経営強化・起業

ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金

2025年7月内容改訂

企業間の競争がますます激しくなる一方で、人手不足は深刻です。これからの企業経営では、付加価値と生産性の向上を同時に達成していかなければなりません。また、近年は中小企業を対象とした制度変更が多く、設備投資やシステム導入が必要になる機会も増えています。このようなときに利用できる制度として、ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金(ものづくり補助金)があります。

ものづくり補助金は、中小企業・小規模事業者等が今後相次いで直面する制度変更(働き方改革や被用者保険の適用拡大、賃上げ、インボイス導入など)に対応するため、生産性の向上に資する革新的な新製品・新サービスの開発や、海外需要開拓を行う事業のために、必要な設備投資などに要する経費の一部を支援する補助金です。

補助金事業の全体像

補助金事業には独特な面がありますので、まずは全体像を把握しておく必要があります。補助金を利用する際の全体的なスケジュールは、次のようになります。

補助金を利用する事業の全体的なスケジュール

応募をする前に知っておかなければならないことが3つあります。

(1)応募申請・審査・採択決定

ものづくり補助金は、所定の期間内に必要書類をそろえて応募申請をする必要があります。令和元年度補正・令和2年度補正のものづくり補助金から通年募集となり、概ね3か月ごとに締め切りが設けられるようになりました。なお、応募申請をすれば必ず補助金を受けられるものではなく、審査に合格しなければなりません。

(2)補助事業実施期間

ものづくり補助金は設備投資などを支援するもので、実施できる期間が決まっています。これを補助事業実施期間といい、交付決定日から10か月以内(採択発表日から12か月以内)とされています。この間に発注、納入、検収、支払や試作開発を行わなければなりません。期間内に納入が間に合わない場合は、補助金を受けることができなくなります。

(3)精算払い

上図でも支払の後に補助金支払いとなっているとおり、補助金は後払いです。したがって、設備投資などの費用を全額準備しておく必要があります。あらかじめ資金繰りの計画を作っておくことも必要になります。

補助対象事業と補助率

ものづくり補助金の補助対象事業には、製品・サービス高付加価値化枠とグローバル枠の2つがあります。それぞれの概要などを以下に示します。公募回ごとに変更も多いため、最新の公募要領をよく確認するようにしましょう。

なお、基本要件に加えた追加要件や、基本要件の返還要件に加えた追加の返還要件、また、大幅賃上げに係る補助上限額の引き上げや、最低賃金引き上げに係る補助率引き上げの特例があるため、それらについても公募要領で確認するようにしてください。

<製品・サービス高付加価値化枠>

ものづくり補助金 補助対象事業(製品・サービス高付加価値化枠)

<グローバル枠>

ものづくり補助金 補助対象事業(グローバル枠)

補助対象事業の要件

ものづくり補助金では、いくつかの数値目標の達成が求められます。具体的には、以下の基本要件(1)~(3)を全て満たす3~5年の事業計画を策定することが必要です。従業員が21名以上の場合は、基本要件(4)を満たすことも求められます。

  • 基本要件(1):事業者全体の付加価値額の年平均成長率を3.0%以上増加させること
  • 基本要件(2):給与支給総額の年平均成長率を2.0%以上増加させること。または1人あたり給与支給総額の年平均成長率を、事業実施都道府県における最低賃金の直近5年間(2019年度を基準とする、2020~2024年度の5年間)の年平均成長率以上増加させること
  • 基本要件(3):本補助事業を実施する事業所内で最も低い賃金を、毎年、事業実施都道府県における最低賃金より30円以上高い水準にすること
  • 基本要件(4):「次世代育成支援対策推進法」第12条に規定する、一般事業主行動計画の策定・公表を行うこと

なお、付加価値額とは、営業利益、人件費、減価償却費を足したものをいいます。また、給与支給総額とは、全従業員(非常勤を含む)および役員に支払った給与など(給料、賃金、賞与および役員報酬等を含み、福利厚生費、法定福利費や退職金は除く)をいいます。1人あたり給与支給総額とは、給与支給総額を従業員数および役員数で除したものをいいます。

給与支給総額の増加目標や事業所内最低賃金の増加目標が未達の場合、補助金の返還義務が発生します。この点は非常に重要となりますので、必ず公募要領で詳細を確認するようにしましょう。

また、グローバル枠に申請する場合は、上記の基本要件に加え、以下のグローバル要件(1)~(4)のいずれかに該当し、かつ海外事業に関する実現可能性調査の実施、および社内に海外事業の専門人材を有するか、海外事業に関する外部専門家と連携することが必要です。事業の詳細や提出書類などは、公募要領を確認してください。

  • グローバル要件(1):海外への直接投資に関する事業
  • グローバル要件(2):海外市場開拓(輸出)に関する事業
  • グローバル要件(3):インバウンド対応に関する事業
  • グローバル要件(4):海外企業と共同で行う事業

応募手続き

申請は、電子申請システムでの受付となります。申請には、GビズIDプライムアカウントの取得が必要です。GビズIDにはプライムとエントリーの2種類がありますが、申請で使えるのはプライムとなります。プライムではアカウント発行に書類審査があり、不備がなくても1週間程度かかりますので、早めに準備を進めるようにしてください。

申請書作成の前に必要なこと

最後に審査項目を確認しておきます。審査項目は下記の5つ(大幅賃上げ特例に申請する場合は6も)です。申請書を作成する際は、どのような点を審査するのか理解しておくことが必須です。

なお、申請に際しては、各地の商工会やよろず支援拠点に相談し、サポートを受けることも可能です。

(1)補助事業の適格性

  • 公募要領に記載された対象者、対象事業、対象要件などを満たしているか

(2)経営力

  • 本事業により実現したい経営目標が具体化されているか
  • 外部環境(市場・顧客動向など)と内部環境(自社の経営資源にかかる強み・弱みなど)を分析した上で事業戦略が策定され、その中で、本事業が効果的に組み込まれているか
  • 会社全体の売上高に対する本事業の売上高が高い水準となることが見込まれるか

(3)事業性

  • 本事業により高い付加価値の創出や賃上げを実現する目標値が設定されており、かつその目標値の実現可能性が高い事業計画となっているか
  • 本事業の課題が明確化され、課題に対する適切な解決方策が示されているか
  • 本事業により提供される新製品・新サービスや、海外需要開拓の対象となる市場の規模や動向の分析がされているか。当該市場は今後成長が見込まれるか
  • 本事業により提供される新製品・新サービスや、海外需要開拓が顧客に与える価値が明確か。かつ顧客の特徴(属性・商圏など)が具体的に特定できているか。顧客ニーズの調査・検証がされているか(対価を支払ってでも本事業により提供される新製品・新サービスを選択したいと考える顧客がどの程度存在するか)
  • 本事業により提供される新製品・新サービスが顧客から選ばれる理由を理解しているか。競合する他社製品・サービスや、代替製品・サービスに関する分析がされているか。競合や代替の製品・サービスに対して差別化がされ、優位性を有しているか。

(以下、グローバル枠のみ)

  • 海外展開などに必要な実施体制や計画が明記されているか。また、海外事業に係る専門性を、申請者の遂行能力または外部専門家などの関与により有しているか
  • 事前の十分な市場調査分析を行った上で、競争力の高い製品・サービス開発となっているか
  • 国内の地域経済に寄与するものであるか。また、将来的に国内地域での新たな需要や雇用を創出する視点はあるか
  • ブランディング・プロモーション等の具体的なマーケティング戦略が事業計画書に含まれているか

(4)実現可能性

  • 本事業に必要な技術力を有しているか。競合する他社と比較してより優位な技術力か
  • 本事業に必要な社内外の体制(人材、専門的知見、事務処理能力など)や最近の財務状況などから、本事業を適切に遂行できると期待できるか。また、金融機関などからの十分な資金調達が見込まれるか
  • 本事業の事業化に至るまでの遂行方法、スケジュールや課題の解決方法が明確かつ妥当か
  • 本事業は投入する補助金交付額などに対して、想定される売上・収益の規模などの費用対効果が高いか。また、本事業の内容と補助対象経費とが整合しており、費用対効果が明確に示されているか

(5)政策面

  • 地域の特性を生かして高い付加価値を創出し、地域の事業者や雇用に対する経済的波及効果を及ぼすことにより、地域の経済成長(大規模災害からの復興などを含む)を牽引する事業となることが期待できるか
  • 異なるサービスを提供する事業者が共通のプラットフォームを構築してサービスを提供するような場合など、単独では解決が難しい課題について複数の事業者が連携して取り組むことにより、高い生産性向上が期待できるか。異なる強みを持つ複数の企業など(大学などを含む)が共同体を構成して製品開発を行うなど、経済的波及効果が期待できるか。また、事業承継を契機として新しい取り組みを行うなど、経営資源の有効活用が期待できるか。地域の持続的発展に寄与することが期待できるか。
  • 先端的なデジタル技術の活用、低炭素技術の活用、環境に配慮した事業の実施、経済社会にとって特に重要な技術の活用、新しいビジネスモデルの構築などを通じて、わが国のイノベーションを牽引し得るか
  • 成長と分配の好循環を実現させるために有効な投資内容となっているか
  • 米国の追加関税措置により大きな影響を受ける事業者であること

(6)大幅な賃上げに取り組むための事業計画の妥当性

  • 大幅な賃上げの取り組み内容が具体的に示されており、その記載内容や算出根拠が妥当なものとなっているか
  • 一時的な賃上げの計画となっておらず、将来にわたり、継続的に利益の増加などを人件費に充当しているか。また人件費だけでなく、設備投資などに適切に充当し、企業の成長が見込まれるか
  • 将来にわたって企業が成長するため、従業員間の技能指導や外部開催の研修への参加、資格取得促進など、従業員の部門配置に応じた人材育成に取り組んでいるか。また、従業員の能力に応じた人事評価に取り組んでいるか
  • 人事配置などの体制面、販売計画などの営業面の強化に取り組んでいるか

これらの審査項目の他に、加点項目と減点項目が細かく定められています。該当するものがあるかどうか、申請前に公募要領で確認すると良いでしょう。

まとめ

  1. 設備投資などの計画がある場合には、ものづくり補助金の利用が有効である
  2. 補助対象事業には、製品・サービス高付加価値化枠とグローバル枠があり、それぞれ補助上限額や補助率が異なる
  3. 計画書の増加目標が未達の場合、補助金の返還を求められる可能性があることに留意する
  4. 申請は電子申請システムでの受付となるため、あらかじめGビズIDプライムアカウントを取得しておく
  5. 申請書を作成する際は審査項目を理解し、その項目に沿った内容とすることが重要である
  6. 申請に際しては、各地の商工会やよろず支援拠点のサポートを受けることができる