民法改正による新制度(第1回)- 定型約款

2021年7月14日

解説者

弁護士 橋本阿友子

今般、民法が改正され、令和2年4月1日から施行されています。債権関係の規定は、明治29年に民法が制定された後約120年にわたって、ほとんど改正が行われてなかった分野ですが、この度社会や経済の変化に対応すべく、大幅に見直しが行われました。

定型約款は、この改正によって新設された制度です。本稿では、制度新設の経緯、制度の概要、実務への影響について解説いたします。

1.前提-制度新設の経緯

我々が日常生活を送る上で、契約は不可欠です。例えば、電車に乗る、電気やガスの申込をするなどの際にも、利用者と事業者の間の契約が存在するはずです。しかし、これらのサービスを利用するにあたり、通常、利用者には契約の内容について交渉をする機会は与えられず、事業者が作成した「約款」に基づいて取引が行われているのが現状です。

しかし、「約款」は、日常生活で広く利用されているにもかかわらず、改正前民法では明示的な定めがありませんでした。「約款」に基づく取引は、当事者間で、いくら払って電車に乗る、電気やガスを利用する、といった“ざっくりした”内容の合意しかないのが通常です。「約款」には本来細かい定めがあるのですが、これらは事業者が一方的に作成したものであり、利用者が条項の内容を認識していないことも珍しくありません。当事者間の合意があるからこそ契約は法的拘束力を有するというのが基本的な考え方ですが、一方当事者において認識の薄い「約款」に、当事者間の合意に基づく法的拘束力があるとは言い難いという問題があります。一方で、定型的な内容が想定される契約類型においては、個別の契約交渉がなじまず、「約款」の法的拘束力を認めないと、円滑な取引を阻害させることになってしまいます。約款に含まれる条項が契約内容になることが争われた裁判では、ケースごとに判断が分かれるなど、民法の透明性にも疑問が投げかけられていました。

そこで、改正民法は、「約款」に関するルールをもうけ、明確化をはかりました。

2.定型約款の定義

改正民法は、定型的な約款については、利用者の個別の同意がなくとも、同意があるものとみなせる、つまり契約の内容とみなせる場合を規定しました(改正民法548条の2第1項柱書)。

定型約款の主な要件は、以下のとおりです。

①不特定多数の利用者に対する取引であること
②取引の内容の全部又は一部が画一的であることが双方にとって合理的な取引であること
③事業者が準備した条項群であること

①取引に個性があったり、特定の者に対する取引は、定型約款とはいえません。具体的には、労働契約などは、取引に個性があり、定型約款ではないと考えられます。

②定型約款といえるためには取引の内容が画一的である必要があります。もっとも、画一的であるからといって必ずしも定型約款といえるわけではなく、一方当事者において契約内容を定めることにつき合理性が認められる必要があります。

③定型約款と認められるには、事業者が準備したものである必要があり、契約当事者が個々の条項を交渉して契約締結するという場合は含まないと考えられます。例えば、もともと個別交渉を予定している合意書の条項などは、この要件を満たさないと考えられます。

「約款」と呼ばれている場合でも、民法上の定型約款に該当するか否かは、上記①~③の要件を満たすかどうかで判断されます。そのため、最終的には個別判断にならざるを得ませんが、一般的に、「●●規約」や「標準●●」など名称で既に作成されたもので利用者に提示されるものは、民法上の定型約款に該当する場合が多いのではないかと思われます。具体的には、既に述べた鉄道等の旅客運送約款や電気供給約款、保険約款に加え、インターネットサイト利用規約やPCソフトのライセンス契約などが、定型約款の例として挙げられます。他方、住宅ローン契約書や賃貸借契約などは、画一的な要素を持ちつつも、交渉が可能な場合もあり、現段階では定型約款といえるか微妙なものもあり、今後の裁判例の蓄積が待たれます。

3.定型約款に該当した場合の効果

(1)みなし合意の成立

定型約款が以下を満たす場合には、定型約款が契約の内容とみなされます。

①定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたこと
②定型約款準備者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたこと

①の規定に基づくと、定型約款を契約の内容とする旨の合意があれば、利用者が個々の条項に同意していなくとも、定型約款が契約の内容となります。また、②の規定により、定型約款準備者(事業者)があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方(利用者)に表示していれば、当事者(利用者)が約款の個別の条項の内容に同意していなくとも、当該定型約款の約款条項が契約の内容となります。

つまり、当事者(利用者)が、約款の個々の条項に同意しなくとも、①・②の組入要件を満たす定型約款であれば、個々の条項に同意したのと同じ効果を生じる-法的拘束力をもつ-ことになります。この点において、民法の基本原則の考え方-当事者間の合意によって、法的拘束力が生じる-が修正されていると考えられます。

(2)不当・不意うち条項のみなし合意からの除外

定型約款が、個々の条項の同意がなくとも契約の内容に組み込まれる(法的拘束力を持つ)のは、定型約款が画一的な内容であるという前提があります。この前提が崩れる場合、つまり合理的に予測ができない約款条項(不意打ち条項)は、利用者による“ざっくりした”合意の範囲を超えてしまうもので、利用者保護の観点から拘束力を否定すべきと考えられます。また、利用者を害する不当な条項についても、同様です。改正にあたってはこれらの点につき多角的な議論がなされましたが、結果として、改正民法は、不意打ち条項と不当条項を一本化し、一定の場合に約款条項の法的拘束力を否定することと規定しました。

改正民法548条の2第2項は、以下の場合にみなし合意から排除される(法的拘束力を否定される)と定めていますが、この規定は、不意打ち条項と不当条項の双方に適用されることが想定されています。

①相手方の権利を制限し、または相手方の義務を加重する条項であること
②信義則(民法1条2項)に反して相手方の利益を一方的に害すると認められること

そのため、「解約する場合には多額の違約金を支払う義務がある」といった不当な条項に限らず、「商品購入には、継続的にメンテナンス費用を支払わねばならない」といった、条項自体に不当性はないが通常メンテナンスが想定されない取引においての不意打ち的な条項についても、効力が否定される場合があることを含む趣旨と考えられます。

立法経緯からすれば、この①・②該当性は、広く認められるものと考えられますが、この解釈についても、今後の裁判例の蓄積が待たれます。

4.定型約款表示義務

定型取引を行い、または行おうとする定型約款準備者(事業者)には、相手方(利用者)から請求があった場合には、遅滞なく、相当な方法で定型約款の内容を表示しなければならないという義務がかされました(改正民法548条の3第1項)。この開示義務に違反した定型約款準備者(事業者)は、一般的な債務不履行に基づく損害賠償を受ける可能性が生じることになります。

また、定型約款準備者(事業者)が、契約前に正当な理由なくこの開示請求を拒んだときは、改正法548条の2の組入規定は適用されないと規定されています(改正民法548条の3第2項)。定型約款準備者が相手方(利用者)に対し、定型約款の事前開示を拒んだ場合にまで、約款条項の契約内容への組入れを認めるべきではないとの趣旨から定められたものです。

5.実務への影響

民法上の定型約款に該当する場合について、組入要件を充たせば、定型約款の条項が契約内容となることを説明しました。もっとも、既に指摘したとおり、民法上の「定型約款」にあたるためには2①~②の要件を充足せねばならず、要件を充足しない約款や規約については、改正民法の約款に関する規定が当然に適用されるわけではありません。この場合、従前の、民法改正前の議論が依然妥当する可能性があります。

事業者は、当事者双方の合理的意思として、当該約款や規約の内容が契約の内容になっていることを立証しなければならない負担を負うものと考えられますが、既に述べたとおり、定型約款に該当しない約款や規約の扱いは、依然として不明確であり、今後も引き続き見直しが期待されます。

解説者

事務所:骨董通り法律事務所
資格:弁護士
氏名:橋本阿友子