経営ハンドブック

理念経営

理念を行動に反映させるためにシンプルさを追求する

近年、企業の在り方として、企業の社会的責任や顧客満足、従業員満足などが求められるようになってきた。企業は単に利益を上げるだけでなく、法令を順守し、環境や社会に配慮し、顧客やステークホルダーに対する姿勢を明らかにすることが、企業価値を高めるものとされている。

このような企業の存在意義や経営の目的を明文化するものが経営理念であり、経営理念を重視する経営手法を理念経営と呼ぶ。理念経営が徹底されている企業では、日常業務での優先順位がはっきりとしているため、従業員ごとに判断や行動がブレることが少ない。また、社内の意思決定でも、共有する価値観が判断基準になるため、決定までの時間が早くなるなど、スムーズな経営が可能になる。経営理念に沿っている限り、経営陣の判断に対し、従業員が異を唱えることも少ない。導入を考える際には、以下のメリットに注目してほしい。

理念経営導入のメリットと浸透方法

  1. 判断や行動の基準が明確になる
  2. 経営に対する想いを引き継げる
  3. 理念経営を浸透させる方法

1.判断や行動の基準が明確になる

理念経営でよく取り上げられる企業が、世界的なホテルブランド、リッツ・カールトンである。同社の経営理念は「ゴールドスタンダード」と呼ばれ、その中に、クレド、モットー、サービスの3ステップ、サービスバリュー、などが含まれている。ホテルの顧客対応では、従業員レベルで難しい判断を迫られることがある。そんなときでも、例えばサービスバリューの記載に従って行動することが正しいとされている。

ディスカウントチェーンのドン・キホーテを展開する持ち株会社である株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスは、「いつの時代も、ワクワク・ドキドキする、驚安商品がある買い場を構築する」を経営理念の第二条に掲げている。この言葉の通り、同社の売り場づくりは、安い商品を整然と並べるのではなく、迷路のような店内で面白い商品を探す楽しみを提供することを狙いとしている。この経営理念が、ドン・キホーテのブランドおよびイメージづくりに貢献している。

カレー専門店「CoCo壱番屋」を展開する株式会社壱番屋の経営理念には、社是、ミッション、経営目的の3つがあり、その中の社是では「ニコニコ・キビキビ・ハキハキ」という言葉のみを掲げている。これは、笑顔を絶やさず、生き生きと働き、はっきり受け答えすることが行動の基本であることを全社員・全スタッフに浸透させるとともに、「気持ちのよい対応を常に受けられる」というイメージを消費者に伝えている。

なお、経営理念に基づいた判断・行動は、消費者・顧客との関係において効果を発揮するばかりではない。経営陣による意思決定、部下指導、採用や人事考課においても有効である。意思決定までのスピード感が増すと同時に、従業員間での意識のズレによる摩擦も起きにくいからだ。

2.経営に対する想いを引き継げる

理念経営の徹底は、事業承継でも効果を発揮する。先代経営者の感性に従って経営方針や組織運営がなされていた場合、承継者が先代のような経営を再現するのは難しい。同時に、従業員側も明確な方針がない中で、新しい経営者に対して素直に従えなくなる。

経営理念を明確にした後で承継し、経営理念をそのまま踏襲するのであれば、先代と同じ姿勢で経営に当たるものと示すことができる。また、先代から引き継いだ幹部と新しい幹部も、経営理念が軸にあればコミュニケーションが円滑に進められる。経営者が代替わりしても、一貫した価値観を保持しやすいのが理念経営の強みの1つだ。

3.理念経営を浸透させる方法

理念経営を浸透させるには、第一段階として、経営理念に共感・納得してもらうプロセスが必要だ。そのうえで、「経営理念に沿って意思決定する」ことを習慣化させる。

経営理念をまとめた冊子を設けている企業も多い。朝礼で唱和したり、その意味について経営者が伝えたりすることで浸透を図る。あるIT企業では、部署単位で読み合わせを実施し、内容について議論させることで理解を深めさせている。

経営理念を基にした行動を従業員に根付かせるには、まず経営者・管理職が実践することだ。「経営理念の〇〇に照らして、この施策を実施する」というような伝え方を繰り返すことだ。また、あるベンチャー企業では、すべての会議室に経営理念が張り出してあり、経営理念に沿ったものであるかを意思決定において重視させている。

一般的に、経営理念はミッション、ビジョン、バリューの3要素で構成されるといわれる。

ミッション

果たすべき役割・使命

ビジョン

将来のあるべき姿、中長期的な目標

バリュー

活動の拠り所となる価値観や原則

このほかにも、クレド(信条)、社是、モットー、スローガンなども広い意味で経営理念の要素となる。企業によっていろいろな要素と組み合わせがあり、定型はないといえる。

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