新型コロナウイルス-課題と分析

2022年 11月29日

2022年度 中小企業の日に寄せて
コロナ禍での中小企業の声を聴く:中小企業景況調査の活用

RIETI 小西葉子

7月20日は中小企業の日~7月は中小企業の魅力発信期間~

弊所では、7月20日に独立行政法人中小企業基盤整備機構(以降、中小機構)との共催BBL「コロナ禍での中小企業の声を聴く:中小企業景況調査の活用」を開催した。中小企業基本法が公布・施行された7月20日を「中小企業の日」、7月の1か月間を「中小企業魅力発信月間」とし、2019年度からさまざまなイベントが行われている(注1)。

当日は、モデレータに中小機構の伊原誠課長、コメンテータに中小企業庁の芳田直樹室長という「中小企業景況調査(注2)」をとりまとめるお二人をお迎えした。著者は、グラフ描画のひと手間、客観データの併用でコロナ禍の中小企業の声を聴き、調査の魅力を報告した。本イベントは開催後、「中小企業の日」の公式な関連イベントとして登録された(注3)。

図1 中小企業の日のロゴマーク
出所:中小企業庁

「中小企業景況調査」の4つの特長

中小機構の「中小企業景況調査」の特長を紹介する。

  1. 中小企業が対象で、約8割小規模事業社
  2. 対象企業数が多く、離島を含む全国津々浦々を網羅
  3. 調査員調査によるきめ細やかな聴き取り、高い回収率と高い信頼性を実現
  4. 調査は40年以上続き、円高不況、バブル崩壊、アジア通貨危機、リーマンショック、東日本大震災、コロナ危機等、さまざまな事象を網羅

表1で中小企業の景気状況を聴く調査を紹介する。本稿で使用する「中小企業景況調査」は、調査対象企業が約19,000社で最も多い。客体負担の観点から公的統計調査でアクセスしにくい小規模事業者が大勢を占める。また、回収率の高さも直近の調査で96.2%と突出して高い。これは全国の商工会、商工会議所の経営指導員、および中小企業団体中央会の調査員が対象企業を訪問し、聴き取り結果を調査票に記入するからである。期間の長さも特長で、1981年7-9月期の第1回調査から欠かさず40年以上実施され、直近の2022年の4-6月期で第168回を迎えた。

表1 中小企業を対象とした景況調査について
出所:各統計調査のHPから著者作成

マクロで俯瞰するコロナ禍のショック

「中小企業景況調査」には企業経営に関するさまざまな質問項目があるが(注4)、本稿では、企業が直面する総合的な状況を理解するために1994年4-6月期から調査項目になった「今期の業況水準」を使用する(注5)。企業は今期の業況水準について「良い」、「ふつう」、「悪い」のうち1つ選ぶ。それらを集計し「良い」と答えた企業数と「悪い」と答えた企業数の比率の差であるDI(Diffusion Index)を計算する。最大値は100%ポイント、最小値は-100%ポイント、0のとき「良い」と答えた企業数と「悪い」と答えた企業数が等しい。

表2は、28年間113時点の今期の業況水準DIを低い順に並べた下位の順位表である。建設業を除く4産業で第1回目の緊急事態宣言時の2020年4-6月期(2020年II期)が過去最も低いDI値となった。中でもサービス業は全期間、全産業の中で最もDI値が低かった。さらにコロナ禍の4時点が5位中に含まれ、コロナ禍で最も影響を受けた産業だ。

表2 今期の業況水準DIの下位順位表 :全期間 (1994年II期~2022年II期)
出所:中小企業基盤整備機構の「中小企業景況感調査」より著者作成

図2でサービス業の7業種の業況水準DIの推移を見てみよう。サービス業といっても業種により、DI値も推移の仕方も異なることが分かる。特に飲食業と宿泊業は1回目の緊急事態宣言時に、-91.6と-95.2と9割以上の企業が業況が「悪い」と答えた。その後も他業種が回復する中、緊急事態宣言、まん延防止等重点措置期間にDI値が下がり、期間外に改善するというのを繰り返している。

図2 サービス業(7業種)の業況水準DIの推移
出所:中小企業基盤整備機構の「中小企業景況感調査」より著者作成

宿泊業の地域分析:景況DI値と客観的指標を組み合わせる

コロナ禍では経済指標の多くが、1回目の緊急事態宣言付近で大きく落ち込んだ。中小企業の業況も2020年II期(4-6月期)が底になっており、サービス業では図2に示すように飲食や宿泊といった観光関連のサービス業が長く大きな打撃を受けている。

図3は全国と9地域の宿泊業の今期の業況水準DIである。最も業況が低かった2020年II期(黄緑色)と比較するために、コロナ前の2019年II期(赤色)、翌年の2021年II期(紫色)、翌々年の2022年II期(水色)を描画する。同時期の比較により季節性も考慮できる。

図3 宿泊業の全国と地域別の今期の業況水準DI
出所:中小企業基盤整備機構の「中小企業景況感調査」より著者作成

Go To トラベル時の景況DI値と客観的指標:改善した東北、浮上しなかった北海道と沖縄

図3の破線に注目しよう。2020年IV期(10-12月期)はGo To トラベルキャンペーン期間で、東北のDI値(-21.9)が最も高く、コロナ前よりも高い水準となった。しかし多くの地域が回復するなか、北海道は-80、沖縄は-88.9と観光地として人気のある2地域のDIは浮上しなかった。

図4でGo to トラベルキャンペーンの需要増を客観的な指標でも確認する。2020年IV期の調査日が含まれる11月第3週の前年同週比は、コロナ禍にもかかわらず、全国121%増、全ての地域で前年同週を上回った。東北の230%増は前年同週の3.3倍にもなる。一方、北海道は75%増(1.75倍)で、他地域と比較して低い伸びとなった。沖縄はこの調査では九州・沖縄となっているので直接見ることができないが、全国平均を下回っていた。

図4 2020年10-12月期調査週の(11月第三週)の宿泊者数の前年同週比
出所:V-RESAS、観光予報プラットフォーム推進協議会(事務局:日本観光振興協会)『宿泊者数』を使用して著者作成

続けてGo Toトラベルキャンペーン時に北海道と沖縄のDI値が回復せず、東北が改善した理由を探索する。図5は、日々の感染者数の累積相対度数である。(a)は北海道と沖縄と比較のために東京と大阪を加えている。(b)は東北地方の6県の結果である。2020年IV期を灰色で網掛けし、調査日の11月15日は青色線で示した。沖縄は8月以降感染者数が急増し、調査日付近でいち早く全体の50%を超えている。北海道も10月に25%を超えた後はグラフが立ち上がり、短期間で急増している。

一方、東北6県は、10月時点で全体の25%を超えておらず、(a)の地域と比較して下方に分布している。青森は10月中旬、岩手と山形は景況調査の調査日付近まで総感染者数がほとんど変化していない。

この時期の東北地方のDI値の大幅な改善は、感染拡大のタイミングが他地域とずれ、低い水準を維持していたこととGo Toトラベルキャンペーン時の需要増が要因である。

図5 日々の新規感染者数の累積相対度数分布 (2020年1月16日~2021年1月23日)
出所:日本放送協会(NHK)の「特設サイト新型コロナウイルス」の都道府県別データ(注6)を使用して著者作成

直近(2022年4-6月期)の景況DI値と客観的指標:厳しい状況が続く沖縄

図3に戻って、直近の2022年II期のDI値(水色)を見てみよう。沖縄以外の地域は2020年、2021年と比較して大幅に改善した。北海道はインバウンド需要で活況だった2019年よりも高くなった。一方、沖縄は2020年、2021年と全企業が「悪い」と答え、2022年も依然として-80と8割の企業が「悪い」と答えており厳しい状況が続いている。

図6は、2022年6月第1週の宿泊者数の2019年同週比を示す。DI値が最も高かった北海道の前値同週比が17%増と最も高い。軸の目盛に注目しよう。図4と比較すると最大値が10分の1である。Go To トラベルの観光需要への影響は短期間かもしれないがあったと言える。

図6 2022年4-6月期調査週の(6月第一週)の宿泊者数の前年同週比
出所:V-RESAS、観光予報プラットフォーム推進協議会(事務局:日本観光振興協会)『宿泊者数』を使用して著者作成

沖縄の景況DI値が回復できなかった理由をもう一つの客観データで探索しよう。

図7は2022年1月から7月17日までの直近1週間の人口10万人あたりの感染者数の推移だ。北海道は人数も少なく、調査日付近に向かって減少している。一方、沖縄の人口10万人当たりの感染者数は3月末から増え始め、ゴールデンウィーク以降ピークを迎え、以降も高止まり後に急増している。沖縄の宿泊業が長期に渡り厳しい状況にあることがわかる。

この様に、2020年IV期と2022年II期の北海道と沖縄を比較することで、宿泊業の業況DIと感染者数の増減に関係があることがわかる。

図7 直近1週間の人口10万人あたりの感染者数の推移(2022年1月1日~7月17日)
出所:日本放送協会(NHK)の「特設サイト新型コロナウイルス」の都道府県別データ、人口は総務省令和二年の「国勢調査」を使用して著者作成

パッと見てわかる都道府県業況の推移:視覚化の工夫で理解を深める

地域の違いを示す図法として、白地図に色で指標の高低を示す方法があるが、今回は各地域の景況感の高低差を示し、コロナ前とコロナ禍の4時点を比較する工夫をした。図8はサービス業の業況DIの推移である(報告資料では他産業の結果も示した)。中心が-100で、輪が外側に向かう程、DI値は高くなる。破線は各時期の全国のDI値である。各時点の破線と実線を比較することで、自県が全国値よりも高いか低いかを比較できる。視覚化の工夫で、自県の産業間での高低を知ることで、政策の必要性の優先順位を付けることに役立つ。

サービス業は他の産業と比較して、各年の線が交差していないのが特徴で、時間の経過とともに、コロナ前の水準に近づいている。ただし、沖縄はコロナ前が高かったこともあり、コロナ前の水準に程遠い状況である。

図8 サービス業の景況感(コロナ前とコロナ禍の比較)
出所:中小企業基盤整備機構の「中小企業景況感調査」より著者作成

もしも、西高東低の傾向があれば、向かって左側が張り出したような形になる。また9地域がそれぞれに傾向を持つならば、東北に属する県は高く、九州の県は低くなど近隣県が僅差の景況感になり地域ごとに凸凹する。しかし結果は、どの産業もおおむね左右対称、上下対称で、その上で各都道府県の景況感の分布が花のようだった。近隣の地域と似たような景況感ではなく、それぞれに独自の景況感になっているのが興味深い。

「中小企業景況調査」は長い年月に渡り、日本を支える中小企業の景気動向と生の声を届けてきた。ぜひ四半期に一度耳を傾け、政府機関は政策に、支援機関は動向把握に、中小企業は他の企業の動向を把握することで企業戦略に、目まぐるしく変化する「いま」を知ることに活用して頂ければ幸いである。

2022年7月20日開催のBBLの資料、報告、コメントや質疑応答については、下記で公表されています。

脚注

(注1)中小企業の日

(注2)中小企業基盤整備機構「中小企業景況調査」

(注3)2022年度「中小企業の日」「中小企業魅力発信月間」関連イベント一覧

(注4)中小企業景況調査では、四半期ごとに自社の業況判断、売上額の増減、売上単価・客単価の上昇低下、原材料・商品仕入単価の上昇低下、採算(経常利益)の判断、資金繰りの判断、借入難易度、従業員数の過不足、生産設備の過不足、設備投資動向、経営上の問題点、状況判断の背景(100文字以内の自由回答)を問う。
(参考)製造業の調査票

(注5)業況に関する項目は、1980年から調査開始した前期比、前年同期比、来期の見通し(前年同期比、今期比)と、1994年から開始した今期の水準(過去との比較なし)がある。

(注6)NHK特設サイト 新型コロナウイルス

本レポートは、独立行政法人経済産業研究所(RIETI)の協力を得て、下記サイトのコラムを転載したものです。
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