経営強化・起業

中小企業BCP(事業継続計画)の普及促進

2022年1月内容改訂

過去にわが国で大地震が起きた際、震災地域にある工場では建物や設備が倒壊し、電気・水の供給が止まり、生産がストップしました。交通機関は麻痺し、企業は顧客に製品やサービスを供給できない状況がしばらく続きました。結果、顧客が離れて業績が悪化し、廃業した企業もあります。
企業を存続・成長させていくためには、このような緊急事態がいつ起きても早期に復旧できる対策をあらかじめ準備しておくことが必要です。
ここでは、近年取り入れる企業が増えているBCP(事業継続計画)について説明します。

BCP(事業継続計画)とは

BCPは“Business Continuity Plan”の略で、日本語では「事業継続計画」という意味です。自然災害等の緊急事態に遭った際、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、早期に復旧して中核となる事業を継続していくために、企業が事前に具体的な対策を計画しておくことです。
中小企業庁は次のとおり、5段階で進めていくBCPの策定手順を設けています。

【BCPの策定手順】

(1)基本方針の立案→(2)重要商品の検討→(3)被害状況の確認→(4)事前対策の実施→(5)緊急時の体制の整備

(1)基本方針の立案

この段階では、「BCPを策定する目的は何か」、「企業の緊急事態としてどのようなことが考えられるか」、「緊急事態が起きた場合、事業を継続するためには何が必要で、どのような行動をとればよいのか」、「BCPの策定にはどのような効果を期待できるのか」といった内容を検討します。
目的は「従業員の命や安全を守るため」、「早期に復旧して商品やサービスを供給することで、顧客からの信用を失わないため」、「経営難に陥って従業員をリストラしないため」、「地域経済に貢献していくため」等が考えられます。

(2)重要商品の検討

緊急事態が発生した際に、優先的に製造・販売する商品・サービスを検討し、重要商品を決めておく必要があります。
大震災等で商品・サービスの供給が停止すると、自社の売上や利益に大きな悪影響を及ぼします。たとえば、「当社の重要商品は、優先順位により、1)A社向けのX商品、2)B社向けのY商品、3)C社向けのZ商品である」などと決めておくとよいでしょう。

(3)被害状況の確認

企業が遭遇する可能性のある緊急事態として、大震災、津波、インフルエンザ、テロリスト等が挙げられます。
そのような緊急事態が発生した場合、自社にどのような影響があるのか、事前に考えておくことが重要です。たとえば、次のような内容です。

<インフラ>
  • 停電が発生し、ガス・水道の供給が停止する
  • 緊急事態の発生直後、電話やインターネットがつながりにくくなる
  • 道路で交通規制があり、車やバス、トラック等の渋滞が発生する
  • 電車の運行が止まる
<自社への影響>
  • 事務所、工場、店舗等が倒壊、浸水する
  • 機械設備、什器、商品、仕入品、パソコン等の備品が移動、倒壊する
  • 従業員が負傷する
  • 交通機関の停止で一部の従業員が出社できなくなる
  • 停電により商品の製造・販売、サービスの提供、パソコンを使った仕事ができない
  • 製造・販売が停止している間、財務面で売上の減少や人件費の負担が生じる
  • 倒壊した建物や機械設備の復旧に費用がかかる

(4)事前対策の実施

緊急時に起こりうる被害状況の具体的なイメージを確認し、それに向けた対策を準備しておくことが必要です。
大企業と比べると、中小企業の経営資源(ヒト・モノ・カネ・ノウハウ)は限られています。次のことを事前対策として準備しておくとよいでしょう。

  • 緊急時の行動手順や連絡方法を記載した対応マニュアルを作成・更新する
  • 社内で避難訓練を行う
  • 備蓄品は種類・数量・消費期限を確認し、補充しておく
  • 安否確認メール配信等のシステムを導入し、従業員にテスト訓練を行う
  • 建物、機械設備、什器等に耐震補強をしておく

また、被害が大きいのに早期復旧が困難である場合、通常とは異なる工場や機械設備で生産をしたり、通常とは異なる仕入れ先から商品や部品を仕入れたりすることで、代替案を用意しておくことも必要です。

(5)緊急時の体制の整備

緊急時の全社対応において、重要な意思決定や指揮・命令を行う統括責任者を決めます。統括責任者が不在の場合の代理責任者も決めておきましょう。初動対応、復旧に向けた対応、それぞれの時期に応じて対応する項目を出しておきます。
緊急時に備えた連絡網を作成し、各部門の従業員で共有しておくことも重要です。

定着と見直しでBCPを有効活用

せっかく社内でBCPを策定したのに、実際に大震災が起きたときに対応できなかった、役に立たなかったということでは、策定した時間や労力が無駄になってしまいます。よって、BCPを有効活用するために、BCPの定着と見直しを定期的に行います。

<BCPを定着させる活動>
  • 経営者は、従業員にBCPの進捗や問題点を確認する(年に1回以上)
  • 従業員は、BCPに対する自身の取組み状況や役割分担を確認する
  • 策定したBCPについて、研修会を開催する
  • BCPの内容を社内に掲示することで、従業員に意識づける
<BCPの見直し>
  • 取引状況や財務状況の変化、人事異動等によって、重要商品や事前対策の内容を見直し、変更する場合はBCPを更新する
  • BCPに関して新たな問題点を発見した場合は、それに対する事前対策を準備し、BCPを更新する

中小企業庁が定めるBCPには、「中小企業BCP策定運用指針」が設けられています。これは、中小企業の経営者が、従業員と一緒に自社のBCPを策定し、日常的に運用するとともに、緊急時に備えてBCPの発動の予習を行うための指針です。
「中小企業BCP策定運用指針」では、中小企業が投入できる時間と労力に応じて、4つのコース(入門コース、基本コース、中級コース、上級コース)が用意されています。
最初に、中小企業BCP策定運用指針のウェブサイトで「入門診断」を実施し、コースを選択して、BCP策定に取り組みます。各種様式はウェブサイトからダウンロードできます。

事業継続力強化計画

BCPの簡易版として、「事業継続力強化計画」の認定制度が令和元年7月に施行されました。この制度の認定を受けた中小企業は、税制優遇や金融支援、補助金の加点等の支援策が受けられます。「令和元年度補正・令和二年度補正 ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」では、申請時に事業継続力強化計画の認定を取得していることが加点の対象になっています。
事業継続力強化計画に記載する項目は、次のとおりです。

  • ハザードマップ等を活用した自然災害リスクの確認方法
  • 安否確認や避難の実施方法等、発災時の初動対応の手順
  • 人員確保、建物・設備の保護、資金繰り対策、情報保護に向けた具体的な事前対策
  • 訓練の実施や計画の見直し等、事業継続力強化の実行性を確保するための取組等
  • 事業継続力計画概要
  • 事業継続力強化計画作成指針
  • 事業継続力強化計画基本方針

事業継続力強化計画に関する情報については、次のウェブサイトで閲覧・ダウンロードができます。

先に説明したBCPは作成に多くの時間と労力を要しますが、事業継続力強化計画は簡易に作成できる上、国から各種の支援措置が受けられます。
中小企業等の皆様、この機会に事業継続力強化計画を作成してみてはいかがでしょうか。

まとめ

  1. BCPは、大震災等の緊急事態が発生した際に事業を継続していくための事前対策を記載した計画である
  2. BCPの策定手順は、基本方法の立案、重要商品の検討、被害状況の確認、事前対策の実施、緊急時の体制の整備の5段階で設定されている
  3. BCPの簡易版として、事業継続力強化計画の認定制度があり、国から各種の支援措置を受けられる