闘いつづける経営者たち

「福井 正憲」株式会社福寿園(第4回)

04.伝統と人をはぐくむ

活動的な国際派社長

福寿園の商品「高山(こうざん)」

「鏡が曇っていたら何を見てもいけませんね」-。福井正憲社長は目的意識を持って情報収集することの大切さを、実体験している。海外経験が豊富で、訪問した国は80を超える。しかも米国なら31州、中国なら25省と一国でも何度も訪れる頻度が高い。17-18年前からは各国で学んだことを逐次、旅行記にしたためている。行動派社長の言葉は特徴的であり、真理をついている。

例えば「世界の常識は二つある」。海外では日本の常識は通用しない場合も多い。どちらかを否定するのではなく、どちらも正しいというのだ。この考え方は、取引先との意見の違いを認め合う「売り買い平等の原則」ともつながっているように思える。また、ほかの経営者にも感謝されるという考え方が「小事は好き嫌いで、中事は良い悪いで、大事は正しいか正しくないかで判断する」ということ。数々の経営判断に迫られる経営者にとって、指針となる判断基準として重宝されている。

海外生産での教訓

海外といえば福井社長が35歳の時、世界最大の産地であるインドでお茶づくりに乗り出した。当時は子会社の社長となって5-6年取り組んだがうまくいかなかった。その後は中国でも日本式茶生産をしたが、結局撤退した。海外戦略では三つの教訓を得たという。一つ目は世界市場で売れるものをつくる、二つ目はその国の技術を使う。そして三つ目はその国のためになること。当時は日本市場向けに、現地にそぐわない日本の機械を使い、日本のためにお茶をつくっていた。「今は海外生産の必要はない。ただ、(教訓で得た)その発想なら成功する」と断言する。現在は約50カ国で販売されている。

あるがままの社長道

福井家の家訓「無声呼人」

福井家の家訓は「無声呼人(むせいこじん)」。徳を積めば、人は呼ばなくても集まるという意味だ。福寿園の伝統は、「声を出して呼ばなくても、お越しいただけるモノづくりをする」という信念で醸成されてきた。その地道でひたむきな経営姿勢が、福寿園の屋台骨となっている。

一方、福井社長の座右の銘は「自如々(おのずからにょにょ)」。あるがままに、裏表なくといった意味だ。京都府木津川市山城町に住んでいた哲学者で広島大学名誉教授だった故・山本空外氏から授かった。言葉通り、福井社長の生き方が自如々と感じられるのはもちろんだが、それは人材育成にも生かされているようだ。「自分がやりたいことをまず決めさせる。好きこそものの上手なれ」。8番目の「当番」として次の世代にバトンを渡すまで、伝統と人の育成にまい進する。

プロフィール

福井 正憲 (ふくい まさのり)

1958年に福寿園入社。64年専務、79年副社長、90年社長。

企業データ

企業名
株式会社福寿園
Webサイト
設立
1949年(昭和24年)
資本金
8600万円(平成22年11月30日現在)
従業員数
700人(平成22年11月30日現在)
所在地
〒619-0295 京都府木津川市山城町上狛東作り道11
Tel
0774-86-3901
事業内容
日本茶の製造販売
売上高
130億円(10年2月期)
創業
1790年(寛政2年)

掲載日:2010年12月22日