起業の先人に学ぶ

おいしい缶コーヒーがなかったから、自分で作った【株式会社GO】

「おいしい缶コーヒーが飲みたいけど無い」との思いから、自らコーヒーメーカーを立ち上げたGOの前西彰社長。缶コーヒー製造の知識も経験も無いところから、体当たりの取り組みで製品化を実現。ネットや高級スーパーでの販売を始めた。

株式会社GO 代表取締役社長 前西彰(まえにし・あきら)
1981年2月生まれ。兵庫県出身。大学在学中に建設業向けの人材派遣業を個人で創業し、その後法人化したが、建築不況から撤退。06年、(株)GOを設立し移動式のカフェを始めたが、出店先の劇場の低迷で2年ほどで撤退した。09年より有機缶コーヒー「lon cafe」の販売を始める。

世界で唯一の有機JAS認定の缶コーヒー

「知識や経験がなかったからこそ、傍目には無謀とも思えることもできた」と語る前西彰社長

——御社の事業内容を教えてください。

当社のオリジナル缶コーヒー、ロンカフェ(lon cafe)を販売しています。ロンカフェは世界で唯一有機JASマークをとっているブラック缶コーヒーで、香料や保存料、酸化防止剤といった添加物を一切使用していないため、体にいいのはもちろんですが、それだけでなく、缶コーヒーにありがちな嫌な苦みもなく、後味もすっきりしています。

——どのようなところで販売されているのですか?販売量は?

商品を発売した2009年は、マーケティングのために自社サイトのみで販売していましたが、今年から一般の小売店での販売を始めています。現在は自社サイトのほか、高級スーパーや宅配スーパーで主に販売しています。販売本数は非公開ですが、取引先の拡大とともに販売本数も増加しています。

人材派遣、移動式カフェを経てオリジナル缶コーヒーの開発に

——もともとは別の事業で起業されたそうですね。

学生時代、建設業向けの人材派遣業でアルバイトをしていましたが、アルバイト先が倒産してしまい、困ったお客さんから「あんたが代わりにやってくれ!」と言われたことから、学生の傍ら個人で人材派遣業を始めました。2000年に起業し、後に法人化もして4年ほど続けたのですが、ご存じの通り、建設不況で当社の事業も先が見えなかったことから、事業をたたんだのです。

——それからロンカフェの事業を始められたのですね。

いいえ。次に取り組んだのは移動式カフェです。人材派遣業をしていたときは自分も現場に出ていました。現場でもっぱら飲まれるのが缶コーヒーなのですが、香料や保存料などの添加物がたくさん使われているため、おいしくない。そこで、仕事の傍ら焙煎や淹れ方などを独学で勉強し、おいしいコーヒーを淹れる技術を身につけていました。

人材派遣をやめることを決め、次はどうしようかと考えたとき、人の喜ぶ顔を見るのが好きだったこともあり、おいしいコーヒーで人を喜ばせたいと思い、コーヒーの移動販売を始めたのです。ちょうど知り合いが経営する劇場でカフェをやってみないかという誘いがあったので、そこで始めたのですが、劇場の人の入りに販売状況が左右され、経営が安定しないことから、こちらも2年ほどで撤退しました。

——次の事業としてなぜ、缶コーヒーを選んだのですか。

コーヒー販売を始めた原点が"缶コーヒーがおいしくない"だったからです。コーヒーを淹れるのもいいのですが、手間がかかる。その点、缶コーヒーだったらすぐに飲める。だったら、おいしい缶コーヒーを作ろうと考えたのです。

"おいしい缶コーヒーが飲みたい"の一念で製品化を実現

有機JAS認証を取得した「Lon cafe」。小売価格は1本(155g)210円

——同じコーヒーでも、缶コーヒーの製造はカフェとまったく異なる事業ですが、どのように事業化されたのですか?

コーヒーの流通なども全く知らなかったので、まず、缶コーヒーメーカーに電話して作り方を教えてもらおうとしました。もちろん断られましたが...(笑)。それで、製造を委託するメーカーを探すことにしました。ただ、実績もない設立したての会社なので、とり合ってくれるところはありませんでした。北海道から沖縄まで、とにかく電話をかけまくって、ようやく1社引き受けてくれるところを見つけました。しかも、最少ロットで割高になってもいいからお願いしますと、平身低頭でお願いした結果、引き受けてもらえることになったのです。

——製品はすぐにできたのですか?

いいえ(笑)。豆のブレンドや焙煎、抽出の方法などは、こちらの指示でやってもらうことは決まったのですが、豆のやりとりなどに課題があり、結局、委託してから製品化までに1年かかりました。

——大変でしたね。途中でやめようとは思わなかったのですか?

製造を委託している先からも「何のために作るの?」「やる意味がわからない」と言われ、周囲から無謀だという声も聞こえましたが、不思議と自分では大変だとは思いませんでしたね。とにかく、自分のためにおいしいコーヒーを作りたい、その夢をかなえたいという思いだけでやっていました。

——製品化までには資金も必要だったと思うのですが、どのように調達されたのですか。

人材派遣業で得た蓄えがあったので、それを充てました。製品を開発するには資金がかかるということさえ知らずに始めたので、やってみて初めてわかりました。ただ、知らなかったからこそできたのかもしれません。最初から知っていたらやっていなかったでしょうね(笑)。

痛い目を見ても、経験から学びたい

——自分で経験してみないと納得できないタイプですね。

そうですね。幼少期から、自由奔放、親の言うことをすんなり聞かずに、なんでも自分で経験してみないと納得がいかない子でしたね(笑)。ですから、今でも人脈や知識をあまり重視していません。たしかに、痛い目を見ることもあるのですが、下手に知識があると、それに縛られて動けなくなってしまうので、失敗してもとにかくやってみるという姿勢は変えないですね。

——起業してよかったことはありますか。

自分の好きなことができ、いろんな面白い人と会える点が一番よかったことですね。"経営者"ということで、サラリーマンだったらなかなか会えないような人にも会えますから。

——今後の事業展望を教えてください。

絵に描いたもちになるので、何年先にどうするといった計画は立てません。ただ、人の笑顔が見られる商品を提供するという方針は守っていくつもりです。どんなことをやるにしても、とにかく、歩みを止めずに進んでいきたいですね。

企業データ

企業名
株式会社GO
設立
2006年5月
資本金
820万円
所在地
大阪市北区天神西町7-8 4F
Tel
06-6314-6325

掲載日:2011年3月22日