闘いつづける経営者たち

「堀 高明」株式会社スターフライヤー(第4回)

04.「また乗りたい」という環境をつくる。ほかと同じだったら会社をつくる必要はない

非常識なデザイン

スターフライヤーの理念は「感動のあるエアライン」。その実現のための戦略を、堀は「ほかと違うことをやる」と強調する。

「ほかと同じ座席、機内装備、おもてなしで同じように飛ぶのだったら会社をつくる必要はない。大手でも新規でも既存の航空会社が新北九州空港で飛ばせばすむことだ」と言い切る。

この言葉に表れる堀のこだわりは他社を圧倒する。JALが赤、ANAが青と他の航空会社がそうであるように、スターフライヤーのコーポレートカラー(コンセプトカラー)は黒。機体から制服、空港カウンター、オリジナルグッズにいたるすべてが黒のモノトーンでデザインされている。

デザインはロボットデザイナーの松井龍哉が担当。グッドデザイン賞を受けた高貴なトーンからは「オレたちはほかと違う」というメッセージを感じさせる。

使用する機材はフランス・エアバス社製A320。4機すべてが新造機。ボーイング737に比べ胴体が7インチ太く、座席幅も3cmほど広い特別仕様。通常定員の170席を144席に抑え、座席間隔も約12cm広い。

座席はすべて黒のレザー張りにパーソナル液晶モニター、足元にはローラー付きフットレスト、パソコン用電源コンセントという豪華装備。

機内サービスでは、有名コーヒーショップ「タリーズ」による専用ブレンドコーヒーに日田天領水の特製ペットボトル、スープは化学調味料・保存料無添加の野菜を使ったオリジナルミネストローネという贅をつくしたもてなしが提供される。

機内での携帯メール接続サービスが秒読みに

国内線では異例の深夜早朝便を設定し、北九州離発着では朝5時30分から深夜1時まで飛ぶ。この年間を通じて定期運航される国内線の旅客機としては、最も早く運航を開始し、最も遅く運航を終了するという差別化で、一般顧客の利便性はもとより1泊の出張を日帰りに、2泊を1泊にして顧客企業のコスト削減に寄与する。

公共交通が終わったあとの空港からの移動手段は、北九州空港の駐車料金を24時間390円に設定、乗り合いタクシーも用意した。当初、羽田に関しては始発を6時、最終便到着が25時というダイヤも設けたが、羽田側の交通機関との足並みが揃わず、06年11月にこのダイヤの運休を余儀なくされた。

それでも現在、北九州-羽田は深夜早朝を含む1日11往復するシャトル運航体制を敷いている(北九州始発5時30分から、北九州最終到着25時)。

現在、航空機内ではパソコンや携帯電話、電子機器の使用はかなり厳しく制限される。しかし「電子機器も飛行機も進化して電磁波の影響はなくなってきている」と堀は指摘する。

そもそもスターフライヤーの機材は機内の信号ケーブルがすべて光ファイバー化され、電磁波による影響を受けにくい。そこから主力のビジネス客の便宜を図るため「安全性を証明して、機内での携帯メール使用を実現する方向で準備を進めている」という。

航空会社の究極の目標はいかに1便当たりの搭乗者数を増やして効率的に飛行機を飛ばすか・・・。

業界の一部には、プレミアム仕様の座席サービスは別としても、運賃を下げ、機内サービスを簡素化することに対して、もはや避けて通れないという考え方もある。

しかし堀は「われわれは逆をいく。ほかと違うことをやるには費用も手間もかかるけど、一度乗っていただいたお客様に座席が快適とか、コーヒーがおいしいとか、おもてなしが心地よいとか・・・その違いを感じてもらい、また乗っていただければそれでいい」という。

スターフライヤーを利用するすべての人にレベルの高いサービスを用意して「また乗りたいな」という環境をつくること、それが自分の使命であると堀は熱く語る。

微妙な均衡

90年代後半の規制緩和により多くの新規航空会社が設立された。スカイマークや北海道国際航空、スカイネットアジアなど・・・。ところが大手を巻き込んだ価格競争などの結果、伸び悩んでいる会社が少なくない。堀がここから導き出した教訓は「安いだけでは長続きしない・・・」だった。

多くの航空会社が、価格だけでなくあの手この手で新しい自社の魅力を展開しつつあるいま、堀が「ほかと違うことをやる」真意はこうした各社の苦悩する姿に学んだ結果でもある。

この差別化戦略の結果にいたっては、07年度の旅客実績(利用率)は各月ともに前年度を上回る。JALとの同じ時間帯での利用率比較では06年5月から10ポイントの差をつけて上回っている。

「格安ツアーへの無茶な料金での販売もしていないし、運航距離当たりの収入も高レベル。ほかと違うサービスにお客様が納得していただいた」と胸を張る。

とはいえ足元の業績は芳しくない。06年度は経常損失21億円、07年度は同7億円。羽田—関西空港便の就航による4号機の稼動やANAとの共同運航などで下期黒字化を目指し、08年度には利益を出す見通し。近く機体の空きスペースを利用した貨物輸送にも着手する。

新規航空会社は保有機数が少ない分だけ、間接コストの比率は高くなる。同社は早朝から深夜まで往復することで、それをカバーする。堀の24時間空港へのこだわりは飛行機の稼働率を上げて稼ぐためである。実際に同社の1機当たり飛行時間は3600時間/年。大手の1.5倍にもなる。

こうした営業努力によって料金は大手並み、もしくはそれ以下に抑え、しかも、ほかとは一味も二味も違ったサービスでリピーターを増やし、座席の利用率を上げて利益を出す・・・。

堀の描くビジネスモデルは何も特別なことをしようというのではない。しかし当たり前だが、その道は狭く、微妙な均衡を維持しながら進なければならない状況のようにもみえる。将来のアジア圏への国際線就航を踏まえ、スターフライヤーも航空競争の乱気流のまっただ中にいる。「大変なことほどおもしろい」という堀の手腕が試される。

スターフライヤーを立ち上げて、デザインやサービスで「ほかと違うこと」を次々と打ち出す堀。そして「格安で売る航空会社がいけないのではなく、お客様がいろいろな選択ができることのほうが重要」という思想に裏付けられた戦略。

そんな強力なカリスマ性を持った“いけいけ”タイプのトップでありながら、冷静に全体を見渡すこともできるバランスのとれた航空業界の新リーダー。異端児ではなく「目指したのは非常識」という堀とスターフライヤーは、そんな新リーダーに相応しい最高のおもてなしで今日も日本の空を飛び続ける。

プロフィール

堀 高明 (ほり たかあき)

1949年長崎県生まれ。1973年、東亜国内航空(株)(現・日本航空インターナショナル(株))入社。運航本部航務部運航技術課、乗員部飛行技術課、空港部、経営企画室主事、運航本部乗員基準部チーフマネージャーを歴任。1992年10月、航空業界を離れ親族の経営する栄和産業(株)営業統括部長。1993年11月、エグゼクティブ・エアサービス(株)(現・エクセル航空(株))業務部長として再び航空業界へ。パイロットの基礎訓練事業に従事し、1996年5月、エクセル航空(株)代表取締役社長。東京や横浜のヘリコプター・ナイト・クルージングや救急医療を行うドクターヘリ・サービスを事業化する。2002年12月、神戸航空(株)(現・(株)スターフライヤー)を設立し、代表取締役社長に就任。

企業データ

企業名
株式会社スターフライヤー
Webサイト
設立
2002年12月
資本金
5,833百万円
代表者
単体 355名(2007年7月25日現在)
所在地
〒802-0003 福岡県北九州市小倉北区米町二丁目2番1号 新小倉ビル
事業内容
定期航空運送事業および不定期航空運送事業ならびにこれに附帯または関連する事業
売上高
単体 12,082百万円

掲載日:2008年3月3日