起業の先人に学ぶ

顧客の立場に立った時計修理会社【ウォッチ・ホスピタル】

大切な人からのプレゼントでいただいたり、何かの記念として購入する時計。
そんな人それぞれの思い出が詰まった時計の状態をチェックするという形を通じて、顧客と永続的な関係を築き、修理だけでなく故障を予防するお手伝いを行なう。それが2007年9月に創業した「ウォッチ・ホスピタル」だ。

株式会社ウォッチ・ホスピタル 代表取締役 北川 直樹(きたがわ・なおき)
1973年兵庫県生まれ。岐阜、三重を経て高校まで名古屋育ち。兵庫県の大学卒業後、時計修理専門会社に就職するため上京。配属になった百貨店で顧客の声を聞くうちに時計修理サービスを必要とする潜在ニーズの大きさを感じ始め、2007年9月、時計修理会社「ウォッチ・ホスピタル」を創業。

阪神大震災が転機に

代表取締役 北川直樹さん。

——時計修理ビジネスをはじめられたキッカケを教えください。

私自身、もともと時計が大好きで、大学時代も時計店でアルバイトをしていました。大学生活は卒業後にどんな仕事をしたいかなどはあまり考えず過ごしていたのですが、そろそろ就職活動を...と思った矢先、あの阪神・淡路大震災が起こりました。

自分の身は無事でしたが、バイト先の時計店は建物ごと倒壊し、再開の目処が立たないため、そのままバイトも解雇になってしまいました。これがバイトだったからいいのですが、家庭を持っていたら大変なことだと感じ、「何か手に職を付けなければ......」と危機感を持ったわけです。

そこで、時計修理の専門会社に就職。研修を終え、都内の大手百貨店の時計売場に併設された修理カウンターに配属になりました。ここには11年勤め、国家資格である時計修理技能士1級もその間に取得しました。

私にとって、その修理カウンターでのお客様の要望が今のサービスのキッカケとなっています。実は、故障した時計をお持ちいただくお客様と会話をするなかから、時計修理サービスに対する不満足な思いを感じ始めるようになったんです。

東京駅のすぐ側という土地柄、出張の合間に時計の修理を依頼される方が多かったのですが、部品を取り寄せなければならないため時間がかかってしまい、お客様が東京にいる間にお渡しできないなど、ニーズがあるのに、今の時計修理サービスはそれに応えられていないことなとが代表的な例です。そこで、WEBでの時計修理サービスを立ち上げてみようと思ったのです。

信頼度・安心感向上のために様々な手法を検討・実施

腕時計の宅配に使用する専用ボックス(精密機器ボックス)。

——リアル店舗を持たず、現在はWEBのみでサービス提供を行なっているということですが、苦労されたことはありますか?

お客様にどうやって『ウォッチ・ホスピタル』を知っていただくかということが一番でした。これまでは百貨店の看板で仕事ができましたが、自分でスタートさせた会社には何の後ろ盾もありませんので知名度はまったくのゼロです。

お客様はお金を払ってでもその時計を直したいと思われて修理を依頼してくださっています。お送りいただく時計は、大切な方からのプレゼントかも知れませんし、お父様の形見かもしれません。どこの誰かも分からないところにその大事な時計を預けるということは、やはり非常に抵抗があると思います。

WEBでは修理カウンターとは違い、お客様とお会いできませんから、なんとか信頼度を高める方法を考えました。まず、サイト上では誰が取り扱うのかを明らかにするため、私の写真付きのプロフィールを載せました。そして、お客様ごとに修理に出された時計のカルテを作成し、WEB上でいつでもログインすれば自分の時計の修理状況が見られるシステムも作りました。

また、時計を引き取ったり引き渡したりする際の運搬途中で大事な時計が破損しないようにする専用の箱も作成しました。そして、メールや電話でできるだけお客様と連絡をとることを心がけています。

電子カルテで自分の時計の修理状況がいつでも確認できる。

——どのような修理にも対応されているのですか?

なかには、修理に出していただいた時計の部品をどうしても手に入れることができないなどで、修理が困難な場合もあります。他のところに修理を依頼したら、「同じ部品が手に入りません」ですとか、「直す方法がないので修理できません」と断わられ、その時点でお客様も諦めてしまうと思いますが、私は「直せません」という言葉をお客様には使わないようにしています。

例えばですが、「この時計の部品を使ってオブジェにしてみませんか?」ですとか、「中の部品は変わってしまいますが、見た目を同じようにすることができますよ」といった『提案』をするように心がけています。

私が何のために時計の修理というニッチな仕事に就いているのか、それは、「時計を修理するため」ではなく、「どうしたらお客様のご要望に応えられるかを考える」ということです。

もちろん、時計が元通りに直ることがお客様にとって一番のことですが、「できない」「直せない」という会社都合のサービスでなく、お客様が何を求めているのか、どうすればお客様に喜んでいただけるかを考え、提案差し上げることが最も大切なことであり、それが私の使命だと考えています。

夢は全国展開

——今後の展開について教えてください。

今年、リアル店舗を赤羽にオープンする予定です。リアル店舗を展開することで、ネットを利用できない方にも弊社のサービスを提供できると思っており、相乗効果でWEBの方も成長できると考えています。

また、お客様の中には町の時計店に修理を依頼する方もおりますが、そこで部品が手に入れられなかったり、対応できないこともあるため、町の時計店をウォッチホスピタルの修理の窓口にする計画も考えています。

ゆくゆくは、ウォッチ・ホスピタルを日本全国に広げることが夢ですが、「時計の修理といえばウォッチ・ホスピタル」と皆様に認知を広げることが目標ですね。

企業データ

企業名
株式会社ウォッチ・ホスピタル
Webサイト
資本金
300万円
代表者
北川直樹
所在地
〒104-0061 東京都中央区銀座3-13-4
Tel
0120-121-647

掲載日:2009年6月30日