闘いつづける経営者たち

「伊藤 雅俊」味の素株式会社(第3回)

03.研究開発力を武器に新展開

国内研究開発体制の再編

1909年に植物タンパクから抽出・分離したグルタミン酸を使用したうま味調味料「味の素」の開発を皮切りに、味の素はアミノ酸を軸にした研究開発(R&D)力に磨きをかけてきた。伊藤雅俊社長は「価格ではなく、当社にしか出来ないという技術で戦う。まずは調味料の技術を世界一にしたい。さらに先端バイオ関連をより強くしていく」と力を込める。

現在のR&Dの課題は「研究成果をより早く事業化に結びつける」(木村毅執行役員研究開発企画部長)ことだ。その一環として体制の再構築を行っている。まずは、2010年10月に国内の研究開発体制を再編した。九つの研究所・センターに分かれていた組織を3研究所に集約・統合した。主力である調味料・食品分野を担う食品事業本部管轄の「食品研究所」、アミノ酸利用事業や医薬を担うバイオ・ファイン事業本部の「バイオ・ファイン研究所」、そして新規事業創出のための研究を行う「イノベーション研究所」だ。事業と技術のつなぎの強化を狙い、大くくりでシンプルな組織とした。

五つの基本味を元に

食品研究所

食品事業の核となるのは、グルタミン酸ナトリウム(MSG)。ここから、うま味調味料「味の素」が生まれ、さらに独自素材を加えることで風味調味料、メニュー調味料、高機能調味料へと発展してきた。グルタミン酸+戦略素材で新たな商品価値をグローバルに創造するというのが、食品事業のR&Dの基本方針だ。

「うま味」「塩味」「酸味」「甘味」「苦味」といった五つの基本味を元においしさの構成要素を分析し、高品質の商品化を実現させていく。味覚だけでなく、誰でもおいしく作れるようにとシェフの調理技術の解析、生活者の行動パターンまでを研究する「キッチンバリューチェーン評価」を採用した。特に海外では、現地を理解した日本のR&D担当者と現地スタッフにより、各国の食文化に対する理解を深める「マーケティングと技術の融合」(野坂千秋執行役員食品事業本部食品研究所商品開発センター長)で商品化する。

アミノ酸の可能性を追求

バイオ・ファイン研究所

一方のバイオ・ファイン事業は「お客さまのニーズと自社のアプリケーションをどう結びつけるか」(児島宏之プロセス開発研究所長)を課題に研究開発を進めている。アミノ酸を中心とした独創的技術に立脚した高付加価値を提供するというのが事業のコンセプト。事業領域は医薬・食品・化粧品・日用品と幅広い。バルク事業を基盤に最近ではコンシューマー向け商品にも展開、アミノ酸の生産方法からさまざまな製品・技術が生まれている。

植物タンパクからの抽出・分離で、うま味調味料「味の素」が出来たように、経腸栄養剤、アミノ酸輸液、飼料用アミノ酸などが開発された。さらにアミノ酸の味を応用することで「アスパルテーム」などの甘味料、反応性の応用で化粧品などに使用する香粧品素材、ICパッケージ基板用絶縁フィルムに発展している。日々、味の素の新しい顔が生み出されている。

プロフィール

伊藤 雅俊 (いとう まさとし)

1947年、東京都生まれ。1971年慶應義塾大学経済学部卒、同年味の素入社。95年食品部長、99年取締役、05年常務執行役員、06年食品カンパニープレジデント。創業100年目にあたる09年に社長に就任した。グローバルな仕事がしたいと味の素を選んだ。本流の食品部門を歩み、海外企業の買収や提携で手腕を発揮。趣味は料理。和洋中とレパートリーは広いが、食材を無駄なく使い切る料理を心がける。

企業データ

企業名
味の素株式会社
Webサイト
設立
1925年12月17日
資本金
798億6300万円
従業員数
単体3,310名 連結28,084名
所在地
〒104-8315 東京都中央区京橋一丁目15番1号
事業内容
食品製造販売

掲載日:2011年12月12日