2026年 6月 29日
会社同士の取引は、本来、対等な当事者同士の契約です。価格、納期、支払条件などは、原則として当事者の合意で決めるものです。
しかし、実際の取引現場では、発注側と受注側が常に対等とは限りません。売上の多くを特定の取引先に依存している会社は、単価の引き下げや追加作業、支払条件の変更を求められても、簡単には断れないことがあります。
そのため、形式上は「合意」があっても、実質的には受注側に不利な条件が押し付けられている場合があります。従来の下請法(下請代金支払遅延等防止法)や、今回下請法から改正された「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(略称:中小受託取引適正化法、通称:取適法(とりてきほう)、2026年1月1日施行)は、このような取引上の力関係に着目し、取引の公正化と中小受託事業者の利益保護を図る法律です(取適法第1条・目的)。
また、この法律は、単に「弱い会社を守る法律」というだけではありません。発注側にとっても、後日のトラブル、行政対応、信用低下を防ぎ、取引先と安定した関係を続けるための重要なルールとなります。
近年は、原材料費、人件費、物流費などの上昇により、価格転嫁や支払条件の見直しが大きな課題となっています。そこで、取適法では、価格協議への対応、支払方法、対象取引の範囲などについて、従来よりも踏み込んだ見直しが行われています。
本連載では、全4回にわたり、取適法の基本、禁止行為、発注書・支払条件、社内体制の整備について、できる限り分かりやすく解説します。
1.取適法の主な改正ポイント
下請法から取適法への改正は、単に法律名が変わるだけではありません。実務上の変更点としては、次の6点が特に重要です。
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法律名や用語が見直されます。「親事業者」「下請事業者」という表現は、「委託事業者」「中小受託事業者」という表現に整理されます。これは、上下関係のイメージだけでなく、委託する側・受託する側の取引を広く適正化する方向への変更です。
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価格協議への対応が重視されます。受注側から価格協議を求められたにもかかわらず、協議に応じない、必要な説明をしない、一方的に代金を決めるといった対応は問題になり得ます。価格改定の申入れを受けた場合には、誰が、いつ、どのように協議したかを記録しておくことが重要です。
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支払方法が見直されます。手形払いなど、受注側が支払期日までに代金を受け取れない支払方法は、今後認められなくなりますので注意が必要です。「昔からこの方法で支払っている」というだけでは、取適法上問題となる可能性があります。支払方法の適法性については、あらためて確認が必要です。
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対象取引の範囲が広がります。特に、従来の下請法では対象外であった運送委託が対象に加わる点は、製造業以外の会社にとっても重要です。
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適用対象の判断に従業員数基準が加わります。従来のように資本金だけで「うちは対象外」と判断するのは、注意が必要です。従業員数基準が新たに加わり、適用範囲が広がるためです(取適法第2条・定義)。
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行政による執行・指導等の体制も強化されます。違反しないよう注意するとともに、発注書、支払条件、価格協議の記録などを整え、後から説明できる状態にしておくことが、これまで以上に重要になります。
2.中小企業も「守られる側」とは限らない。取適法の対象となる会社・取引とは?
取適法が適用されるかどうかは、大きく分けて、以下の2つによって判断されます(取適法第2条・定義)。
(1)どのような取引か
(2)発注側と受注側の会社規模がどうか
特に重要なのは、中小企業であっても、外注先に仕事を依頼していれば「委託事業者」としてルールを守る側になることがある、という点です。一方で、大きな取引先から仕事を受けていれば、「中小受託事業者」として保護される側にもなります。
取適法の適用対象は、取引の内容と、委託事業者・中小受託事業者の資本金または従業員数の関係によって判断されます。以下は概要を理解するための簡略表です。
3.経営者がまず確認すべき5つのポイント
取適法対応の第一歩は、自社の取引を棚卸しすることです。
まず、自社がどの取引で「発注側」になり、どの取引で「受注側」になっているかを整理します。次に、外注先に依頼している業務の内容、発注書の有無、代金額、支払期日、支払方法を確認します。
また、価格改定の申入れがあったとき、誰がどのように対応しているかも重要です。協議に応じたか、どのような資料を確認したか、どのような理由で価格を決めたかを記録しておくことで、後日の説明がしやすくなります。
追加作業、仕様変更、納期変更、やり直しの依頼なども、現場判断だけで進めるとトラブルになりやすい部分です。支払遅延、受注側に責任がない減額、不当なやり直し要請などは、禁止行為として問題になり得ます。
4.取適法対応は取引先との関係を見直す経営課題である
取適法は、単なる法改正ではありません。中小企業の取引のあり方そのものを見直すきっかけとなるものです。
取引先に無理な条件を求めれば、一時的にはコストを抑えられるかもしれません。しかし、その負担は、品質低下、納期遅延、人材不足、取引関係の悪化という形で、いずれ自社にも返ってくることがあります。
取適法対応で必要なのは、特別な書類を大量につくることではありません。自社がどのような条件で発注し、どのように価格や支払条件等を決めているのかを整理して、必要な見直しを行っていきましょう。
次回は、取適法で問題となりやすい禁止行為について、価格交渉、減額、やり直し、支払遅延など、現場で起こりやすい具体例をもとに解説します。
監修
松澤経営法律事務所 所長
松澤社会保険労務士事務所 所長
弁護士・社会保険労務士 松澤 功




