民法改正による新制度(第2回)- 請負契約

2021年7月21日

解説者

弁護士 橋本阿友子

1.請負契約とは

民法は、典型と考えられる複数の契約形態につき、各契約が成立するための要件や効果を定めています。そのうち、請負契約とは、請負人が、仕事の完成を約束し、注文者が仕事の結果に対して請負代金を支払うことを約束する契約です(民法632条)。

たとえば、住居用の建物の設計・建築、ソフトウェアの開発、映像の制作に加え、講演や演奏といったものが、請負契約における仕事と考えられています。

(請負)
第632条 請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

従来、仕事の完成を目的とした契約であるという請負の特性に基づき、工事完成までの問題(注文者の解除権、債務不履行に基づく損害賠償請求権、危険負担など)と、工事完成後の問題(危険負担、瑕疵担保責任など)に分けて議論がなされていました。つまり、改正前民法の下では請負人の担保責任を前提に、仕事完成前は一般の債務不履行、仕事完成後は瑕疵担保という区別がなされていました。しかし、改正民法が売買の売主の責任につき契約責任説を採用したことに伴い、仕事の完成前後で区別する必要がなくなりました。これに伴い、請負の規定は、仕事の完成を目的とした契約であるという請負の特性は残しつつも、全体的に整理がなされました。売主の担保責任に関する改正については、次回コラム『(第3回)ー 契約不適合』をご参照ください。

2.改正点

改正点は、以下のとおりです。

  • 仕事完成前の報酬請求権(新634条)
  • 契約不適合責任の制限(新636条)
  • 仕事の目的物が契約の内容に適合しない場合の注文者の権利の期間制限(新637条)
  • 注文者の破産手続開始による解除(新642条)

また、民法改正における請負以外の規定の整理に伴い、以下が削除されました。

  • 担保責任(旧634条・旧635条)
  • 土地工作物が契約の内容に適合しない場合の請負人の責任の存続期間(旧638条・旧639条)
  • 担保責任を負わない旨の特約(旧640条)

以下、上記の変更点につき、少し詳しくみていきたいと思います。

(1)仕事完成前の報酬請求権(新634条)

請負人が仕事を完成することができなくなったことを理由として請負契約を解除された場合に、改正前民法下では、仕事の内容が可分であり、その仕事の一部が完成していて、注文者が完成した部分について利益を有するときは、特段の事情がない限り、既に完成した部分について注文者は解除することができず、未施工部分の契約の一部解除ができるにすぎない、と解されていました。たしかに、既になされた工事の結果は注文者に利益を生じさせることがあり、除去を求めるよりも一定額の報酬の支払いを認めて未施工部分の引渡しを受ける方が合理的とも考えられます。しかし、改正前民法には仕事の完成が不能になった場合における報酬請求の根拠規定はありませんでした。

そこで、改正民法は、この判例を踏まえて、請負人に報酬請求権が認められる要件と、その報酬請求権の範囲を明記しました。

(注文者が受ける利益の割合に応じた報酬)
第634条 次に掲げる場合において、請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなす。この場合において、請負人は、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる。
一 注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき。
二 請負が仕事の完成前に解除されたとき。

まず、請負人に報酬請求権が認められるのは、請負人による仕事の結果のうち、「可分の部分の給付によって注文者が利益を受けるとき」と定められています。その上で、本条1号は、注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができない場合に限って報酬請求を認めるものです。つまり、仕事を完成することができない事情が、請負人の責めに帰すべき事由による場合や、請負人・注文者双方の責めに帰することができない事由による場合は、請負人に報酬請求権は認められません。

この点、注文者の責めに帰すべき事由によって仕事を完成することができない場合については、改正民法536条2項前段の法意に従い、請負人は報酬全額を請求できる可能性を示したものと考えられます。

また、報酬の範囲は、注文者が受ける利益の割合に応じた報酬と明記されました。ここで報酬とは、既になされた仕事のうち、可分の給付によって注文者が利益を受ける部分に対応する、請負人が既に支出した費用を含むものと解されています。

(2)瑕疵担保責任から契約不適合責任へ(旧634条・旧635条の削除、新636条)

改正前民法634条は、仕事の目的物に瑕疵があった場合の注文者の修補請求権と損害賠償請求権を定めていました。しかし、改正民法の下では、売買における買主の権利(追完請求権(562条)、代金減額請求権(563条)、債務不履行を理由とする損害賠償請求権・解除権(564条)の規定が559条を介して請負契約にも準用されることで、請負に特有の規定をおく必要がなく、削除されました。

また、改正前民法635条は、仕事の目的物に瑕疵があった場合の解除に関して定めていました。これについても、仕事の目的物が契約の内容に適合しないことを理由とする解除につき、目的物の種類・品質に関する契約不適合を理由とする解除(564条が準用する541条・542条)の規定が559条を介して請負契約にも準用されることで、規定の存在意義を失い、削除されています。

(請負人の担保責任の制限)
第636条 請負人が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない仕事の目的物を注文者に引き渡したとき(その引渡しを要しない場合にあっては、仕事が終了した時に仕事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないとき)は、注文者は、注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じた不適合を理由として、履行の追完の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、請負人がその材料又は指図が不適当であることを知りながら告げなかったときは、この限りでない。

改正民法が、従来の瑕疵担保責任から契約不適合責任に改められたことに関連して、636条も改正されています。改正前民法636条は、請負の瑕疵担保責任について、目的物の瑕疵が、注文者の提供した材料の性質又は注文者の指図によって生じた場合に、請負人の瑕疵担保責任を認めないとするものでした。改正民法637条は、この改正前民法636条を基本的には踏襲しつつ、瑕疵担保責任を契約不適合責任に改めたことに伴い表現を改訂したものです。

(3)仕事の目的物が契約の内容に適合しない場合の注文者の権利の期間制限(新637条)

(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)
第637条 前条本文に規定する場合において、注文者がその不適合を知った時から一年以内にその旨を請負人に通知しないときは、注文者は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。
2 前項の規定は、仕事の目的物を注文者に引き渡した時(その引渡しを要しない場合にあっては、仕事が終了した時)において、請負人が同項の不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、適用しない。

改正前民法637条は、請負人の瑕疵担保責任について、買主は、仕事の目的物を引渡した時から1年以内に追及しなければならないものと定めていました。この点、改正民法では、仕事の目的物の契約不適合を注文者が知った場合に、その時から1年以内に契約不適合の事実を請負人に通知しなければ、その不適合を理由とする追完請求権、報酬減額請求権、損害賠償請求権、解除権が失効するものと定められました。

(4)土地工作物が契約の内容に適合しない場合の請負人の責任の存続期間(旧638条・旧639条)

上記のとおり、改正前民法637条は、注文者が請負人の瑕疵担保責任を追及できる期間を1年と定めていましたが、同638条は、仕事の目的物が土地工作物であった場合には、工作物によって5年又は10年と長期の期間を定め、瑕疵による滅失又は損傷については、当該滅失又は損傷の時から1年以内と定めていました。これは、土地工作物の瑕疵が重大な結果を引き起こし得ること、また瑕疵の発見が容易でないと考えられたことによります。

改正民法は、請負人(売主)の責任の期間制限について新たなルールが定められたことにより、土地工作物にだけ責任の保全期間を長期に定める必要性が乏しくなったとして、規制前民法638条及びこれに関連する639条を削除しました。

(5)担保責任を負わない旨の特約(旧640条)

改正前民法640条は、請負人は瑕疵担保責任を負わない旨の特約をした場合でも、知りながら告げなかった事実について責任を免れないと定めていました。しかし、改正民法においては、559条を介して572条を準用することで存在意義がなくなるため、削除されました。

(6)注文者の破産手続開始による解除(新642条1項)

(注文者についての破産手続の開始による解除)
第六百四十二条 注文者が破産手続開始の決定を受けたときは、請負人又は破産管財人は、契約の解除をすることができる。ただし、請負人による契約の解除については、仕事を完成した後は、この限りでない。

改正前民法642条1項は、注文者が破産手続開始の決定を受けたときに、請負人と破産管財人に対し、契約の解除権を認めていました。改正民法は、この1項について、破産管財人の解除権については、改正前の規律を残す一方で、請負人からの解除権については、解除することができる場面を、請負人が仕事を完成するまでの間に、時機を限定しました。

請負人の解除権は、注文者の経済状況が危機に陥り、報酬を得られる見込みがない場合にまで、請負人が仕事完成義務を負い続けることで請負人に多大な損害が生じるおそれが生じるのを避けるために、認められたと考えられます。そうだとすれば、仕事が完成した場合には、解除権を認める必要はなくなり、規定自体が削除されました。

3.実務への影響

以上のとおり、請負の規定は、たぶんに改正民法の瑕疵担保責任の考え方の変更に影響を受けています。特に、2(3)仕事の目的物が契約の内容に適合しない場合の注文者の権利の期間制限については、期間制限の起算点が、仕事の目的物の引渡時から、契約不適合を知った時に改められている点に、注意が必要です。改正民法の規定をそのまま適用すれば、請負人が責任を追及され得る期間が長くなってしまいます。

もっとも、民法のうち、債権の規定は任意規定であるため(任意規定・強行規定については、次回コラム『(第3回)ー 契約不適合』参照)、請負人側の交渉力が強ければ、従前のとおり引渡時からの期間を定めた契約書の雛形を提示することは可能です。逆に、注文者側の立場からは、そのような契約書を提示された場合には、民法の原則にそうような契約交渉を行うのがメリットです。

また、請負人は、仕事の一部が完成した場合には、その完成部分が可分であった場合に、報酬を請求できることが明確になりました。そのため、今後は、請負契約書にこの旨の規定が盛り込まれることが多くなると予想されます。

解説者

事務所:骨董通り法律事務所
資格:弁護士
氏名:橋本阿友子