闘いつづける経営者たち

「南部 靖之」株式会社パソナグループ(第2回)

02.新たな成長ステージに

規制緩和と景気拡大を背に毎年二ケタ成長を遂げ、07年度は6兆円規模まで膨れあがった人材派遣市場。ところが、リーマン・ショック以降の景気急悪化と規制強化を見越した顧客企業の需要激減を背景に市場拡大には急ブレーキがかかる。

厚生労働省発表の速報値によると、09年度中に派遣労働者として働いていた人は約230万人。過去最高だった08年度の399万人に比べると42.4%の大幅減。初めて迎える成長の踊り場は、パソナグループにとっても次なる成長ステージへの転換点である。

2期連続の減収

連結売上高(5月期)と国内派遣労働者の総数

7月20日に発表されたパソナグループの10年5月期連結業績。営業、経常段階での増益こそ確保したものの、売上高の約8割を占める派遣事業の低迷が響き、2期連続の減収を余儀なくされた。過去最高売上高を更新した08年5月期の2369億円から一転。2000億円の大台も割り込んだ。足元の人材派遣事業には受注回復の動きが見られるとするが、反面、企業の雇用調整一巡による再就職支援事業の落ち込みが予想されるため、今期は営業利益、経常利益では減益見通しだ。

問われる差別化戦略

収益構造の見直しを迫られる人材サービス各社。こうした実情を市場はどうみているのか。「真の差別化戦略が問われる」と語るのは、大和証券キャピタル・マーケッツの石原太郎シニアアナリスト。派遣のビジネスモデルは差別化余地が少なく、実力以上に背伸びした企業がコンプライアンス(法令順守)でつまずいた。だが市場縮小を機に、大手人材サービス企業の中には顧客企業や官公庁の業務の一部を丸ごと請け負うアウトソーシングや日系企業の新興国戦略を見据え海外市場の攻略を急ぐ動きが加速。「得意分野を磨き上げるんだという意欲は伝わってくる」(石原氏)。

「変化対応力」の切り札

決算発表会見に臨む南部代表

顧客企業側の意識変化も人材サービスのビジネスモデル転換を迫る。求めているのは、業務変動に応じた「労働力」の調達機能のみならず、市場変化への即応や業務革新を遂行する「術」。派遣制度をはじめとする外部人材の活用は、し烈な国際競争を勝ち抜く「変化対応力の切り札」となる。

一方、働く側にとっての雇用の現場はこの20年で様変わりした。モノづくりからサービス産業中心へと変容する産業構造。IT化や大量のアルバイトに依存するサービス業の興隆は正社員需要を縮小させた。パソナが目指すのは「誰もがいつでも好きな仕事を選択でき、ライフスタイルに合わせた働き方を実現できる社会」。そのための多様な就労インフラを提供する。やりがいを持って生き生きと働く-。かつては当たり前とされてきた、このことが困難な時代だからこそ、同社の果たす社会的意義は一層高まっている。

プロフィール

南部 靖之 (なんぶ やすゆき)

人材派遣業最大手パソナグループの創始者。1976年、関西大学工学部卒業。卒業の1ヶ月前に人材派遣会社テンポラリーセンターを設立。1989年障害者の雇用促進を目的に(株)テンポラリーサンライズ(現パソナ)を設立し、4年後の93年にテンポラリーグループCEOに就任。雇用創造をテーマに、社会の問題解決に奔走する。1952(昭和27)年、兵庫県神戸市生まれ。

企業データ

企業名
株式会社パソナグループ(Pasona Group Inc.)
Webサイト
設立
2007年12月3日
資本金
50億円
従業員数
連結 4,641名(2010年5月末現在)
所在地
〒100-8228 東京都千代田区大手町2-6-4
事業内容
グループ経営戦略の策定と業務遂行支援 経営管理と経営資源の最適配分の実施 雇用創造に係わる新規事業開発等
売上高
連結 1,835億円(2010年5月期実績)
創業
1976年2月16日
グループ会社
連結子会社 32社
持分法適用関連会社 3社
(2010年7月現在)

掲載日:2010年8月5日