闘いつづける経営者たち

「晝馬 明」浜松ホトニクス株式会社(第3回)

03.多様性の向上と持続的な成長

横断型プロジェクトで開発の多様性を高める

浜松ホトニクスの売上高のうち80%以上は、光センサーや光源部品などの部品単体が占めている。一層の成長にはモジュール部品やシステム部品といった部品よりも、付加価値が高い製品の開発が欠かせない。しかし、1部門平均7.56人のグループで個別に動く従来の部門採算制では、「手がけられる事業の規模に限界があることが課題だった。案件によっては部門を超えて協力し合えるような、柔軟な仕組み作りが必要になっている」(晝馬明社長)。

静岡県内の工場。ガラス管の空気を抜いて真空管を作っている

浜松ホトニクスの売上高のうち80%以上は、光センサーや光源部品などの部品単体が占めている。一層の成長にはモジュール部品やシステム部品といった部品よりも、付加価値が高い製品の開発が欠かせない。しかし、1部門平均7.56人のグループで個別に動く従来の部門採算制では、「手がけられる事業の規模に限界があることが課題だった。案件によっては部門を超えて協力し合えるような、柔軟な仕組み作りが必要になっている」(晝馬明社長)。

浜松ホトニクスは11年4月に部門横断型の取り組みである「企画プロジェクト」を開始した。社内の多様な部署に約10人いる責任者の「理事」が橋渡し役となり、部門や事業部の壁を越えて協力しながら製品を開発する。すでに環境計測をテーマとして一つのプロジェクトが動いている。じっくりと3年程度かけて、新しい開発の仕組みとして社内に定着させていく方針だ。

モジュール部品やシステム製品の開発は複数の技術が必要なうえ、大手企業とも競合することが多い分野だ。今までのように少人数の部門単体での管理だけでは、対応しきれなくなる。そのため部門採算制をベースとした、横断型プロジェクトで開発の多様性を高める考えだ。

“光技術の起業家”を育てる

また、同社は将来への布石として光技術を応用した製品を開発するベンチャー企業の育成にも取り組んでいる。その一環として2005年に光産業創成大学院大学(浜松市西区)を設立。同大学で光技術に関連したビジネスを立ち上げる起業家を育てている。

11年末には同大学発のベンチャー企業を対象に資金面から経営を支援する制度を立ち上げた。同大学発以外でも有望な光技術を手がけるベンチャー企業は支援するように、出資する対象範囲を広げる考えだ。

同大の理事長は晝馬社長が務め、レーザーやセンサーなどを使った各種検査・測定装置の開発や、高効率農業システムなどを開発するベンチャー企業を生み出している。ただ、技術的に大きなブレークスルーを伴うユニークな製品やサービスが多いために事業化に時間がかかり、慢性的な資金不足の企業が多かった。

晝馬社長は「光産業創成大は新産業創出と起業家精神を持つ人材の育成を目指し、晝馬輝夫浜松ホトニクス会長が設立した。これまでにない概念の大学なので学生集めにも苦労するが、成功例を世に示すことが次につながる。新しいアイデアを持った起業家を支援すれば、日本の国力向上にもつながるはずだ」とし、今回の育成制度を呼び水にして国内外の有望なベンチャー企業を集積させたい考えだ。

光分野は技術メカニズムの解明がこれから進み、用途方法の開拓の余地が大きいとされる。同社は自ら育てたベンチャー企業にセンサー部品を供給することで、持続的な成長を目指している。

プロフィール

晝馬 明 (ひるま あきら)

1956年11月10日生まれ、静岡県出身。81年(昭56)米ラトガース大学コンピューター・サイエンス専攻を卒業し、84年に浜松ホトニクスに入社。同年米国ハママツ・システムズ・インクに出向した。学生時代も含め約30年は米国暮らしで、カナダ人の妻と愛娘が米国に住む。浜松ホトニクスの事実上の創業者である輝夫前会長兼社長(現会長)の長男。輝夫氏の健康悪化を受けて、10年に「浜ホトらしさの継承に最適」という理由で取締役会の満場一致で社長就任が決まった。中国の需要開拓など海外展開の加速に手腕を発揮している。

企業データ

企業名
浜松ホトニクス株式会社
Webサイト
設立
1953年(昭和28年)9月29日)
資本金
349億2800万円
所在地
静岡県浜松市中区砂山町325の6
Tel
053-452-2141
事業内容
光電子増倍管、光半導体素子、光源、イメージ機器、画像処理装置、計測装置の製造・販売
売上高
1018億5800万円(2011年9月期)

掲載日:2012年4月2日