闘いつづける経営者たち

「伊藤 雅俊」味の素株式会社(第4回)

04.さらなる飛躍に向けて

海外研究開発体制の強化

売上高構成比(事業別・単位は億円)

研究開発の核となる国内の再編の次には海外にあるR&D拠点の強化も行っていく。

これまではグローバルで通じる共通技術の部分は日本を中心にして各国に展開してきた。商品開発の部分については「各国に対応した商品を提供しなければならない」(伊藤雅俊社長)ため、各国に技術開発センターを設置している。今後は、アジア、北米、欧州、中国、ロシアでの研究開発を加速。海外R&D要員比率を28%から30%以上に増加する計画だ。

またR&D費用を2013年度まで年370億円程度にコントロールしつつ、オープン&リンクイノベーションを推進し、成果の早期創出を図る。

二つの研究開発重点テーマ

アミノ酸を抽出する様子

現在、味の素では「世界一の調味料」「先端バイオ関連技術」の二つを研究開発の重点テーマと位置づけている。これらのテーマにR&D費全体の40%を集中的投入し、将来の成長につなげる考えだ。「世界一の調味料」に向けては、味覚技術や素材開発を深化させる。そして各国の食文化に根付いた味作りなどを行っていく考えだ。

例えば、インド向けカレー用風味調味料「ハピマ」は、インド人の味覚に合わせ、ブレンドしている香辛料のそれぞれの特徴を際だたせた設計になっている。各国の経済成長に合わせる形で、こうした各国専用商品の開発を進めている。さらに、MSG、核酸などのような味覚素材を味覚レセプター研究など最先端技術を通じて新たなに発見するなどの取り組みにも注力する。

一方の「先端バイオ関連技術」については「10年先を見ながら研究をしていく」(中村徹研究管理部長)という。ここには三つの大きな課題がある。一つめは、食糧と競合しない非可食原料の発酵原料化など、省資源の維持確保への貢献だ。二つめは発酵技術や独自のアミノ酸栄養技術を活用し、動物や水産物、農産物の生産性を向上させる食資源に貢献するための研究開発。三つめは先端バイオ・ファインの技術を活用し、人々の健康な生活へ貢献するための次世代の医薬、医療や栄養改善を支える技術の開発だ。アミノ酸のさまざまな性質によって、これらの潜在的ニーズに応えようという試みだ。

グローバル健康貢献企業

研究開発力を高めることで、「量」から「質」を重視した付加価値型事業への転換を図り、国内だけでなく海外での競争力を高めていく考えだ。これらが、海外売上比率を現在の31%から2013年度までに35%までに引き上げるという目標達成の原動力となる。

さらにこれらの研究開発力の強化は、同社が掲げる大きなビジョン「グローバル健康貢献企業グループ」実現への布石でもある。これは21世紀の人類社会が抱える課題「地球持続性」「食糧問題」「健康」に対して、事業を通して貢献することを指す。伊藤雅俊社長は「これを達成することで真の『グローバルカンパニー』になれる」という。世界に必要とされる存在になることこそが、同社の利益に直結しているのだ。

プロフィール

伊藤 雅俊 (いとう まさとし)

1947年、東京都生まれ。1971年慶應義塾大学経済学部卒、同年味の素入社。95年食品部長、99年取締役、05年常務執行役員、06年食品カンパニープレジデント。創業100年目にあたる09年に社長に就任した。グローバルな仕事がしたいと味の素を選んだ。本流の食品部門を歩み、海外企業の買収や提携で手腕を発揮。趣味は料理。和洋中とレパートリーは広いが、食材を無駄なく使い切る料理を心がける。

企業データ

企業名
味の素株式会社
Webサイト
設立
1925年12月17日
資本金
798億6300万円
従業員数
単体3,310名 連結28,084名
所在地
〒104-8315 東京都中央区京橋一丁目15番1号
事業内容
食品製造販売

掲載日:2011年12月15日