法律コラム

改正雇用保険法(第1回)—自己都合離職者の給付制限期間短縮について—

2025年 6月 4日

令和7年4月1日施行の改正雇用保険法により、離職期間中や離職日前1年以内に、自ら雇用の安定および就職促進に資する教育訓練を行った場合は、給付制限が解除されます。また、自己都合離職者に対しては、これまで原則2か月であった給付制限が、同年4月から1か月に短縮されます。ただし、過去5年間に3回以上自己都合退職があった場合は、従来どおり3か月の給付制限が適用されます。

基本手当の受給手続きの流れ(自己都合退職者)

1.雇用保険法とは

雇用保険制度は、昭和22年に「失業保険制度」として創設されました。その後、給付面の不均衡を是正するとともに、保険事故である失業の予防と減少に資する附帯事業を備えた雇用に関する総合的な機能を果たす保険制度として昭和50年に「雇用保険制度」となり、現在に至るまで、労働者にとっての雇用のセーフティネットとしての役割を果たしてきました。

雇用保険制度の中核的な給付である失業等給付は、失業中の生活保障を行う機能を有しています。安定した財政運営状況を背景に、平成7年に育児休業給付や高年齢雇用継続給付、平成10年に教育訓練給付、平成11年に介護休業給付が創設されるなど、さまざまな給付が追加されてきました。

昨今は、コロナ禍が労働市場に与えた影響や、近年の労働者の働き方や家族に関する意識の多様化、産業構造・労働市場の変化を踏まえ、雇用保険制度が雇用のセーフティネットとしてどうあるべきか検討されています。

2.求職者給付の考え方

雇用保険の求職者給付(基本手当)の考え方としては、倒産・解雇など自らの意思によらない失業に対して給付を行うことが基本とされています。自らの意思により離職する者をそうでない者と同様に取り扱うことは、基本手当を受給することを目的として離職する者の発生を助長しかねません。また離職前に求職活動中の生活設計を立て得るため、解雇などにより急に収入の途絶えた者とは生活保障の必要性が相当異なります。このようなことから、正当な理由のない自己都合離職の場合について、給付制限の制度が設けられています。

給付制限は、受給資格者の就職意欲を喚起し、受給資格者が失業保険の受給のみに依存して怠惰に陥ることを防止することで、再就職の促進を図ろうとするものです。給付制限期間の短縮により一定期間の失業を選択しやすくなり、転職活動がしやすくなるという考え方もありますが、他方、安易に離職したり、給付の受給を目的に離職したりすることによって、失業者の増加を招くという考え方もあります。

このように、給付制限期間の短縮は、理論上は、離職を促し求職期間を延ばす一方でマッチングの質が向上すると考えられていますが、現実には離職せずに転職できる者が、給付を受けるために、意図的に離職期間を設けるといった行動を誘発する可能性も指摘されています。

3.給付制限期間の変遷

自己都合離職者に係る給付制限期間については、昭和59年の雇用保険法改正以降、変遷を遂げてきました。かつては、受給資格者の6割が正当な理由のない自己都合離職者であり、その傾向は特に若年層で顕著でした。このため、給付制限期間が1か月と短期間であることが安易な離職を助長しているのではないかとの指摘があり、自己都合離職者の給付制限期間は1か月から3か月に延長されました。

そして、一定期間に複数回自己都合で離職した者の状況を検証した結果、平成29年10月および令和2年10月に受給資格決定した自己都合離職者のうち、2年以内に2回以上自己都合離職者として受給資格決定した者の割合はいずれも1%程度であり、給付制限期間の短縮前後で大きな変化は見られませんでした。そこで、令和2年10月から正当な理由のない自己都合離職者の給付制限期間を2か月(5年間のうち2回までに限る)に短縮する措置を試行することとし、2年後をめどとしてその効果を検証することになりました。

受給資格決定者数に占める自己都合離職者数の割合の推移(年度別)
自己都合離職者数の推移(月別)

4.中小企業にとっての影響

今回の自己都合離職者の給付制限短縮は、企業、とりわけ中小企業にとっては大きなインパクトとして捉えられています。

働き方改革によって、テレワーク、在宅就業が定着してきたことや、フレックスタイム制などの労働時間制において柔軟な働き方が促進され、育児や介護と仕事の両立支援も図られてきています。それによって、女性の社会進出は目覚ましい発展を遂げており、また、高齢者雇用安定法の改正もあり、高年齢者が活躍できる環境も整備されています。

これらは、労働力人口が減少していく状況において、労働力を確保するために講じられているさまざまな施策の一環といえます。しかしながら、今回の自己都合離職者の給付制限短縮は、雇用の流動化を一層、推し進めることとなるでしょう。離職率がさらに高まり、人材確保に不安を感じる中小企業も増えています。

しかし、今回の雇用保険改正は、給付制限よりも教育訓練を重視して再就職を支援する施策であり、個人だけでなく企業の成長にもつながるものです。そして今回の改正雇用保険法は、中小企業において、一人ひとりが働きやすい雇用環境の整備やきめ細やかな労務管理の契機となることが期待できます。

監修

社会保険労務士法人三平事務所 三平和男代表社員