闘いつづける経営者たち

「井上礼之」ダイキン工業株式会社(第2回)

02.積み重ねるM&A

「2010年に空調事業の売上高で世界トップメーカーになった。しかし、最大市場の米国でトップにならなければ、真のトップではない」。ダイキン工業の井上礼之会長兼最高経営責任者(CEO)は12年に並々ならぬ思いで、米国で家庭用エアコン首位のグッドマン・グローバル(テキサス州)を買収した。これまでにM&A(企業の合併・買収)も積み重ね、14年3月期連結決算では売上高1兆7100億円(前年見込み比33%増)、営業利益1200億円(同38%増)を目指そうとする規模まで拡大してきた。

真のトップの資格とは

グッドマン・グローバルを視察している様子(右が井上会長)

グローバル化を押し進めたのは井上会長だ。94年6月に社長に就任するまで総務、企画、人事、化学事業などを担当し、主力の空調事業とは縁がなかった。しかし、社長就任直前の94年3月期連結決算は17年ぶりの経常赤字で、不振だった空調事業の立て直しを急ぐ必要があった。そこで、注力していた業務用エアコンに加え、家庭用エアコンやセントラル(大型)空調も同様に強化すると決断。中国に空調事業では同社初の工場を建設するなどグローバル展開を本格化する。

技術者40人が去る

グラフ:ダイキン工業の売上高構成比(13年3月期)

M&Aでも06年にマレーシアのOYLインダストリーズを約2320億円で買収。08年には暖房機メーカーの独ロテックスを約90億円で、11年にはトルコのエアフェル(現ダイキントルコ)を約200億円で傘下に収めた。そして、12年に約2900億円で買収した米グッドマン・グローバル。井上会長は「買収ではずいぶん失敗もしてきた」と振り返る。買収先企業が進めていたある商品の開発がうまくいかなかったため、ダイキン本体が支援に乗り出したがコミュニケーション不足もあり約40人の技術者が辞めてしまった。そのような経験を糧に、自主経営の尊重など買収のノウハウを身につけてきた。

グッドマンについては「ずいぶん買収をしてきたが、買われる側がこんなに喜んでくれているのは初めてだった」(井上会長)。投資ファンドに保有されていたため研究開発投資は抑えられ、営業地域も米国のみに限定されていたグッドマンの経営陣も、ダイキンと組めば未来が開けると確信していた。インバーターなど環境技術の導入や海外展開などで事業が拡大できると。

学ぶことのほうが多い?

ダイキンにしても、米国の家庭用エアコンの市場開拓で壁になっていた空調方式の違いをグッドマンで乗り越えられる。さらに、徹底した在庫管理やリーン(無駄のない)経営、低コストの生産技術など「ダイキンが学ぶことのほうが多いのではないか」(井上会長)というほどの魅力がある。

ダイキンは相乗効果の発揮に向け、全社を挙げて取り組んでいる。13年からは実際に生産・販売で連携が始まる。グッドマンが加わり“真の世界一”に近づいた。しかし、背後では中国企業の足音が大きくなっていた。

プロフィール

井上 礼之 (いのうえ のりゆき)

1935年(昭10)生まれ。京都府生まれ。57年、同志社大学経済学部を卒業して大阪金属工業(現ダイキン工業)に入社。75年に人事部長になり、79年に取締役に就任。85年に常務、89年に専務。94年に代表取締役社長、95年に会長を兼務、02年に会長兼最高経営責任者(CEO)となり、20年にわたり経営トップとして会社のグローバル展開などを推進している。

企業データ

企業名
ダイキン工業株式会社
Webサイト
資本金
約850億円
所在地
大阪市北区中崎西2-4-12
Tel
06-6373-4312
事業内容
空調・冷凍機事業、化学事業
売上高
1兆2909億円(2013年3月期)

掲載日:2013年5月13日