ビジネスQ&A

後継者がいないのですが、会社は存続させたいと思っています。どう対応すればよいでしょうか?

大企業の下請けとして、工業製品を製造しています。私が引退した後、現在ほかの企業に勤めている息子に会社を継いでほしいのですが、息子は会社を継ぐ意思はないようです。会社は継続させたいのですが、後継者をどのようにすればよいでしょうか。

回答

ご子息が会社を継ぎたくなるように、自社の将来性を高めるような取り組みを行う必要があります。また、経営者としてのマネジメント力に自信をもたせるために、計画的な教育を行う必要もあります。しかし、ご子息に会社を継ぐ意思がまったくなければ、外部の人材を検討することも選択肢の一つです。

中小企業が後継者の候補を検討する場合、第1の候補として考えるのはやはり経営者自身の子どもになります。とくに小規模の企業では、家業という性格があるため、子どもが後継者になっている割合が高いと言えます(表1)。

子どもは親が経営している姿を見て育ってきていますから、従業員の場合と比べて承継には有利といえます。つまり、事業の経営とはどういうものか具体的なイメージをもって捉えることができるため、承継した後でイメージと違っていたということが、従業員が承継した場合と比べて少ないと言えます。

しかし、実際には子どもが事業を承継する割合は減少し、親族以外の者が承継する割合が増えています。事業承継に関する調査から、承継に関する対応を検討してみましょう。

中小企業庁「人材活用実態調査」資料
資料:中小企業庁「人材活用実態調査」

【親の事業承継について】

ニッセイ基礎研究所「就業意識調査」では、親が事業を行っている就業者に親の事業の承継意思について聞いています。その結果を見ると「承継者は決まっておらず、自分は承継するつもりはない」と考えている就業者は49.5%と、半数近くになっているのが分かります(表2)。

(株)ニッセイ基礎研究所「就業意識調査」資料
資料:(株)ニッセイ基礎研究所「就業意識調査」

【承継しない理由】

次に承継しない理由について見ていきます。承継したくない理由について見てみると、「親の事業に将来性・魅力がないから」が45.8%ともっとも割合が高く、次いで「自分には経営していく能力・資質がないから」が36.0%となっています(図1)。一方で「今の収入を維持できないから」については13.9%と低いことから、収入というよりもそもそもの事業の継続に不安があること、やりたいと思える事業でないこと、そして経営していくことに対する不安が、子どもが承継しない大きな理由になっていると言えます。

(株)ニッセイ基礎研究所「就業意識調査」資料
資料(株)ニッセイ基礎研究所「就業意識調査」

【子どもへの承継】

子どもに事業を承継させようとするなら、こうした子どもが懸念している問題を解決していくことが何よりも重要です。承継したいと思えるような将来性・魅力のある事業にするためには、現状の経営スタイルの維持ではなく、経営革新に取り組んでいくことが重要だと考えられますが、その前にどのような企業であれば魅力を感じ承継してくれるか子どもとよく話し合うことも大切になります。また、後継者は一朝一夕には育ちませんから、子どもが能力に不安があると感じているのであれば、後継者としての教育を早い段階からしっかりと行っておく必要があります。

同時に円滑に承継をするためには、株式などの承継について計画的に準備しておくことも重要となってきます。

<事業承継の留意点>

  • 事業の経営革新の取り組みを行い、事業の将来性や魅力を高める。
  • 後継者に、マネジメントなどの教育を計画的に行う。
  • 子どもとコミュニケーションをとり、どのような考えをもっているのかを理解する。

【先代経営者の行動による影響】

事業の承継は必ずしもうまくいくとは限りません。もしかすると、承継者と従業員との間で大きなトラブルが生じ、最悪の場合、企業存続の危機が訪れるかもしれません。そのような事態にならないために、現在の経営者は承継者のために何ができるのかを検討する必要があります。

東京商工リサーチ「後継者教育に関する実態調査」から、承継前にどのようなことを行ったのかを見ていくと、約30%の経営者が「役員への打診」、「後継者へ権限の一部を委譲」を行っています(図2)。一方で、「特別なことはしなかった」経営者も33.3%います。これらの準備を行ったことによる承継への影響では、先代経営者が何らかの取り組みを行っていると承継がうまくできたと答えている経営者の割合が高くなっています(「後継者教育に関する実態調査」)。

このことから、後継者が承継後に動きやすい状況を事前につくっておくことが重要であることが分かります。

回答者

中小企業診断士 沢田 一茂