省エネQ&A

冷凍機の冷却水温度低減による省エネとは?

2020年 11月 11日

回答

空調(冷房)用や産業用冷水をつくるための冷凍機を使用している事業者にとって、少ない費用で実施できる省エネ手法の一つです。「冷凍機の冷却水」とは、冷凍機が冷水をつくる過程で生じた熱を除去するため冷凍機に送り込む水です。
冷凍機には、主に電力による圧縮冷凍機と燃料による吸収冷凍機がありますが、ここでは、前者の場合の冷却水の温度低減について記します。

1.冷凍機の冷却水の役割

この省エネQ&Aのシリーズにおいて、冷凍機の冷水について取り上げたことがあります。今回は冷却水を対象とします。はじめに、冷凍サイクルを中心に冷却水の役割を図1で確認します。
圧縮機で高温、高圧の気体になった冷媒を凝縮器において冷やし、液体にするために、水冷方式では冷却水が使われます。凝縮器で暖められた冷却水は冷却塔(クーリングタワー)で冷やされます。一方、凝縮器で液体となった冷媒は、膨張弁を経て蒸発器で蒸発するときに冷水から熱を奪います。こうして冷えた冷水が室内の冷房や製品の冷却などに用いられます。

次に、この冷凍サイクルにおける冷媒の熱量(比エンタルピー)のやり取りを見てみます。図2は冷凍サイクルのP-h線図です。
図の6→1が蒸発、1→2が圧縮、2→5が凝縮、5→6が膨張のプロセスです。各プロセスでの比エンタルピーの増分を
H(蒸発)、H(圧縮)、H(圧縮)とすると、
H(蒸発)=h1-h6
H(圧縮)=h2-h1
H(凝縮)=h5-h2=h6-h2
となります。
ここで、
[H(蒸発) +H(圧縮)]+ H(凝縮)=0
という関係が成り立ちます。

この式から、冷媒は、蒸発で得た熱量と圧縮で出た熱量の合計を凝縮で放出していることになります。これを冷水と冷却水の側から見ると、冷媒は、冷水をつくるために蒸発と圧縮で取り込んだ熱量を、凝縮において冷却水に放出していることになります。そして、その冷却水の熱は、図1のように冷却塔で大気に放出されています。このように、冷却水は、冷媒から熱を奪い冷却塔でその熱を放出し、再度、冷媒を冷やすということを繰り返す役目を担っています。

図1 圧縮式冷凍機のしくみ  1)
図2 圧縮冷凍機のP-h線図上の冷凍サイクル  2)に追記

2.冷却水温度の低減と省エネの関係

冷却水の冷凍機入口、出口の温度には標準値があります。JISによる遠心冷凍機の標準定格条件は、冷却水入口水温は32℃、出口水温は37℃になっています。これは、カタログなどでの冷凍機能力の表示を同じ条件にするためのものです。冷凍機のユーザーがこの温度で運転しなければならない、ということではありません。冷却水の入口温度を下げて運転すれば、冷凍機の効率が良くなります。

このことをp-H線図上で示します。図2において、冷凍機の効率を表す成績係数COPは
COP=H(蒸発)/H(圧縮)
=(h1-h6)/(h2-h1)
です。これは、冷媒が、冷凍機の圧縮機で得た熱量の何倍、蒸発プロセスで熱量を得ているか、すなわち、冷水から熱を奪っているかを表しています。この値が大きいほど効率が良くなります。

冷却水温度を下げたとき、図2の冷凍サイクルの凝縮プロセスの実線2→5が、点線8→9のように変化します。すると、上記のCOPの式で分子のH(蒸発)の(h1-h6)は変わらず、分母のH(圧縮)である(h2-h1)が小さくなりますので、COPは大きくなる、すなわち効率がよくなり省エネとなります。

図3はインバーター付遠心冷凍機の冷凍能力と効率COPの関係を表したものです。冷却水入口温度を14℃から32℃まで3度きざみで変えたときのCOPを表しています。横軸の冷凍能力の同じ線上を見ると、上方の冷却水入口温度が低いほどCOPがよくなっていることがわかります。

図3 冷却水温度を変えたときの冷凍能力対COP  2) (インバータ付遠心冷凍機)

3.冷却水温度低減の方法

冷却水の温度の設定値を下げる際には次のように、設定を何℃にするかということと、どのような頻度で設定値を変えるか、ということがポイントとなります。

(1) 温度の設定値

冷凍機側の限界と冷却塔側の限界があります。
遠心冷凍機の場合には、冷却水温度が低すぎると、凝縮圧力が低下し、凝縮器と冷却器の差圧が低下し、冷凍サイクルの不安定を招いたりすることがあります2)。下限温度は、近年、15℃を下回るものもあります。メーカーや機種により異なっているため確認が必要です。
一方、標準の冷却塔は「外気湿球温度+5℃」になるように設計されています。そのため、冷却塔も冷却水温をいくらでも下げられるわけではありません。また、外気湿球温度は、設置場所の気候によりますのでこれも個別に設定が必要です。

(2) 設定値変更の頻度

冷却水温の設定は、冷凍機の下限値以上の範囲で、外気湿球温度に応じて決めますが、外気湿球温度は1日の中でも、1年の中でも変動します。図4は外気湿球温度の月変化、図5は日変化の例のグラフです。昼間のみの操業か夜間の操業があるか、によっても設定のしかたが変わってきます。
設定値をあまり小刻みに決めるのは現実的でなく、操業形態に応じ、月ごと、または半月ごとに設定を変えることが勧められています。
冷却水温度の設定は、冷却水ポンプまわりのバイパス弁と冷却塔ファンのON/OFF設定で行うのが一般的です。

図4  湿球温度の月変化 3) 図5  湿球温度の日変化 3)

4.おわりに

この冷却水温度低減による省エネは、夏季に冷水による冷房を行っている事務所や冷水を製造工程で使用している工場に有効です。特に、春秋の中間季、さらには冬季にも冷房、冷水が必要な業種の工場や施設においては大きな効果が期待できます。
なお、冷却水温度を下げることにより、冷凍機の動力が低減する一方、冷却塔のファン動力が増加します。総合的に判断しなければなりませんが、冷水が空調用の場合、冷却水を冷凍機の限界まで下げたほうが省エネになる2)、と言われています。ただし、実施に当たっては念のため、試運転中に、冷凍機における消費電力の減少分と冷却塔における増加分を合わせたシステム全体の消費電力量の減少を確認することをお勧めします。

【参考資料】

1) 公益社団法人 空気調和・衛生工学会、図解 空調・給排水の大百科、1999、
2) 公益社団法人 空気調和・衛生工学会、空気調和・衛生工学便覧、2010
3) 佐野 滋、冷却塔の省エネシステム、神鋼ファウドラー技報、1984.6、vol.28、No.2

回答者

エネルギー管理士 本橋 孝久