起業の先人に学ぶ

女性用スーツのパターンオーダーで起業【エニーズ】

自身もシングルマザーである川崎昌子氏は、女性世帯主の働く環境を変えようと、「キャラリスト」という専門職による紳士服のパターンオーダービジネスで起業。その後、新たに、女性用スーツのパターンオーダーサービスを開始。働く女性を全般をサポートする企業として注目を集めている。

川崎昌子(かわさき まさこ)
1961年、大阪生まれ。専業主婦時代に英会話教室を開業し、成功を収める。仕事に目覚めたことをキッカケに離婚し、シングルマザーとなる。その後、輸入ブランドのブティック経営を経て、2000年にエニーズを設立。会社経営のほか、「IWS女性世帯主の会」を立ち上げ、ひとりで生きる女性の支援も行なっている。大阪府の「男女共同参画」の「元気いきいき企業」認定。著書:「働くオンナの賞味期限」(しののめ出版)

女性が働ける環境を作ろうと、起業を決意

社長の川崎昌子 氏
社長の川崎昌子 氏

——御社は、女性用スーツのパターンオーダー(既製服体型の中で自分の体型に近いものを選び、工場で生産する)サービスで注目を集めていますが、起業にいたった経緯を教えてください。

エニーズを立ち上げる前は、インポートブティックを4店舗経営し、百貨店などにも出店していました。そこで働いていたスタッフは全員女性で、しかも、ほとんどが、シングルマザーや独身の"世帯主"でした。

彼女たちは、男性顔負けの働きをする頼もしい人たちばかりでしたが、百貨店の支配人などからは、「若者向けの店なら店員も若い人であるべき」とスタッフの入れ替えを示唆されました。そうした"女性は賞味期限つき"という現実を何とか変えたいと思い、単なる物販ではなく、専門性の高い仕事が求められるオーダーメイドの事業を展開しようと、2000年にエニーズを立ち上げました。

——事業を立ち上げた当初は、紳士服のパターンオーダーが専門でしたそうですね。

父親がテーラーを営んでおり、親戚にも紳士服業界の関係者が多かったことから、私自身、紳士服のオーダービジネスには詳しかったため、まず、紳士服のオーダーを手がけることにしました。ただ、新規参入する以上は、既存の企業と同じことをしていては意味がないので、独自のサービスとして、「キャラリスト」というコンセプトを導入しました。

「キャラリスト」とは、「キャラクター」=個性と「スタイリスト」とを掛け合わせた造語で、採寸からお客様の希望を反映させたデザインの作成、工場とのやりとりまで、すべてがこなせるプロを意味します。こうした「キャラリスト」が、体型だけでなくお客様の仕事や趣味をまで考慮してスーツを提供できるのが、エニーズの特徴です。

欲しいスーツがないなら自分で作ろうと新規事業を計画

オーダーを受け付ける直営店の「アトリエ」は、現在、大阪に1店舗と東京に2店舗ある。

——その後、女性用スーツのオーダーメイド事業に進出されましたが、そのキッカケは?

会社を設立した直後、紳士服業界は、価格破壊の波に見舞われました。中国製の1着1万円といった格安のスーツが出回ることで、当社も大きな打撃を受け、打開策が必要になっていました。一方、働く女性として、つねに感じていたのが、仕事に着るための理想的なスーツがないということでした。

ブランドものだと、仕事着として何着も持つには値段が高すぎるし、逆に、あまり安いものだと、品質やデザインがいまひとつだったりする。女性用のオーダーメイドを手がける紳士服専門店などもありましたが、男性用のパターンでサイズを変えただけなので、「ちっちゃなオヤジ服」といった感じで、女性らしさが感じられない。ならば、手ごろな価格で女性用スーツのパターンオーダーサービスをやれば、需要があるのではと考えたわけです。

——製造は、紳士服の事業で取り引きがあった縫製工場に委託したのですか。

ええ、お願いしました。けれど、すべて断わられました。というのも女性用のスーツのパターンオーダーは、クレーム産業と考えられており、じっさいそれまで取り組んだ企業はいずれも失敗していたため、どこもやりたがらなかったのです。

しかも、やるとなると、パターンから作るので、すべてのデータをコンピュータに読み込まなければならず、準備には半年もかかります。加えて、設備投資も必要になります。市場があるかどうかわからないものに、時間やお金をかけてまで取り組もうというところはなかったのです。

——となると、新たに委託先を開拓しなければならなかったのですね。

そうです。最初は、近場でと、関西近辺の縫製工場をあたっていたのですが、どこも引き受けてくれませんでした。であれば、引き受けるところが見つかるまで探そうと、インターネットや電話帳で全国の縫製工場の連絡先を調べ、北海道から九州まで片っ端から電話をかけまくりました。そして、ようやく青森に委託できる先を見つけることができたのです。

——断わられ続けたにもかかわらず、よく諦めませんでしたね。

ええ。断わられれば断わられるほど、逆に"これはいける"と思い、がんばろうという気になりました(笑)。誰もやりたがらないということは、それだけライバルも少ないわけですから、事業化できれば、ひとり勝ちできるはずと考えたのです。

女性スーツのオーダーをやって失敗した紳士服メーカーなども知っていましたが、それらは、芯やファスナーなど、男性用の材料を使ってしかも男性用のパターンのサイズを変えただけで作ったものだったので、重いし、シルエットもよくなかった。そうした欠点さえ直せばぜったい市場はあると思っていましたから、諦めようとは思いませんでした。

キャリア女性の支持を獲得。海外展開もスタート

女性用スーツのオーダーサイト「Fairy Rose」。ネットでの客単価も6万5000円程度と、実店舗と変わらないそうだ。

——そうした思いが実り、06年2月に女性用のパターンオーダースーツ「Fairy Rose」が誕生したわけですが、販路はどうされたのでしょうか?

OEMの形で、百貨店のパターンオーダーを受注しているほか、東京と大阪の直営店でも注文を受け付けています。とくに9月に出店した東京・赤坂の店舗は、女性用スーツの専門サロンで、この店を出したことで、ひとつの目標達成といったところです。このほか、インターネットの専用サイトでもオーダーを受け付けているほか、大手通販会社とも提携しました。

——消費者の反応はいかがですか?

待っていましたという感じでしたね。店舗以外に、生命保険会社や証券会社などでも販売会を行ないましたが、どこでも大きな反響がありました。1着3万8,000円から用意していますが、客単価は6万5,000円くらいです。

また、事業をはじめる前は「女性はわがままなので、オーダーだとクレームが多い」といったことを周りからよくいわれましたが、じっさい事業をはじめて見ると、心配したようなクレームはほとんどありません。

ベンチャーキャピタルや助成金を利用

——起業にあたり、従来のブティック経営からメーカーへと転換されました。資金も必要だったと思われますが、どのような形で調達されたのですか。

銀行の融資も受けましたが、ベンチャーキャピタルやファンドを活用しました。新聞やインターネットで出資先を募っているといった情報を探してアプローチしました。それから、中小企業基盤整備機構の助成金も活用しました。

——経営について相談された先などはあったのですか。

事業の展開などについては、業界の先輩などに相談したりしました。経営管理などについては、出資してくれたベンチャーキャピタルなどもアドバイスしてくれましたね。それから、いろんな情報を探す窓口としては、大阪府のホームページや近畿経済産業省のホームページなどもよくチェックしていました。

——今後の事業展望を教えてください。

スーツをオーダーする女性は目も肥えているので、そうした人たちのニーズに応えられるよう、つねに消費者の半歩先を行き、新しいものを提案できるようにしたいと思っています。また、直営店である「アトリエ」を名古屋にも出店したいと考えています。

それから、他のアジアの国での展開も予定しており、すでに、韓国語の通販サイトは立ち上げました。今後は、年内をメドに、台湾向けの中国語サイトを開設する予定です。また、OEMも積極的に手がけていき、ゆくゆくは、"レディーススーツならエニーズ"という状態にしたいですね。

——先輩起業家として、起業を考えている人にアドバイスをお願いします。

何事もそうですが、諦めてしまえばそれで終わりです。1回、2回のつまずきですべてを否定する人がいますが、その程度のつまずきなんて当たり前。1回でヒットを打とうなんて思うこと自体、あつかましい(笑)。100回空振りして初めてヒットが打てるんですから。何かを始めた以上、信念をもって成功するまで取り組む。これが大事だと思います。

企業データ

企業名
株式会社エニーズ
Webサイト
設立
2000年2月
資本金
1億0,325万円
従業員数
30人(アルバイトを含む)
Tel
06-6537-0400
事業内容
大阪府大阪市西区北堀江1−1−10 アークビルディング2F

掲載日:2007年11月27日