って引き渡した場合、<品質に関する契約不適合>とは、商品が契約で予定されていた品質の基準を満たしていなかった場合、<数量に関する契約不適合>とは、引渡された数量が購入数量に不足する場合、と考えられます。

売主にこのような契約不適合責任が認められる場合に、買主がとり得る手段としては、以下のとおり規定されました。

売主に契約不適合責任が認められる場合に、買主がとり得る手段の表

以上の請求権は、契約責任説にたった場合、理論的にも認められる責任と考えられますが、改正民法では、これらを明記しました。

従来の瑕疵担保責任の追及にあたっては、契約の解除と損害賠償請求権が、買主にとって可能な手段でした。改正民法によってあらたに、追完請求と代金減額請求が追加されています。

追完請求とは、履行の追完、つまり、契約に適合しない履行があった場合に、契約に適合した履行を求める権利です。内容としては、修補請求・代替品引渡請求・不足分の引渡し請求ができる旨が明記されています。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完ができると定められており(562条1項但書)、例えば、代替品を引き渡さなくとも修補することによって完全な履行が可能であるという場合には、売主は修補によって追完することができると考えられます。また、前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができないとも定められています(532条2項)。

その上で、買主が相当の期間を定めて追完の催告をし、その期間内で履行の追完がないときは、買主は代金の減額を請求できます。契約不適合責任では、契約に適合する目的物を引き渡すことを求める権利がありますので、それに応じられない場合に、代金の減額を求めることができるのです。契約に適合するこの場合に減額できる額は、不適合の程度に応じた金額とされています。

また、従来の民法では、買主が契約を解除できるのは、「契約の目的を達成できない場合」に限られていました。つまり、「瑕疵」があっても、契約の目的を達成できる「瑕疵」であれば、解除までは認められていませんでした。契約不適合責任では、一般の債務不履行と同様、要件が備われば解除ができるという仕組みになっています。

4.実務への影響

このように、改正民法の下の契約不適合責任については、買主が責任追及のために取り得る手段が増えています。また、契約不適合責任は契約責任であることの帰結として、契約不適合と相当因果関係にある損害の請求が認められる可能性があります。そのため、買主にとって、有利な変更ととらえられる側面もあります。

他方、従来の瑕疵担保責任では、売主に故意又は過失がない場合でも、買主は損害賠償を請求することができました。しかし、改正民法下の契約不適合責任では、売主に故意または過失がない場合に売主は責任を負わない結果となります。

いずれにせよ、民法の規定のうち債権に関する規定は任意規定(民法の規定と異なる内容の契約がある場合に契約に優先される規定をいいます。民法の規定と異なる内容の契約に優先する民法の規定を強行規定といいます)ですので、以上の契約不適合責任と別の合意をすることも可能です。もっとも、既に、契約書の雛形からも「瑕疵担保」という表現は消え、「契約不適合」という表現が用いられているようです。今後は、この「契約不適合」にあたるかどうかの前提として、契約で何を合意したかという点が重要になってくると思います。契約書を作成する際には、売買の目的物の種類・品質・性能・数量等を、できる限り具体的に明示しておくことがポイントです。

解説者

事務所:骨董通り法律事務所
資格:弁護士
氏名:橋本阿友子