起業の先人に学ぶ

「Sake Discoveries,LLC」NYで日本酒市場開拓

不況の今が日本酒のマーケットを開拓するチャンス。ニューヨークの日本酒ブームは一段落し、真の日本酒ファンを育てる段階へ。

Sake Discoveries,LLC 社長 新川智慈子(にいかわ・ちずこ)
大学卒業後、ファッションデザイナーとして働いたのち、きき酒師の資格を取得。ニューヨークの日本食レストランのきき酒師/サケソムリエを経て、2008年、Sake Discoveries,LLC設立。

田舎のすばらしさを都会の人に伝えたい

——ニューヨークでSake Discoveries,LLC を立ち上げた経緯をお聞かせください。

私は秋田県の山奥の育ち。若い頃は早く都会に出たくて、高校卒業後は東京の大学を出てファッション業界に勤めました。ですが、父が亡くなって故郷に帰った時、自分の故郷を冷静に見られるようになったことに気づきました。子供の頃は5000人だった人口も今では3000人台。これからの人生で何か社会貢献できることはないか、田舎の良さをPRできるものはないかと考えたとき、日本酒を思いついたんです。

もともと好きだったこともあり、まず、きき酒師の資格を取りました。そして、仕事で時々訪れたニューヨークに来た時、ここで何かできるかもしれない、と思ったことが発端です。

——現在、どのようなサービスを提供していますか。

ニューヨークで仕事を始めた当初は、日本酒を多くそろえている日本食レストランでサケソムリエとして働いていましたが、2008年に起業しました。サケソムリエ時代、ニューヨークでいちばん日本酒を売り、日本酒のファンを増やしたという自負があります。また、仕事を通してコネクションもできました。そういう私のアイデアに共感してくださった数社の蔵元が資金を提供してくださって、日本酒のプロモーションをスタートさせました。

現在は日本酒を置いているレストランのスタッフに対するトレーニングや、日本酒の蔵元のための日本酒のプロモーションなどが中心ですが、酒イベントのプランニングの仕事も増えてきました。起業して2年目ですが、イベント数は徐々に増えており、大きなイベントだけでもひと月に1、2回あります。そのほか、企業のイベントやレストランでのイベント、ほかの団体とのコラボレーションのイベントなども行っています。

最近の例では、日系の老舗ホテルの日本食レストランがリニューアルオープンした際、石川県の有機農家とコラボレーションして、その農家が作ったオーガニックの大豆や米などの食材を使ったプロモーションを兼ねた日本酒の試飲会を開催。当日は節分だったので、この農家が作った大豆で豆まきをしたりして日本の文化と大豆をPRしました。

不況がビジネスチャンスに

——現在のビジネス展開は当初の予想と比べてどうですか。また、不況の影響は?

正直なところ、起業して2年目でここまで来るとは思っていませんでした。売り上げは当初の目標の約150%です。不況だからこそ、日本酒が注目され、このビジネスが伸びていると思います。レストランはお客が欲しいし、何か新しいものと出会う場としてちょっとしたエデュケーションが欲しいというニーズが背景にあって、日本酒が注目されていると思います。

これまでは日本酒を受け付けてくれなかったようなレストランでも、日本酒イベントを受け入れてくれるようになりました。また、日本人以外の方から日本酒イベントの依頼が来るようになり、アジア系の日本酒ファンも増えています。今は新しいマーケットの開拓のチャンスだと思います。

——ニューヨークならではの日本酒の楽しみ方は?

日本人には抵抗がある方もいるかもしれませんが、フレンチレやイタリアンのお食事に合わせてワイングラスで日本酒を楽しんだり、粋に日本酒カクテルを楽しむのはニューヨーク流。ニューヨークには美味しい日本酒のカクテルを作るミクソロジストやバーテンダーもいます。世界中の人種が集まる街だからこそ、日本食に限らず、世界中のお食事を日本酒と一緒に楽しんでほしいですね。

——今後の抱負をお聞かせください。

現在ニューヨークでは約400種類もの日本酒が売られていると聞いています。これからは、日本酒業界にあまり縁ががないような業界の人たちこそが、気軽に興味を持って日本酒を楽しんでもらえるようなイベントを企画したいと思っています。そして近い将来、日本人以外の人たちも、レストランだけでなく、リカーショップで週に一度は日本酒を買うようになってほしいですね。

企業データ

企業名
Sake Discoveries,LLC
Webサイト
所在地
159 West 25th St.New York,NY 10001
Tel
1-646-675-8293

掲載日:2010年5月25日