2026年 9月 16日
2026年7月1日より、障害者雇用促進法に基づく民間企業の法定雇用率が2.5%から2.7%に引き上げられました。また、雇用義務の対象となる企業規模の要件も従業員(常用雇用労働者)40人以上から37.5人以上へと拡大され、新たに雇用義務が生じる企業が増加しました。人手不足が続く中、障害者雇用の取り組みは企業の社会的責任としてだけでなく、実務的な経営課題としても重要性を増しています。本稿では、改正の概要と企業が取り組むべき実務対応を解説します。
1.障害者雇用促進法改正の背景と概要
障害者の法定雇用率は、「障害者の雇用の促進等に関する法律」に基づき、一定規模以上の企業に対して障害者を一定割合以上雇用することを義務付けるものです。政府は「障害者が希望や能力に応じた多様な就労ができる社会」の実現に向け、段階的に法定雇用率の引き上げを進めています。
2024年4月に法定雇用率が2.3%から2.5%へ引き上げられたのに続き、2026年7月にはさらに2.7%へ引き上げられました。これに合わせて、雇用義務の対象となる企業規模の基準も変更されました。
|
施行時期 |
法定雇用率 |
雇用義務の対象企業 |
除外率 |
|---|---|---|---|
|
〜2024年3月 |
2.3% |
従業員43.5人以上 |
(各業種による) |
|
2024年4月〜 |
2.5% |
従業員40.0人以上 |
(各業種による) |
|
2026年7月〜 |
2.7% |
従業員37.5人以上 |
(各業種による) |
※ここでの「従業員」は、常用雇用労働者を指す。
2.法定雇用率2.7%の意味と計算方法
1.法定雇用率2.7%とは
法定雇用率2.7%とは、常用雇用している労働者のうち、2.7%以上は障害者(身体障害者・知的障害者・精神障害者)を雇用しなければならないことを意味します。計算式は以下のとおりです。
雇用すべき障害者数=常用雇用労働者数(※)× 2.7%(1人未満の端数は切り捨て)
※短時間労働者(週20時間以上30時間未満)は原則0.5人としてカウント
たとえば、常用雇用労働者が100人の企業では、2人以上(100人×2.7%=2.7人→切り捨てで2人)の障害者を雇用する義務が生じます。150人規模の企業であれば4人以上(150人×2.7%=4.05人→切り捨てで4人)となります。
2. 障害者雇用率へのカウント方法
障害者雇用率へのカウントは、雇用形態や障害の種類・程度に応じて異なります。30時間以上の重度身体障害者・重度知的障害者は1人を2人としてカウントする一方、精神障害者にはダブルカウントは適用されません(※)。
※精神障害者保健福祉手帳には1級〜3級の区分がありますが、身体障害者・知的障害者のような「重度」区分自体が存在しないため、等級にかかわらず、労働時間の区分に応じたカウントとなります。重度・軽度による人数差は生じません。
週20時間以上30時間未満の短時間労働者は、原則0.5人としてカウントします(重度身体障害者・重度知的障害者の場合は、0.5人の2倍で1人としてカウントされます)。また、同短時間労働の精神障害者については、雇入れや精神障害者保健福祉手帳交付からの期間にかかわらず、当分の間、1人としてカウントされます。
週10時間以上20時間未満の特定短時間労働者については、精神障害者・重度身体障害者・重度知的障害者ともに0.5人としてカウントされます。なお、身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳のいずれかを保有していない場合や、週の所定労働時間が10時間未満の場合は、雇用していても雇用率のカウント対象とはなりません。
3. 除外率の引き下げについて
また、建設業や運送業など、障害者の就業が一般的に困難と認められる業種には、常用雇用労働者数から一定割合を控除できる「除外率制度」が設けられていますが、2025年4月には各業種の除外率が一律10ポイント引き下げられました。なお、引き下げによって除外率が10%以下となった業種は、除外率制度の対象外となります。
除外率設定業種の企業においても、雇用率の算定対象となる労働者数が増える結果、雇用すべき障害者数(法定雇用障害者数)が実質的に増加する点に留意が必要です。
3.対象企業の拡大——従業員37.5人以上が新たな基準
2026年7月の改正で特に注目すべき点は、雇用義務の対象となる企業規模の基準が「従業員40人以上」から「従業員37.5人以上」へ引き下げられる点です。これにより、これまで雇用義務の対象外であった従業員37.5人以上40人未満の企業が新たに対象となりました。
具体的には、常用雇用する労働者数が37.5人以上の企業は、少なくとも1人以上の障害者を雇用する義務が生じました。自社の労働者数を改めて確認し、対象となる場合は速やかに対応を進めることが必要です。なお、「37.5人」という端数を含む基準値は、常用雇用労働者数の算定上、短時間労働者を0.5人としてカウントすることに由来するものであり、たとえば、常用雇用労働者のうち短時間労働者1人(0.5人換算)とそれ以外の労働者37人を雇用する企業は、労働者数37.5人として基準に該当することになります。
4.法定雇用率未達成の場合の措置
法定雇用率を達成できない場合、以下の措置が課される可能性があります。
1.障害者雇用納付金の納付
常用雇用する労働者数が100人を超える企業で法定雇用率が未達成の場合、不足人数1人につき月額5万円の「障害者雇用納付金」を納付しなければなりません。常用雇用する労働者数が100人以下(100人ちょうどを含む)の企業には納付義務はありませんが、行政指導の対象となる場合があります。
2.企業名の公表
ハローワークによる助言・指導を経ても雇用状況が改善せず、雇入れ計画の適正な実施について「勧告」を受けたにもかかわらず改善が見られない場合、厚生労働省により企業名が公表されることがあります。社会的信用への影響も考慮し、早期の対応が重要です。
5.中小企業が取り組むべき実務対応
障害者雇用を推進するうえで、中小企業が具体的に取り組むべき事項を整理します。
1.自社の雇用状況の確認と目標設定
まず、現在の常用雇用労働者数と障害者雇用数を確認し、2026年7月時点での法定雇用率(2.7%)に対する充足状況を把握してください。不足している場合は、採用計画を立て、段階的に雇用数を増やしていく計画を策定することが重要です。
採用活動には求人掲載から採用決定まで一定の期間を要するため、新たに雇用義務の対象企業となる場合は、施行日以降の雇用状況を見据え、早めに採用活動に着手することが望まれます。目安として6か月〜1年程度の準備期間を見込み、充足状況の把握から採用計画の策定、求人活動、職場環境の整備という順序で計画的に進めるとよいでしょう。
2.ハローワークや就労支援機関の活用
障害者の採用にあたっては、ハローワークの障害者専門窓口や、障害者就業・生活支援センター、特例子会社制度(※)などを活用することで、適切なマッチングと雇用定着が期待できます。
※企業が障害者の働きやすい環境を整えた子会社を設立して認定を受けると、その子会社で雇用された障害者を親会社や企業グループの障害者雇用率に算入できる制度です。
2-1.採用後の育成・定着支援
採用後の育成にあたっては、都道府県などが設置する障害者職業能力開発校(一部はJEEDが運営)や、地域の企業・社会福祉法人等に委託して実施される「障害者委託訓練」を活用することで、障害特性に応じた職業訓練を受ける機会を提供できます。また、雇用後の職場定着支援として、地域障害者職業センターの職場適応援助者(ジョブコーチ)による人的支援を受けることも可能です。
3.職場環境の整備と定型業務の切り出し
障害者が働きやすい職場環境を整備することが、雇用の定着につながります。業務内容の見直し・分担の工夫、設備のバリアフリー化、周囲の従業員への理解促進などに取り組むことをお勧めします。
障害のある方に切り出せる定型業務が社内で見つからない場合は、各部署にヒアリングを行い、外部委託している定型業務や、量が多く定期的に発生する業務などを洗い出す「業務の切り出し(ジョブカービング)」が有効です。自社での判断が難しい場合は、地域障害者職業センターのジョブコーチや就労移行支援事業所に相談することで、具体的な提案を受けられます。
4.障害者雇用調整金・助成金の活用
法定雇用率を超えて障害者を雇用した企業には「障害者雇用調整金」が支給されるほか、雇用に関連するさまざまな助成金制度が設けられています。
4-1.活用できる助成金の種類と注意点
採用時には「特定求職者雇用開発助成金」や「障害者トライアル雇用助成金」、試行雇用から正社員化する際には「キャリアアップ助成金(障害者正社員化コース)」、職場環境の整備には「障害者作業施設設置等助成金」「障害者福祉施設設置等助成金」、職場定着支援には職場適応援助者(ジョブコーチ)関連の助成金などを活用できます。
助成金には、採用段階で使えるものと定着段階で使えるものがあるため、自社の状況に応じて早めに検討することが重要です。多くの助成金は、原則として雇い入れや設備整備の前に計画届の提出や認定を受ける必要があり、事後の申請では支給されないケースが多いため、早めの準備が欠かせません。
また、助成金によって申請窓口(特定求職者雇用開発助成金やトライアル雇用助成金、キャリアアップ助成金はハローワーク・労働局、施設設置等助成金や職場適応援助者助成金などはJEED)が異なる点にも注意が必要です。
助成金については、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)の情報を参照されることをお勧めします。
4-2.障害者雇用状況報告書・納付金の申告手続き
毎年6月1日時点の障害者の雇用状況を「障害者雇用状況報告書」として取りまとめ、7月15日までに本社所在地を管轄するハローワークへ提出する必要があります(いわゆる「ロクイチ報告」)。納付金の対象企業(常用雇用労働者数100人超)は(※)、原則として毎年4月1日から5月15日までの間に、機構所定の申告書を都道府県申告申請窓口へ提出しなければなりません(常用雇用労働者数100人以下で報奨金を申請する場合は4月1日から7月31日まで)。
※ここでの「100人超」「100人以下」は、前年度(4月1日〜翌年3月31日)の各月の算定基礎日における常用雇用労働者数のうち、100人を超える月が5か月以上あるか(100人超)、4か月以下か(100人以下)によって判定されます。
様式・記入要領や申告申請窓口の一覧は、下記のサイトでもご確認いただけます。
なお、これらの期限が土曜・日曜・祝日にあたる場合は、翌営業日が実際の期限となります。
|
項目 |
対応内容 |
|---|---|
|
1.雇用状況の確認と目標設定 |
常用雇用労働者数(短時間労働者は0.5人換算)と障害者雇用数を確認し、法定雇用率2.7%(1人未満の端数は切り捨て)に基づく必要人数を把握する。 |
|
2.ハローワークや就労支援機関の活用 |
ハローワークの障害者専門窓口、障害者就業・生活支援センター、特例子会社制度などを活用し、採用のマッチングと定着を図る。 |
|
3.職場環境の整備 |
業務内容の見直し・分担の工夫、設備のバリアフリー化、周囲の従業員への理解促進に取り組む。 |
|
4.障害者雇用調整金・助成金の活用 |
法定雇用率を超えて雇用した企業に支給される障害者雇用調整金のほか、各種助成金制度について独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)の情報を参照する。 |
6.今後の見通し
法定雇用率は今後もさらに引き上げが検討される見通しです。厚生労働省の労働政策審議会等において、さらなる引き上げに向けた議論や、雇用数だけでなく職場定着・活躍の質の確保に向けた議論も継続的に進められており、長期的な視点での障害者雇用の取り組みが求められます。
また、精神障害者の雇用義務化から数年が経過し、精神障害者の雇用に関するノウハウ・支援体制も充実しつつあります。身体障害者・知的障害者に限らず、精神障害者の雇用にも積極的に取り組むことで、多様な人材の活躍推進につながります。
厚生労働省・JEED 障害者雇用に関する情報
法定雇用率・雇用義務・助成金については厚生労働省または独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)へお問合せください。
※本稿の記載内容は、障害者雇用促進法および関連政省令の改正内容に基づきます。詳細は最新の厚生労働省・JEED公表資料をご確認ください。
監修
クルーシャル法律事務所
代表弁護士 山下 諒









