ビジネスQ&A

スクイーズアウトはどのような場合に使うとよいのでしょうか。

2021年 6月11日

私は、長年にわたり代表取締役として会社を経営してきましたが、そろそろ引退することを考えています。私には、子がいないので、これまで私を支えてきてくれた従業員に会社の経営を引き継いでもらおうと思っています。この従業員には、会社の経営だけでなく、株式も引き継いでもらう方向なのですが、私が保有する株式は、全株式の95%にすぎず、残りの5%は私の兄が保有しています。できればこの従業員には会社の全ての株式を引き継がせたいのですが、兄とは折り合いが悪く、株式買い取りの話ができそうにありません。どのようにすればよいでしょうか。

回答

スクイーズアウトを活用することにより、残りの株式を取得することができます。

少数株主がいると、意思決定が迅速に行われないおそれがあることなどから、事業承継の際には、すべての株式を後継者に承継させることが望ましいといえます。少数株主と個別に話し合いをして株式を買い取ることができればよいのですが、話し合いが必ずうまくいくとも限りませんし、少数株主が多数いる場合などはそもそも話し合いを行うこと自体困難となりえます。

このような場合は、個々の株主の個別の同意を得ることなく金銭を対価として株式を取得する方法であるスクイーズアウト(スクイーズアウトは日本語で「締め出し」という意味であることから、キャッシュアウトという呼び方をされることもあります。)を活用することが考えられます。スクイーズアウトには①特別支配株主の株式売渡請求による方法と②株主総会決議による方法があります。

特別支配株主の株式等売渡請求

株式会社の総株主の議決権の9割(定款で加重することも可能です。)以上を有する者(これを特別支配株主といいます。)は、他の株主全員に対して、保有する株式すべての売渡しを請求することができます(会社法(以下単に「法」といいます。)第179条第1項)。これを特別支配株主の株主等売渡請求といいます(株主「等」となっているのは、株式だけでなく、新株予約権もこの制度の対象となっているためです)。

特別支配株主が株式等売渡請求を行うためには、株式を取得する額又はその計算方法や株式を取得する日等の一定の事項を決めたうえで会社の承認を得る必要があります(法第179条の2・第179条の3)。この承認は、取締役会がある会社では取締役会で決議をする必要がある一方で(法第179条の3第3項)、90%以上の議決権を持つ特別支配株主が承認を求めていることから、株主総会決議は必要とはされていません。なお、株式の売買価格に不服がある少数株主は、裁判所に売却価格決定の申立てをすることができます(法第179条の8)ので、株式を取得する額の決定は慎重に行う必要があります。

質問の会社の場合は、現在の代表取締役が95%以上の株式を保有しており特別支配株主であるといえますので、特別支配株主の株式等売渡請求を行うことにより残りの株式を取得することができます。

株主総会決議によるスクイーズアウト

では、質問者が90%の株式を保有していないため、特別支配株主の株式等売渡請求を用いることができない場合は、どのようにすればよいのでしょうか。このような場合は、株式の併合や全部取得条項付株式を用いることが考えられます。

株式の併合とは、例えば10株を1株にするといったように数個の株式を併せて少数にするというものです(法第180条)。株式の併合により1株に満たなくなった株式(単元未満株といいます。)は、裁判所の許可を得て購入することができます(法第235条、第234条第2項)。したがって、この方法を用いることにより少数株主から株式を取得することができるのです。ただし、株式の併合には株主総会の特別決議が必要となります(法第180条第2項、第309条第2項第4号)。

これは、株式を全部取得条項付株式としたうえで、少数株主が保有する株式が単元未満株となるように新たな株式を取得の対価とする当該全部取得条項付株式の取得をする旨の株主総会決議を行うという方法によっても実現することができます(特別決議が必要です。法第466条、第108条第1項第7号、第171条、第309条第2項第3号、第234条第1項第1号・第2項)が、詳細は省略させていただきます。

なお、株式の併合、全部取得条項付株式のいずれの方法によるとしても、単元未満株の取得の際は、裁判所によって取得する額の妥当性が審査されることになりますので、やはり取得する額の決定は慎重に行う必要があります。

専門家への相談を!

実際にスクイーズアウトを行う場合は、法的な手続はもちろんのこと、少数株主へ支払う金銭の額をどのようにして決定するかも問題となります。これらの問題については、相当に専門的であるため、中小企業診断士や弁護士などにご相談されることをおすすめします。

回答者

中小企業診断士 弁護士 武田 宗久