RoHS指令の基礎

中国RoHS管理規則の変遷にみる規制の本質

2016年2月26日

2016年1月6日付け改正中国RoHS管理規則〔令32号。以下、RoHS(II)管理規則〕が1月21日に公開されました1)。RoHS(II)管理規則は2016年7月1日に施行(発効)され、2006年2月28日公布された中国RoHS管理規則〔令39号。以下、RoHS(I)管理規則(原文、邦訳)〕は廃止されます。

これまで、RoHS管理規則は3回にわたり改正案が公開されました。

  1. 2010年7月版
  2. 2012年6月版
  3. 2015年5月版

改正案の公表の都度に意見募集が行われ、その意見の反映、関係者等との意見交換や国内外の状況から修正されたものが次回の改正案内になっていると思います。これらの変更点から、中国当局の規制動向の狙いを探ってみたいと思います。

1.総則(目的、狙い)

(1)RoHS(I)管理規則

電子情報製品廃棄後の環境への汚染を抑制し削減し、低汚染電子情報製品の生産を促進して、環境と人の健康を保護する。

規制の目的・狙いはEU RoHS指令の「人の健康と環境に優しいリカバリーと廃電気電子機器 の処分を含む環境保護に貢献する観点から、電気電子機器で使用する有害物質の制限する」と同じになっています。

(2)2010年7月版

電子電気製品の廃棄後の環境への汚染を抑制し削減し、低汚染電子電気製品の生産と販売を促進して、人の健康と環境保護する。

廃棄後の環境汚染の抑制というEU RoHS指令と同じ目的ですが、対象製品が「電子情報製品(电子信息产品)」から「電子電気製品(电子电气产品)」に変わっています。対象製品が拡大されたことになります。

また、RoHS(I)管理規則でも販売、輸入に関する事項はありますが、「低汚染電子情報製品の生産を促進」から「低汚染電子電気製品の生産と販売を促進」と、「販売規制」が明記されました。

(3)2012年6月版

2010年7月版との差異はありません。

(4)2015年5月版

対象製品が、「電子電気製品(电子电气产品)」から「電器電子製品(电器电子产品)」に変わりました。「電気」が「電器」に変わりましたが、「電器」は中国語の「家電製品」の略語を指します。これにより、対象製品が家庭用電気製品(いわゆる白物家電)まで拡大されました。

(5)RoHS(II)管理規則

対象製品は、「電器電子製品」で変更はありませんが、「低汚染電気電子製品の生産と販売を促進」から「電器電子業界のグリーン生産および資源総合利用を促進し、グリーン消費を奨励」と変更になっています。

電器電子業界に環境指針的なイメージです。特に、「グリーン消費を奨励」は、特定製品以外は、特定有害物質を含有する製品でも表示することで販売できますが、その含有製品の市場淘汰を狙った政策が展開されるのではと注目をしています。

RoHS(II)管理規則の根拠法に「清潔(グリーン)生産促進法」があり、第16条「各レベル人民政府は、省エネ、節水、リサイクル等環境に配慮した製品を優先的に購入しなくてはならない」があります。これは、日本の「国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律(グリーン購入法)」と同主旨です。含有表示(オレンジマーク)製品と非含有表示(グリーンマーク)製品がある場合は、非含有表示製品を率先して購入することを示唆している気がします。

2.適用範囲

(1)RoHS(I)管理規則

中華人民共和国国内の電子情報製品の生産・販売・輸入過程における電子情報製品の環境に対する汚染及びその他の公害の発生抑制・減少に、本規則を適用する。但し、輸出製品の生産については除外する。

(2)2010年7月版

RoHS(I)管理規則との差異はありません。

(3)2012年6月版

2010年7月版との差異はありません。

(4)2015年5月版

「中華人民共和国の境界内で生産、販売、輸入する電器電子製品に当弁法を適用する。」と文言が整理され、さらに、「但し、輸出製品の生産については除外する。」が削除されました。

中国国内で生産する電器電子製品は、輸出製品も含めて、すべて対象となります。

(5)RoHS(II)管理規則

2015年5月版からの変更はありません。

3.対象製品の定義

(1)RoHS(I)管理規則

「電子情報製品」:電子情報技術によって製造された電子レーダー製品、電子通信製品、ラジオ・テレビ、コンピュータ製品、家庭用電子機器、電子測量機器、電子専門機器、電子部品、電子応用製品、電子材料などの製品とその部品

対象製品は目録「分類注釈(电子信息产品分类注释)」に収載された製品とされています。

(2)2010年7月版

電気電子製品:電流あるいは電磁界に依存して作動し、電流と電磁界を発生、伝送、測定することを目的にするもので、定格稼働電圧は直流1500ボルト、交流1000ボルトを超えない設備および附属品である。但し、電気エネルギーの生産、伝送と分配の設備を除く。

サプライチェーンの上流から下流の製品群表示からEU RoHS指令と同じ「直流1500ボルト、交流1000ボルトを超えない設備とその付属品(組合せ品)」と変わりました。しかし、「電気エネルギーの生産、伝送と分配の設備を除く」とされて、EU RoHS指令と違いがあります。

(3)2012年6月版

2010年7月版との差異はありません。

(4)2015年5月版

2012年6月版との差異はありません。

(5)RoHS(II)管理規則

2015年5月版からの変更はありません。

4.非含有義務

(1)RoHS(I)管理規則

第19条に「国家認証認可監督管理委員会は法に則って電子情報製品汚染抑制「重点管理目録」にあげられた電子情報製品に対して強制的な製品認証管理を行なう」があります。

これが2ndステップと言われるものです。「重点管理目録」は第1次案(2009年9月29日)として、携帯電話、固定電話、プリンターの3品目が出されましたが、「重点管理目録」は発行されていなく2ndステップは施行されていません

非含有は「強制的な製品認証管理」で、3C制度を適用とされています。

(2)2010年7月版

第20条で「電子電気製品汚染抑制は目録管理方式を採用して有害物質を使用制限する」とし、第21条の「電子電気製品汚染抑制標準達成製品目録におさめた電子電気製品は、国家の推進する電子電気製品汚染抑制認証制度の要求に照らし、認証を行う」となりました。

目録管理方式は変わっていませんが、3C制度から「電子電気製品汚染抑制認証制度」に変わりました。「電子電気製品汚染抑制認証制度」は、2010年5月18日に案として出された自発的認証制度(国家统一推行的电子信息产品污染控制自愿性认证实施意见)を指すと解釈されていました。

非含有マーク(以降RoHSマークと略記)も示されました。

(3)2012年6月版

目録管理方式は変更ありませんが、「電子電気製品汚染抑制認証制度」から第21条の「国家は電子・電気汚染制御合格評価制度を作成する。目録に入る電子電気機器製品は、この評価制度によって管理される」と変わりました。

「認証」から「評価」への変化です。評価は2011年8月25日に告示され2)、2011年11月1日実施の自発的認証制度によるものとされていました。

自発的認証制度の対象品目も同日に告示されました3)。

最終製品としては以下で、特定有害物質の用途の除外もあります。

  1. 小型デスクトップパソコン
  2. ノートパソコン
  3. コンピュータ用ディスプレー
  4. テレビ
  5. 携帯端末
  6. 固定電話

用途の除外はEU RoHS指令と類似していますが、除外項目は鉛と水銀のみでカドミウムと六価クロムに関する除外は無く、若干異なるものです。

(4)2015年5月版

2012年6月版と同様に「目録」収載品目について、「合格評価制度」によります。評価制度は前版でも工業情報化部等で制定するとしていましたが、2015年5月版では加えて「電気電子製品の管理目録に収載された電気電子製品は有害物質の使用制限に関する国家基準または業界標準を遵守」が追加されています。評価基準が明確にされました。

(5)RoHS(II)管理規則

2015年5月版と若干の文言の差異はありますが、内容は同じです。

5.引用規格関連

中国RoHS(I)管理規則の特徴は、「含有製品の表示制度」「包装材質表示」「環境保全使用期限」で、国家基準または業界標準で運用されます。この方式は中国RoHS(II)管理規則でも踏襲されています。

ただ、「包装材質表示」については、「電子電気製品有害物質制限使用標識要求 SJ/T 11364-2006」が適用されていましたが、SJ/T 11364-2014(施行2015年1月1日)として改定されました。この改定で、「電子情報製品」を「電子電器製品」に変え、「汚染抑制」を「有害物質使用制限」に変え、2006年版で要求していたGB/T 18455による「包装材質表示」が削除されました。

しかし、SJ/T 11364-2014は、施行直前の2014年12月30日に、2014版は延期し2006版を継続すると告示されました4)。理由として、中国RoHS(I)管理規則の改定途中であることとしています。

中国RoHS(I)管理規則も中国RoHS(II)管理規則ともに、EUのニューアプローチ指令(順法のための技術基準は 欧州規格(整合規格)とし、整合規格に適合する製品は指令の要求に適合するものとする)と同様に、国家基準または業界標準が発行されています。

EU RoHS指令では、CEマーキングが適用され、技術文書で順法確認をして適合宣言をしますが、中国でも「電子電気製品による汚染を制御する企業の適合性声明規範」により適合宣言をする案が告示されています。

関連する主要な標準は下記です。

GB/T 26572-2011 限度要求
GB/T 26125-2011測定法
SJ/Z 11388-2009 環境保護使用期限
GB/T 32274-2014 管理システム
GB/T 11364-2014 表示
(GB/T 18455はGB/T 11364-2014の発効により要求から削除)
GB/T 18455-2010 包装材回収

ただ、中国RoHS(II)管理規則では、対象製品が「電器電子製品」ですが、これらの標準では「電子情報製品」「電子電器製品」などと用語が統一されていません。

SJ/T 11364-2014の延期の理由として、用語の不統一が解説されていました。中国RoHS(II)管理規則の施行は2016年7月1日ですが、施行までに関連標準の改定が行われるのか注目されます。

工業情報化部で、改定の解説を発表していますが、「電器電子産業の発展に伴い、中国RoHS(I)管理規則の関連制度の不適切性が露呈してきたため、改正の必要が生じた」としています。

中国RoHS(I)管理規則から中国RoHS(II)管理規則までの経緯を解説しましたが、改定作業経緯から規制の本質や方向性が見える気がします。本コラムが、中国RoHS(II)管理規則の解釈の参考になれば幸いです。

(松浦徹也)

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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。 法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家に判断によるなど最終的な判断は読者の責任で行ってください。
情報提供:一般法人 東京都中小企業診断士協会