経営ハンドブック

日報を上司と部下のコミュニケーションツールに昇華させる

日報の定着に、“ダメ出し”は禁物

1日の活動記録を紙やメールなどで提出する「日報」を従業員に課している企業は多い。しかし、報告する部下は漫然と書き続けていて、受け取る上司も何となく流し読みしているといったことが起きていないだろうか。日報の狙いは、上司であれば現場の進捗を確認したり部下の成長に生かしたりすること、部下であれば自己の振り返りや行うべき業務の確認に役立てることにある。この点を意識して日報を「使えるツール」として定着させるためのポイントを紹介する。

日報を「使えるツール」にするための3つのポイント

  1. 日報の目的や書き方を丁寧に説明する
  2. フィードバックを必ず実施する
  3. 効果が出るまで、長期戦を覚悟する

1.日報の目的や書き方を丁寧に説明する

まず、日報の目的と意義を説明することが大切である。

上司と部下とのコミュニケーションツールであると同時に、書く本人の業務効率化や生産性向上のための手段だ。その日の業務内容を改めて文字で整理することで、自分の仕事ぶりや顧客の反応などを振り返ることができ、良かった点や反省点を自然と確認することができる。上司もその情報を共有できるので、有効な指導やアドバイスができるようになる。このような目的・意義を理解し、納得感を持つことが日報の習慣化に欠かせない。

書くべき項目や、具体的な書き方についてもアドバイスし、書き方で迷わないようにする。その日の業務を時系列で、5W1Hで記載するのを基本とし、自分の気づいたことや反省点なども適宜書き込むのがよい。ただし、最初の段階から「あれもこれも書いてほしい」と欲張るのは控える。書く項目や分量が多すぎると、日報を書きたがらなくなり逆効果である。

2.フィードバックを必ず実施する

上司は提出された報告はきちんと読み込み、部下へ必ずフィードバックする。「読んでもらえている」「自分の仕事ぶりをちゃんとみてくれている」と感じるだけでも、部下の承認欲求を満たし、関係性やモチベーションの向上につながるからだ。逆に、せっかく提出したものを無視されたと感じれば、部下はやる気を失ってしまうだろう。

部下の報告にもの足りなさを感じると、「こんな書き方ではダメだ」と言いたくなるものだが、日報の浸透を目的とするならダメ出しは控え、「まずは褒める」姿勢が必要だ。毎日、すべての内容に具体的なアドバイスやコメントをするのは容易ではないが、できるだけ相手の良いところを見つけ、そこについてコメントする。その上で、その良いところを伸ばすようなアドバイスを加えられるとなお良い。

3.効果が出るまで、長期戦を覚悟する

日報を通じて、現場の小さな業務改善のようなアイデアが上がってくることもあるだろう。実行できる内容であれば、すぐに採用する。従業員のモチベーションも高まっていく。ただし、提案を義務付けるのは慎重に考えたほうがいい。提案が目的化してしまうと、従業員は実効性を伴わないアイデアでも出すようになってしまいがちなためだ。

一方、経営方針に反映すべき重大な問題や社員の重要な気づきは、なかなか短期間では得られない。日報でこうした報告を継続して受け取っていくには、長期的な運用と信頼関係の醸成が欠かせない。日報で報告する習慣を続けていくうちに、従業員の考える力が少しずつ育っていくのを、腰を据えて待つ覚悟が必要だ。

【事例】

愛知県の老舗飲食企業の矢場とんでは、創業3代目に当たる現在の鈴木拓将社長が1998年に家業の店に入ってから日報を取り入れた。鈴木社長の当時の役割は、先代の下で全店舗を取りまとめること。「売り上げや来客数、主力メニューの出数を店から送ってもらい、店舗の数字を管理する」「メールで送ってもらうことで、パソコンのスキルを身につけてもらう」。店長に頼んだ日報にはこうした狙いがあった。

ところが、鈴木社長が思いも寄らない展開を見せる。店長が休んだり忙しかったりしたとき、ほかの従業員が代理で書いていたが、次第に自ら進んで仕事の悩みや取り組んでいることなども書く人が増えていったのだ。「心の中を書いてくれたことがとてもうれしかった。互いが腹の中にあるものを出せば距離が縮まる。『どんどん書いていこう』と呼びかけた」(鈴木社長)。

ただし、社長に促されても、心の中をさらけ出すのは勇気がいる。そこで鈴木社長が強く意識したのが、まずは自分が真剣に反応することだ。「勇気を出して書いてくれた従業員に対して、自分が全力で応える。そうすれば『抱えている悩みは、日報に書くと解決するんだ』と分かり、従業員は書きやすくなると考えた」(鈴木社長)。鈴木社長は1時間程度かけて返す言葉を選ぶという。