起業の先人に学ぶ

「都市型八百屋」をチェーン展開【大和百菜】

スーパーなどの量販店に押され、いまや青果店は、鮮魚店や精肉店と並ぶ衰退業種だ。そんな時代に、昔ながらの「八百屋」のチェーン展開をはじめた企業がある。「大和百菜」だ。
中小の生産者の売り場確保からスタートしたこの事業は、農作物流通の新しい仕組み作りを目指し、拡大を続けている。

岸本 重二(きしもと しげじ)
株式会社大和百菜代表取締役。
「大手スーパーにいた経験から、大手スーパーの強み、弱みはよくわかっている。大手でできないことを『大和百菜』で実現したい」と語る岸本重二社長。

中小生産者の売り場を提供する民間版"道の駅"

岸本 重二 代表取締役
岸本 重二 代表取締役

——「大和百菜」という店の特徴を教えてください。

「大和百菜」は、買い取りと委託という形で生産者の作った商品を販売する、いわば、民間版の"道の駅"です。商品は、中小農家が生産した農作物やこんにゃく、豆腐などの加工食品で、いずれも生産者自身が日々口にしている「旬」「新鮮」「安心」「安全」「安価」にこだわったものばかりです。

現在、奈良、大阪、兵庫の都市部を中心に17店舗展開しており、このうち、7店舗は、業務用スーパーのAプライスさんの青果コーナーとして展開しています。

——この事業をはじめたキッカケは何でしょうか?

新たに就農した人たちの"作っても売る場所がない"といった声がキッカケでした。私は、内装や店舗企画の「リパブリック」という会社を経営していますが、それ以前は、総合スーパーのマイカルで専門店ビルの開発に取り組んでいました。

そのマイカルが平成5年に倒産し、かつての同僚たちが職を失いました。また、当時、流通業界全体が苦しい経営状況にあり、マイカル以外の企業でもリストラが進み、私と同世代の人たちの多くが職場を離れていきました。こうした人たちのなかには、農業をはじめた人も多く、彼らは、農薬の使用を極力抑え、安心・安全にこだわった農作物を作っていました。

しかし、生産量が少ないうえ、農協などの組織にも属していないため、「いいものを作っても売り先がない」という状況でした。そこで、そうした農作物の売り場を作ろうと、「大和百菜」を企画したわけです。

チラシが打てず、8カ月は赤字

販売方法には買い取りと委託販売があり、委託販売では、生産者が自由に値段を決められるため、おなじキャベツでも価格が異なる。こうした点も「大和百菜」ならではの特徴だ

——2001年に1号店を出店しましたが、出店当初はどんな問題に直面しましたか。

1号店は、奈良県の田原本町に出店し、最初の1年くらいは順調でした。しかし、生産者が持ち込んだ商品を販売するため、季節によっては、同じような農作物ばかりが集まるようになる。その結果、"夏場は、なすびときゅうりばかり"といった状態になってしまった。そこで、こうした商品をさばくために新たな店舗が必要になり、04年4月、大阪市中央区のオフィス街に2号店を出店したのです。

しかし、生産者からは「こんな場所で農産物が売れるはずがない」と大ブーイングでした。都心で住民も少ないうえ、"できた農産物を売る"という仕組みから計画仕入れができず、チラシを打って集客することができなかったからです。じっさい、開店から8カ月くらいは、厳しい経営状況が続きました。

しかし、スーパーがなく困っていた住民が口コミで利用するようになったのに加え、近隣にマンションができたこともあり、だんだんと利用者が増えました。その結果、8カ月目過ぎくらいからは、1日に35万円を売り上げるようになり、いまでは、年間1億3000万円を売る店に成長しています。

大阪市の中心部、中央区の公団住宅の1階にある「大和百菜」の店舗。住民のほか、周辺のオフィスで働くOLや周辺の飲食店の利用も多いという

——その後は順調に店舗を増やしていますね。

3号店目は、06年に兵庫県尼崎市の大型ショッピングセンター「グンゼタウンつかしんセンター」に出店しました。この店も軌道に乗るまでは半年ほどかかりましたが、ここで、"生産者の顔が見える農作物や手作り食品の専門店"という「大和百菜」の業態が確立されました。

その後、Aプライスさんとの提携なども進んだことから、07年9月にそれまで「リパブリック」の一事業として取り組んでいたものを「大和百菜」として法人化し、9月以降4店舗を一気に出店しました。ただ、先にも述べたとおり、この業態は、チラシが打てず、軌道に乗るまで時間がかかるので、出店を増やすためには、資金的な余裕が必要です。

さいわい、最近は、Aプライスさんはじめ、この事業を評価し、出資してくれるところも出てきているため、今後は、積極的に出店も進められると考えています。

3年後、100店舗体制をめざす

商品は顔写真をつけて販売している。消費者のなかには、購入した生産者を覚えておき、次回購入するさいに同じ生産者の商品を選ぶなど、生産者ごとの固定客もついてきているようだという

——事業展開上、心がけている点はありましたか。

ひとつは、"顔の見える商品の販売"ということです。それぞれの商品は、顔写真を入れて生産者を表示しています。まだすべての商品に写真をつけられてはいないのですが、消費者は、顔写真がある商品を購入する傾向が強く、また、生産者を覚えておいてその商品を選んで購入するなど、生産者ごとの固定客もついてきているようなので、写真の添付を生産者にも勧めていきたいと思います。

また、買い取り以外の商品の価格は、生産者が自由につけられる仕組みですが、消費者からみて適正な価格でないと、売り上げにも結びつかないので、市場価格など、価格設定の参考になる情報提供にも力を入れています。

一方、消費者に対しても、啓蒙活動を行なっています。「大和百菜」では、虫食いのある菜っ葉も扱います。虫が食った葉は、見た目は悪いかもしれませんが、別の見方をすれば、虫も食べるくらい安全だということです。「大和百菜」が提供するのは、見た目のきれいさではなく、安全や新鮮さといった付加価値なのだということを消費者にもしっかり理解してもらえるよう心がけています。

——消費者の反応はどうですか?

「大和百菜」は、街中の店舗が中心ですが、こうした地域は、スーパーがないので、住民の皆さんからは、「とても助かっている」という声が多数寄せられています。とくに、最近は、都会でのマンション建設が進み、高齢者を中心とした住民が中心部に戻ってきていることから、「大和百菜」が果たす役割は今後ますます大きくなると考えられます。

——今後の事業展望を教えてください。

今後は、3年以内に、大阪を中心とした関西地域で100店舗を出店し、その後、関東地域にも進出したいと考えています。そのため、滋賀県や和歌山県、京都の生産者団体など、新しい仕入れ先も開拓しています。

また、販売網の拡大に合わせ、流通センターも開設するほか、1000名の生産者情報が登録・開示できるシステムも作りました。さらに、この秋からは、地域限定品など、希少性の高い商品を中心としたインターネット通販の導入も計画しています。

地方に行って感じるのは、田舎に行くほど土地が余っているということです。最近は、帰農する人も増えているようですが、いざ農業をはじめても、売るところがなければ、生活ができません。「大和百菜」は、こうした人たちに売り場を提供する事業であり、「大和百菜」の店舗が増えることによって生産者も増えれば、耕作放棄地の問題の解消にもつながっていくと考えられます。

企業データ

企業名
株式会社大和百菜
設立
2007年9月
資本金
9,507万5,000円
従業員数
10名
代表者
岸本重二
所在地
大阪府大阪市中央区平野町1-6-5 大山ビル4F
Tel
06-6231-2818

掲載日:2008年5月20日