~中小企業経営者は、今の景気をどのように感じているのか~

第149回中小企業景況調査【平成29年7~9月期】

中小企業と設備投資:老朽化への対応を探る経営者

2017年7-9月期の中小企業景況調査は、全産業の業況判断DI(前期比季節調整値)が▲14.8(前期差0.5ポイント減)、製造業の業況判断DIが▲11.2(前期差0.6ポイント減)、非製造業の業況判断DIが▲15.9(前期差0.4ポイント減)となった。いずれも1ポイント未満ではあるものの、業況判断DIにおけるマイナス幅の拡大は、全産業では3期ぶり、製造業では5期ぶり、非製造業では3期ぶりである。その中で気になるのが、生産設備過不足DIにおいて、2013年10月-12月期以降、不足超が続いていることである。そこで今回は、その背景と中小企業における対策について、寄せられたコメントから検討してみる。

1.不足超が続く生産設備過不足DIと増加する設備投資実施企業

生産設備過不足DI(「過剰」-「不足」)の推移(今期の水準)

今期の全産業の主要DI(前期比季節調整値)を見ると、業況判断DIで▲14.8(前期差0.5ポイント減)、売上額DIで▲14.2(前期差1.1ポイント減)、資金繰りDIで▲11.3(前期差0.1ポイント増)となっている。4期ぶりに売上額DIのマイナス幅が拡大に転じたこともあり、生産設備過不足DIについては、製造業全体では▲4.1(前期差0.7ポイント増)、中規模製造業では▲2.5(前期差1.7ポイント増)、小規模製造業では▲4.7(前期差0.4ポイント増)といずれもマイナス幅が縮小している。しかし、それでも不足超にかわりはなく、これで16期連続して不足超の状態が続いている。

設備投資実施企業割合の推移(製造業規模別・実施企業/回答企業×100)

設備の不足超が続いていることを踏まえ、今期の設備投資動向(今期に設備投資を実施した企業の割合)に目を向けると、製造業全体では23.4%(前期差2.7%)、中規模製造業では40.1%(前期差3.7%)、小規模製造業では16.9%(前期差2.2%)となり、前期と比べると規模に関わらず増加していることがわかる。たしかに生産設備が不足超に突入した2014年前後から、設備投資実施割合は上昇傾向にはあるものの、小規模製造業の動きはにぶく、規模間の格差は開きつつある。

2.保有する設備の現状と課題

小規模製造業の設備投資がそれほど進まない、あるいは設備投資を実施する企業が少しずつ増加する中においても生産設備が不足し続けている背景について、中小企業経営者から寄せられたコメントを確認していく。

【コメント】

  • 引き合いがある中で、出荷先の選定が難しい。売上の増加につなげるには、増産しなければいけないが、人材や設備が足りない。(清酒製造業 岩手)
  • 新規取引先増加は喜ばしいことだが、生産設備の老朽化への経費、雇用面では地元人口の減少とともに従業員の確保が難しいため、若い世代への熟練技術の育成にも時間がかかってしまい現状維持の状態が続いている。(水産練製品製造業 高知)
  • 引合いは来ているが、設備の老朽化により製造数を増やすことが難しく、断っている場合が多い。地元で移転先を探しているが条件に見合った所が無い状況が続いている。(豆腐・油揚製造業 高知)
  • 昨年、設備投資をしたことで受注量が増えたが、設備・人員面でこれ以上の受注増に対応するのは難しい。従業員も高齢化してきており、技術の承継が課題である。(他に分類されない非鉄金属製造業 京都)
  • 受注が一部の設備の生産に集中しており生産設備が不足している。またそれに伴い残業や特別出勤の人材確保が困難な状況である。(医薬品製剤製造業 富山)
  • 生産設備を多種多様に保有していることから、顧客ニーズに細かく、迅速に対応することができる。(医薬品製剤製造業 奈良)
  • AI、IoTなど、半導体用途の拡大に伴い半導体市場が活況である。最先端ラインへの設備投資、生産ラインの高稼働率に支えられ石英の需要が増えている。(ガラス容器製造業 山形)
  • 受注量が増えても老朽化している設備が多い。売上高増加にならない。また、原材料が値上げしても、製品単位が上がらないので困っている。今後素形材ガイドラインにのっとって、ユーザーと交渉し、製品値上げを実現したい。(銑鉄鋳物製造業(鋳鉄管,可鍛鋳鉄を除く) 岩手)
  • 生産設備並びに付帯設備が老朽化しているため、生産量が上昇しないし、不良率が多いので困っている。また、熟練技術者が定年を迎え、退社しているので、技術及び技能が低下している。今後は、設備の更新、社員の待遇改善、作業環境を良くし、将来有望な社員を確保し育成してゆきたい。(銑鉄鋳物製造業(鋳鉄管,可鍛鋳鉄を除く) 岩手)
  • 業況の変化に合せて設備投資をしたいと考えているが、納期が長期化していて増強できない。また、作業者の採用が思う様に行かない。大企業志向が強い様である。(アルミニウム・同合金ダイカスト製造業 栃木)
  • 昨年、設備投資をしたことで受注量が増えたが、設備・人員面でこれ以上の受注増に対応するのは難しい。従業員も高齢化してきており、技術の承継が課題である。(他に分類されない非鉄金属製造業 京都)
  • 仕事量の波が荒しいので、見先仕事量があるのせよ、設備投資にはかなりの決断力が求められる。また人材確保も難しく、なかなか良い人が入ってこない現況であるのも心配。(金属工作機械用・金属加工機械用部分品・附属品製造業(機械工具,金型を除く) 石川)
  • 中古ではあるが生産設備の投資をすることとなり銀行から借入れをした。その為月々の返済額が上ることになった。生産設備の老朽化で突如修膳費がかかる。思いがけない出費で利益がなくなり頭が痛い。(建設機械・鉱山機械製造業 石川)
  • 高精度・高品質な製品ニーズに対し、それに対応し得る熟練技術者の不足や生産設備の陳腐な状態のために、眼前の需要の確保を不可能にしている。最先端・最新鋭の設備導入が大きな課題となっている。(自動車製造業(二輪自動車を含む) 長野)
  • 新規受注の為には、工場内のクリーンルーム化、設備の新設、自動化、検査工程の充実化等、非常にコストのかかる条件となっていて、単価は従来通りを客先が要望している。会社として、経営可能なのかが心配である。(自動車部分品・附属品製造業 兵庫)
  • 設備の老朽化が深刻であり、設備投資を計画している。しかし、それに見合うだけの受注量が見込めない。(土木工事業(別掲を除く) 長野)
  • 店舗の老朽化や設備機械の故障等のメンテナンスに追われ、広告や新製品への資金投入が出来ないのが現状。また近くの旅館の客入の悪化の影響も深刻。(菓子小売業(製造小売) 石川)
  • 前年度に大規模な設備投資を行い客単価の上昇に転じましたが、客数の減少・客室稼動率の減少となり、利益としては不変化若しくは微増でしたが、設備投資に見合う利益になっていない。今後、客単価の調整を行い更なる利益確保に努めたい。(旅館,ホテル 和歌山)
  • 新技術への対応の為、設備投資等もしているが、利用料金の上昇難や、需要の伸びなやみにより、業況の好転にはつながっていない。(自動車一般整備業 新潟)
  • 採算面で黒字がなかなか出ない中、設備が所々老朽化のため、不具合が生じているので突発的な出費がある。根本的には、営業地区内の一定水準以上の収入のある人口の低下が問題なのだろう。(普通洗濯業 長野)
  • 設備の老朽化が進行し、故障による一部休業や使用不可といった案件が発生し利用者減少に拍車をかけている現状にある。(その他の公衆浴場業 岐阜)

3.見通し:老朽化した設備という経営課題

今期のコメントを振り返ると、人材不足に対応するためにも、老朽化した設備を部分的にメンテナンスすることで多様なニーズに対応しようとするものの、思うように生産性を維持することができない状況がうかがえる。また、将来的に継続されるかわからない量・質の受注が多く、設備の大幅な更新や新規導入には踏み切れずに、受注を制限する等の方法によって現状を乗り越えようとしている経営者の姿が確認できる。

このように、生産設備が不足超にもかかわらず設備投資実施企業数が微増にとどまっている背景には、手元にある老朽化した設備を修理しながら使用し、足元の様々なニーズにできる限り対応するという方法を多くの中小企業経営者が採用している状況が浮かび上がる。

経営に大きな負担となる設備の大幅な更新や新規導入にはどうしても慎重にならざるを得ないだろう。しかし、老朽化した設備を保持し続けていると、ますます多様化するニーズを前に、今後、どこかのタイミングで経営に大きな支障をきたす恐れもある。人手不足が今後ますます厳しさを増す中、事業の継続性をより確かなものにするためにも、中小企業経営者は大きな意思決定に踏み切る機会を迎えているのかもしれない。

文責

ナレッジアソシエイト 平田博紀

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