経営ハンドブック

公的支援の受け方

税制の特例や補助金などを利用する

これまで事業承継を阻む壁として、相続税、遺留分、個人保証の問題が主に指摘されてきた。これに対し、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(経営承継円滑化法)などの公的支援を活用することで、事業承継に伴う負担を軽減できる。

事業承継の負担を減らす公的支援

  1. 事業承継税制
  2. 遺留分に関する特例
  3. 金融支援や事業承継補助金

1.事業承継税制

法人版事業承継税制として、後継者が先代経営者から贈与・相続により取得した非上場株式等に課される贈与税・相続税について、納税を猶予および免除する措置(2018年4月1日からの10年間限定)により、次のような対応が可能となった。

  • 対象株式数の上限を撤廃
  • 猶予割合を100%に拡大
  • 5年平均8割の雇用維持が未達成でも猶予は継続可能
  • 複数の株主から最大3人の後継者に対する承継も対象
  • 経営環境の変化に対応した減免制度を導入

この特例措置を活用するためには、2023年3月31日までに都道府県知事に対して特例承継計画を提出したうえで、2027年12月31日までに実際に株式を後継者に承継する必要がある。

個人事業者には、2019年4月1日から事業用資産を後継者に贈与・相続した際に課される贈与税・相続税の納税を猶予及び免除する措置が創設された(10年間限定の特例措置)。土地、建物、機械、器具備品等の幅広い事業用資産を対象として、100%納税猶予を受けられる。

この制度の適用を受けるためには、2024年3月31日までに都道府県知事に対して個人事業承継計画を提出したうえで、2028年12月31日までに事業用資産を後継者に承継する必要がある。なお、個人版事業承継税制は、事業用小規模宅地特例との選択制となっている。

2.遺留分に関する特例

事業を相続させるとき、確実なのは生前贈与によって、現代表が個人所有している株式や事業用資産をすべて後継者に取得させる方法だ。しかし、「遺留分」の問題が生じる。「遺留分」とは、所定の相続人に保障された一定の取り分を指す。所定の相続人の対象は、配偶者、子、直系尊属(父母、祖父母など直接の先祖)に限られている。また、遺留分の割合も決まっており、配偶者と子は法定相続財産の1/2、直系尊属は1/3となる。これは、所定の相続人の一部が不公平な扱いを受けないようにするための制度だ。しかし、遺留分によって、後継者が相続したはずの株式や事業用資産を分割しなければならない事態が起こり得る。

それを防ぐため、政府は遺留分に関する民法の特例を設けた。旧代表者の生前に、後継者が経済産業大臣の確認を受け、遺留分権利者全員との合意内容について家庭裁判所の許可を受けて、旧代表者から後継者へ贈与された株式など(株式のほかに、工場などの事業用不動産などが考えられる)について、遺留分算定の基礎財産から除外できる(除外合意)。また、後継者の貢献による非上場株式等の価値の上昇分を遺留分に係る請求の対象外にできる(固定合意)。

個人事業者については、2019 年の経営承継円滑化法の改正により、後継者に対して贈与した事業用資産についても、遺留分に係る請求の対象外とすることができる特例措置が創設される予定だ。

3.金融支援や事業承継補助金

事業を承継した後継者および今後事業を引き継ごうとしている個人に対し、事業承継に伴う資金需要(自社株式の買い取り資金や納税資金等)への支援や信用力低下による経営への影響を緩和するため、都道府県知事による認定を前提として、(1)信用保証枠の実質的な拡大、(2)日本政策金融公庫等による貸し付けを利用できる。

事業承継補助金は、承継を機に新たな分野への進出や事業転換などへの取り組みを支援するため、設備投資・販路拡大・既存事業の廃業といった場合に必要な経費を補助する。親族内での承継等による経営者交代(補助上限:最大500万円、補助率:1/2または2/3)、M&A(合併・買収)による事業の再編・統合(補助上限:最大 1200万円、補助率:1/2または2/3)などがある。

事業承継税制の概要

出所:中小企業庁「中小企業白書2019」

関連リンク