~中小企業経営者は、今の景気をどのように感じているのか~

第150回中小企業景況調査【平成29年10~12月期】

緩やかな改善の中で存在感を増す人手不足と“高齢化”問題

2017年10-12月期の中小企業景況調査は、全産業の業況判断DI(前期比季節調整値)が▲14.4(前期差0.4ポイント増)となり、2期ぶりに上昇に転じ、緩やかな改善基調が続いている。その一方で、人手不足が深刻さを増しており、全産業の従業員数過不足DI(今期の水準)は、▲20.6(前期差1.9ポイント減)と、6期連続して不足感が高まっている。こうした中、今期調査に寄せられたコメントからは、人手不足感の高まりとともに、全国の中小企業において経営者や社員の高齢化が深刻化しており、その影響を受け、廃業も身近な問題となりつつあることが伺える。

1.産業別・規模別に見る業況判断DIの推移

今期の全産業の主要DI(前期比季節調整値)は、業況判断DIで▲14.4(前期差0.4ポイント増)、売上額DIで▲12.5(前期差1.7ポイント増)、資金繰りDIで▲11.4(前期差0.1ポイント減)となっている。

さらに、業況判断DI(前期比季節調整値)を産業別に見ると、製造業▲7.9(前期差3.3ポイント増)、建設業▲6.1(前期差1.9ポイント増)、卸売業▲13.5(前期差2.5ポイント減)、小売業▲27.1(前期差0.9ポイント減)、サービス業▲13.8(前期差1.5ポイント減)となっており、リーマンショック以降、比較的高い水準にある。

業況判断(「好転」-「悪化」)DIの推移(産業別・前期比季節調整値)

また、業況判断DI(前期比季節調整値)を規模別に見ると、中規模企業が▲9.8(前期差0.6ポイント増)、小規模企業が▲16.1(前期差0.3ポイント増)と水準に開きはあるものの、両規模とも改善の動きの中にある。

業況判断(「好転-悪化」)DIの推移(規模別・前期比季節調整値)

一方で、従業員数過不足DI(今期の水準)を産業別に見ると、製造業で▲21.3(前期差4.0ポイント減)、建設業で▲33.4(前期差3.2ポイント減)、卸売業で▲15.3(前期差2.6ポイント減)、小売業で▲11.6(前期差1.1ポイント減)、サービス業で▲22.6(前期差0.4ポイント減)と、いずれも不足感が高まっており、やはりリーマンショック以降、最も高い水準となっている。

従業員数過不足DI(今期の水準)

2.自社・取引先企業の経営者・社員の高齢化とその影響

産業ごとにややバラツキは見られるものの、このところ、中小企業の経営環境は比較的高水準で安定した状況にある。こうした緩やかな改善の中に置かれているにもかかわらず、今期、高齢化や廃業といった言葉とともに、将来を不安視するコメントが経営者より多く寄せられている。

【コメント】

  • 従業員15名中70才以上が5名も占めている状態であり、また外注の主人も病気であったりと、高齢化を感じます。30代1名入社したものの間に合いません。みんなで頑張るしか手はないのでしょうか。(繊維工業 秋田)
  • 下請業者の高齢化により、手の込んだ製品が出来なくなってきている。(繊維工業 茨城)
  • 漁師さんが高齢化し、後継者もいない。(輸送用機械器具 徳島)
  • 人口の高齢化に伴い需要の低下が目立つ。取引先元請業者の廃業に伴い、受注が減った。(その他製造業 北海道)
  • 地域内人口減少による経済低迷及び既存企業の設備投資減少、新規企業進出の停滞等で、企業経営不安が増している。同時に社員の高齢化による技術の継承と顧客の引き継ぎの困難さが顕在化している。(建設業 山形)
  • 同業社が少なくなっており受注は高水準。職別工事業者も高齢化で減少傾向にある。(建設業 埼玉)
  • 高齢化で廃業する工務店があり、得意先が減少している。(建設業 兵庫)
  • 小売店主、及び顧客の高齢化。優良大型小売店での他社との競争激化。年々増える小売店の廃業。(卸売業 群馬)
  • 経営者の老齢化が進み跡継ぎも見込みがたたないが、廃業すると地域のお客様に修理の出来る店がなくなるため、迷惑をかけるのでもう数年はがんばろうと思っています。(小売業 秋田)
  • 客も店主も高齢化が進み、廃業する店が多い。(小売業 石川)
  • 小売店の廃業が段々増えてきました。原因は業況悪化もありますが店主の高齢化と後継者不足もあります。小売店を利用されるのは大体ご年配が多いのでつとめて明るい話をするようにと心掛けています。(小売業 滋賀)
  • 高齢化・少子化・人口減等さらに後継者がない状況で、限界商店として今後兼業又は廃業への道を選ばざるを得ない?(小売業 兵庫)
  • 町内の同業他社が高齢のため、廃業が予測されるので、好機ととらえ、何としてでも頑張っていきたい。(小売業 岡山)
  • 経営者、従業員ともども高齢化しているので、なかなか以前の様に頑張れない状況。休日を少し増やしている。(飲食店 栃木)
  • 事務所の老朽化をどうにかしたいが、先行きが不安定な為なかなか実行にうつせない。又、従業員が高齢化してきており、募集はしているがなかなか集まらない状態である。(対個人サービス業 福井)
  • 業況は、今の所不変の状態ですが従業員が高齢化していてこの先が心配です。自分が働けなくなれば廃業も考えています。(対事業所サービス業 岩手)
  • 人材不足の中、熟練従業員の高齢化。人材への悩みが増える。若手の確保には、人件費の増加がさらに必要。(対事業所サービス業 愛知)

3.見通し:「高齢化」と向き合う中小企業経営者の目線

高齢化の影響は、中小企業を取り巻く多くの関係者に及んでいる。今期は比較的高水準の業況判断DIの中にあっても、その影響を受け、将来的な停滞や廃業を示唆するコメントが多く寄せられた。

同業他社の廃業は、自社にとって新たな取引先の開拓や受注につながるため、好機として捉えるべき側面もある。ただし、コメントにもあるとおり、地域から競争力のある企業が消えていくことは、地域の雇用創出力や生産性の低下、魅力の減退につながる危険性をはらんでいる。

高齢化の波が避けられないものである以上、活動を継続する意思がある企業であれば、高齢化への対応がいつか必ず必要となる。特に、現在の場所で活動を継続していく意思がある場合、高齢化の影響を検討する必要がある範囲は、経営者自身や従業員、取引先に限らず、同業他社にまで及ぶだろう。高齢化という言葉に含まれるマイナスイメージのせいで、なかなか経営者は正面きって、話題にとりあげることができないかもしれない。しかし、地域の中で、たった一社でも競争力のある企業が廃業すると、地域経済はその魅力を喪失してしまう。“高齢化”は一企業の中だけでは済ますことができない問題なのである。

こうした中で、中小企業経営者には、自社だけでなく、地域全体の高齢化を経営課題として認識し、他社の高齢化の状況を理解する力が求められる。地域経済の中で活動する多くの中小企業経営者が、高齢化を踏まえた今後の見通しを相談し合ったり、情報を共有することに積極的であれば、早期に取引先や従業員を引き継ぐ新たな担い手を確保できたり、高齢化に端を発した廃業などの影響を抑えることができる。そうした意味でも、今、地域には、高い目線を持つ中小企業経営者の存在が必要不可欠となっている。

文責

ナレッジアソシエイト 平田博紀

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