闘いつづける経営者たち

「古屋 元伸」株式会社ニチダイ(第1回)

世界規模の自動車生産台数が底を打つ

精密鍛造部品メーカーのニチダイは、売上高の8割を自動車関連が占める。ニチダイの事業は、精密鍛造品を量産する「ネットシェイプ」、精密部品の組み立てを行う「アッセンブリー」、焼結金網フィルター開発・製造の「フィルター」の3事業で構成される。中でも精密鍛造品を生産するマザーツールたる精密金型づくりが同社の屋台骨を支えてきた。

ところが、2008年9月のいわゆる"リーマン・ショック"を境に自動車の生産台数が激減し、そのあおりでニチダイも未曾有の経営苦境に立たされた。わずか半年前の08年3月期の業績で売上高125億円、営業利益12億円、さらに最高益を更新したのもつかの間の夢だった。

現社長の古屋元伸は述懐する。

「不況の直撃なんて生易しいものではありませんでした。垂直落下型で売り上げが落ち込み、最悪期には7割減でしたからね。こんなつるべ落としに遭うと、手のほどこしようがありません」

ニチダイの創業は1959年5月。大阪市北区に先代社長の田中善昭が田中合金製作所として事業を興す。以来、自動車産業の拡大と歩調を合わせるように成長し、2000年3月に上場、07年3月期には創立40周年の記念配を含めて20円配を実施した。さらに09年3月期は、リーマン・ショック以前の蓄積に支えられて営業利益3億円、最終利益2億円を確保して8円配を実施したものの、10年3月期には売上高がピーク時の6割の75億円に縮小、営業赤字4億9,000万円、最終赤字4億円となり無配の見通しだ。

ただし、ようやく世界規模での自動車生産台数が底を打ち、「やっとほのかに明るさが見えてきた」状況という。「1年前は進路の右も左も見えなかった。いま確たる方向が見えているかと問われると、まだいささか不透明感があるにはありますが、なんとなく方向性が見えてきたな、という感触はあります」と、古屋の表情にも笑みがこぼれるようになった。

「3S」と「3E」を目指して

ニチダイは経営理念に「3Sの最大限の実現と永続的向上」を掲げる。3Sとは顧客満足度(CS)、株主満足度(IS)、社員満足度(ES)。その実現と永続的な向上によって新たな価値を創造し、社会に貢献できる企業をめざしている。

ジャスダックに上場したのは00年3月だったが、株式の公開を意識したころから先代社長が3Sを口にするようになり、やがて同社の経営理念として集約、継承されていった。 「無配に転落し、社員の賞与や管理職手当てのカットもしているので、株主満足度、社員満足度は最悪の状態です。それを突かれると大変苦しい。けれど、われわれは取り巻く環境の変化に応じて変化していかなければなりません。一時的な満足度だけを求めて、最終的に企業の永続性に問題が出たのではなにもならない。ここはぐっと踏ん張って永続的な成長につなげていきたいと考えています」

ニチダイは地域貢献、社会貢献にも熱心で、それを象徴するのが硬式野球部の存在だ。先代社長が野球好きで、現在の宇治田原工場の用地を取得したときに野球のグラウンドもつくった。1997年に創部、98年に社会人野球連盟に加盟し、これまでに都市対抗野球の全国大会に1回、日本選手権に2回出場している。24人の部員はフルタイムで仕事をする正規従業員で、他の従業員と同様に仕事を終えてから野球の練習に打ち込んでいる。

このグラウンドでは年1回、地域少年野球の指導会も開いており、昨年は元阪神タイガース監督の吉田義男氏を招いて少年たちに野球を指導してもらった。

ニチダイは3Sのほかに「3Eカンパニーの実現」も目標として掲げる。3Eは「エクセレントカンパニー(Excellent)」「エキサイティングカンパニー(Exciting)」「エクスパンド(expand)カンパニー」それぞれの"E"。先代社長がブランデーの等級になぞらえてしばしば唱えていたVSOPがこの3Eを支えている。Vはヴァイタリティ、Sはスペシャルティ、Oはオリジナリティ、Pはパッション。力強い独創性と熱情をもってまい進する企業の理想像を追求しながらつぎなる飛躍を狙っている。

プロフィール

古屋 元伸 (ふるや もとのぶ)

1955(昭和30)年9月21日生まれ。80年4月三菱電機入社。97年4月に同社メカトロニクス事業部主幹。翌98年3月にニチダイ入社。同年4月の総務部長就任をかわきりに、営業統括兼営業企画室長(99年4月)、取締役(99年6月)、営業本部長兼営業企画室長(2000年4月)、代表取締役副社長(01年6月)を経て、02年4月に代表取締役社長に就任。

企業データ

企業名
株式会社ニチダイ
Webサイト
設立
1967年5月
資本金
14億2992万円
従業員数
392人(連結)288人(単独) 2009年3月31日現在
所在地
〒610-0341 京都府京田辺市薪北町田13
Tel
0774-62-3481
事業内容
精密金型の開発・製造・販売 精密鍛造品及びその関連する成形品の開発・製造・販売 各種ろ過装置及び金属ろ過材料の開発・製造・販売 各種焼結金属の開発・製造・販売 精密部品の組立及び開発・製造・販売
売上高
103億9493万円 2009年3月期

掲載日:2010年3月29日