2025年 6月 11日
最近はコンプライアンス違反に関するニュースをよく耳にします。企業の経営陣はどのようなことに気をつけておけば良いでしょうか。また社員に対するコンプライアンス教育はどのように行えば効果的でしょうか。
回答
従業員にコンプライアンスを遵守してもらうには、まずは人が不正を起こすメカニズムを説明した「不正のトライアングル」の3要素を念頭に置き、それを完成させないための逆説的なアプローチが有効です。また、従業員へのコンプライアンス教育は、その3要素を完成させないための手段のひとつとして捉えます。不正の防止をはじめ、企業の信頼維持や法的リスクの低減に直結する重要な取り組みになりますので、経営陣が率先してできることから取り組みましょう。
1.コンプライアンスとは
コンプライアンス(compliance)とは、和訳すると「要求や命令などに従うこと」ですが、企業活動においてはその意味にとどまりません。いわゆる法令遵守のみならず、社会のルールや倫理を守ること、業界ルールや自主基準を守ること、社内ルール(就業規則など)を守ること、など広範囲にわたります。
最初に「なぜ人はルールを破って不正を働いてしまうのか」を考えてみましょう。人が不正行為を起こすメカニズムを解明した理論に、アメリカの組織犯罪学者であるドナルド・クレッシーが提唱した「不正のトライアングル」があります。この理論は、次の3つの要素がそろうと不正行為が発生する可能性が高くなるというものです。
(1)動機
不正行為を起こすに至る、動機やプレッシャーがある状態。例えば、経済的に困っている、ノルマ達成への圧力がかかっている、などが挙げられます。
(2)機会
不正行為を実行できる機会や手段が存在する状態。例えば、物品や情報を盗んでも分からないような、監視が不十分な状態になっていることが挙げられます。
(3)正当化
不正行為を行おうとしている自分を正当化するための理由や言い訳ができる状態。例えば「これは他の人もやっている」「自分はこの会社に十分貢献しているから少しぐらいは許される」といった考え方です。なお、正当化にはこのような負の意識を正当化することだけでなく、会社のために良かれと思ってやっていることが結果的に不正につながることもあるので、注意が必要です。
▼不正のトライアングル
これら3つの要素がそろうことで不正のトランアングルが完成し、人が不正行為を起こすことにつながります。ここで、粗大ごみの不法投棄を例に取ってみましょう。
「粗大ごみを捨てるには費用や手間がかかる」という動機があり、「人通りの全くない道路を走っていたら粗大ごみがいっぱい捨ててあった。監視カメラらしきものも見当たらない」という機会があり、「みんな粗大ごみを持ち込んでいて、少しくらい増えても分からないほど山のように積み上がっているから大丈夫だろう」という正当化がなされた結果、不正のトライアングルが完成し、粗大ごみの不法投棄という不正行為につながっていくわけです。これは個人だけでなく、企業や組織内の不正行為の発生にも通じる考え方になります。
この不正のトライアングルを理解し、どのようにして3つの芽を摘むかを考えることで、企業や組織における不正行為の予防策を講じることができ、ひいてはコンプライアンスの遵守にもつなげることができます。
2.不正のトライアングルの予防策
不正のトライアングルに基づいた予防策は、3つの要素(動機・機会・正当化)それぞれに対して対策を講じることがポイントです。以下に、各要素に対する予防策と企業や組織における具体的な事例を示します。
(1)動機への予防策
従業員が追い詰められないように目を配り、動機やプレッシャーを与えないようにすることが対策になります。
<具体例>
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業績目標を現実的に設定する
例えば、営業を担当する従業員に対し、売上ノルマが高すぎると不正な報告につながる可能性があります。「毎月10%成長」といった非現実的な目標設定を見直すことも必要です。従業員の生活・メンタルサポート体制の整備
経済的・心理的プレッシャーが不正の動機になります。福利厚生やカウンセリング制度を整えることなどで、従業員のケアを行い、孤立を防ぎます。内部通報制度(ホットライン)の設置
従業員が困った時に相談できる仕組みを作り、プレッシャーの軽減や早期発見につなげます。(2)機会への予防策
不正ができない、または不正が見つかる環境や仕組みをつくる対策です。
<具体例>
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職務の分離
例えば、不正経理を防ぐために、経理業務にて「支払実行」者と「帳簿管理」者を別の担当者に分けて、1人で入力と承認が完結できない体制にします。定期的な内部監査の実施
例えば、小売業で商品仕入れや在庫管理を定期的にチェックするようにします。加えて、抜き打ちでの監査も効果的です。システムによる権限管理
機密情報を漏洩させないための対策であれば、製造現場には個人所有のスマートフォンを持ち込ませない、ITシステム上で機密情報にアクセスできる人を限定し、誰でも見られる状態にしない、誰が何を操作できるか厳密に制限しログを残す、などがあります。(3)正当化への予防策
不正行為を正当化させないために、企業・組織における倫理観を育てることや、ルール意識を醸成することが大切です。
<具体例>
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経営陣自らが、規範を示す
倫理観やルール意識を広く一般社員にまで浸透させるには、まずは経営陣や上層部が規範を示すことが重要です。コンプライアンス教育・研修の実施
従業員への教育・研修については、次項で詳しく解説いたします。3.従業員に対するコンプライアンス教育
従業員へのコンプライアンス教育は、不正の防止や企業の信頼維持、法的リスクの低減に直結する重要な取り組みとなります。以下に、コンプライアンス教育の目的・内容・方法、そして効果的に行うためのポイントを説明します。
(1)コンプライアンス教育の目的
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法令違反や不祥事を未然に防止すること従業員の判断力や倫理観を向上させること企業イメージや社会的信頼を確保すること不祥事に対する内部通報や問題発見のきっかけを作ること
(2)コンプライアンス教育の内容の一例
一般的に、コンプライアンス教育の内容は以下のようになります。部署や職位によって内容を変えることも有効です。特に、管理職の従業員には指導責任も含めて教育を行うことが必要です。
(3)効果的な教育方法
コンプライアンス教育の主な方法には、以下のようなものがあります。
集合研修
疑問をその場で解消できることや、対話型にしやすいのがメリットです。新入社員研修、全社員向け年次研修などで実施します。
eラーニング
専門業者による教材を使用し、時間・場所を選ばず全社員に実施可能で、受講履歴が残ります。定期的な更新もなされ、理解度テストが付いているものもあります。
事例研究
実際のシーンを疑似体験でき、「自分ごと化」しやすいのが特徴です。顧客対応やハラスメント対応演習も良い取り組みです。
事例の共有(社内報・掲示板)
実際に生じた不祥事や、予防に向けた成功事例を従業員へ周知し、共有します。
アンケート・意識調査の実施
従業員の意識を可視化でき、教育内容の見直しに使えます。次年度に向けたコンプライアンス調査や教育にも活用できます。
(4)効果的に行うためのポイント
コンプライアンス教育を行う際に、次のようなポイントを意識すると効果が得られやすくなります。
トップの関与を明確にする
「社長・役員メッセージ」などで、コンプライアンスが会社方針であることを示すと、社員の受け止め方が変わります。不正のトライアングルの3要素である「動機を作らない、機会を与えない、正当化させない」ことを経営陣自らが説明することも効果的です。
自分に関係があることを実感させる
自社の業種や職種に即した身近な事例(例えば、製造現場での下請法違反や納期偽装の例)を使うと効果が高まります。
反復・継続を意識する
一度きりで終わらせず、経営陣からの定期的な情報発信や、年1回以上の定期教育やeラーニングのアップデートなど、継続して実施することで、風化させないようにします。
理解度を測る仕組みを取り入れる
コンプライアンスに関するクイズやテストを取り入れたり、受講記録を人事評価の一部に含めたりすると、学習意欲の向上につながります。
不正のトライアングルの考え方では、3要素のうちひとつでも欠けていれば不正行為が行われにくい、ともいえます。上記を踏まえて、できることから積極的に取り組んでいただくことで、企業の持続可能性を高めることにもつながると考えます。ぜひご参考にしていただければ幸いです。
- 回答者
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中小企業診断士 鈴木 克弥
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