ビジネスQ&A

歯車材料のポリアセタールの使用制限の動向を知りたい。

2021年2月12日

弊社は歯車メーカーで、顧客の図面から製造します。歯車の材料にポリアセタールを使っていますが、ホルムアルデヒドを生成する可能性があると顧客から代替化を要求されました。ポリアセタールの使用禁止の動向を教えてください。

回答

ポリアセタールはポリオキシメチレンと言われる汎用エンプラの一つで、POMと略記されます。POMは、ホルムアルデヒドのみが重合した「ホモポリマー」と、オキシエチレン単位を含む「コポリマー」があります。モノマーであるホルムアルデヒド、あるいはトリオキサンに水などの不純物が含まれているとポリマーの末端からホルムアルデヒドが順次外れるアンジッピング反応(解重合)を引き起こすとされています。最近はホルムアルデヒド、あるいはトリオキサンに水などの不純物を除去する技術が開発されています。アンジッピング反応はゼロにはできませんが、制限はリスクで評価します。
POMが制限対象になる可能性はゼロではありませんが、制限対象にする場合は移行期間が設けられます。ECHAのWebで動向を確認するとよいと思います。

(i)POMについて

ポリアセタール(polyacetal)はポリオキシメチレン(polyoxymethylene)とも言われ、POMと略記されます。POMは、ポリアミド、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレートなどの汎用エンプラの一つです。
POMは、オキシメチレン(oxymethylene、−CH2O−)構造を単位構造に持つポリマーです。ポリアセタール、またはアセタール樹脂、あるいはポリアセタール樹脂と呼ばれます
ホルムアルデヒドのみが重合した「ホモポリマー」と、オキシエチレン単位を含む「コポリマー」があります。
モノマーであるホルムアルデヒド、あるいはトリオキサンに水などの不純物が含まれていると、連鎖移動反応によりポリマー末端はオキシメタノール構造(−OCH2OH)となり、オキシメタノール構造は、融点以上になると末端からホルムアルデヒドが順次外れるアンジッピング反応(解重合)を引き起こすとされています。

(ii)REACH規則の制限条件

REACH規則附属書XVII(制限)の Entry 72を追加した規制(EU) 2018/1513(2018年10月10日)の前文第3文節で「特定のCMR物質は、製造プロセスからの不純物として、またはそれらが特定の特性を与えるために意図的に追加されたため、衣類および関連するアクセサリー、その他の織物および履物に存在する。」としており、不純物も対象としています。
前文は、規制本文の解釈を示すものです。

(iii)ホルムアルデヒドフリーPOM

ホモポリマーの場合は無水酢酸を用いたアセチル化などのエンドキャップ処理を施すことで、熱安定性が改善されています。また、コポリマーの場合は、融点以上で末端の不安定部を解重合させて、安定な末端で終わらせる処理が行われています。
最近は、モノマーであるホルムアルデヒド、あるいは1,3,5-トリオキサンから水などの不純物を取り除く、高度な精製技術が開発されています。
さらに、ホモポリマーの場合には無水酢酸を連鎖移動剤としてホルムアルデヒドの重合を行うと、連鎖移動反応によりポリマー末端がアセチル基(−COCH3)でエンドキャップされた安定な重合体が得られます。
また、コポリマーの場合はメチラール(CH3OCH2CH3)を連鎖移動剤として1,3,5-トリオキサンとコモノマーとの共重合を行うと、連鎖移動反応によりポリマー末端がメトキシ基(−OCH3)でエンドキャップされた安定な共重合体が得られる技術開発が行われています。

(iv)POMの制限の可能性

制限は、EU委員会が、人の健康または環境への適切に管理されないリスクがあり、対処が必要と考える場合に、起案します。
ホルムアルデヒドフリーPOMの流通や消費者向け製品への不使用などのリスクが管理されれば、制限提案はされません。
今後、POMが入るとも入らないともいえる状況ではありませんが、POMは多用されており、ある日突然制限されるものではなく、制限は以下の手順で決定されます。

制限提案は、EU委員会が物質、混合物または成形品中の物質の製造、上市、使用が、人の健康または環境への適切な管理がされていないリスクが示され、対応が必須と考える場合に、ECHAに対して附属書XVの一式文書の作成の指示により始まります。
附属書XIV(認可物質)の日没日以降で、成形品での使用が健康または環境への適切な管理がされていないとECHAが考える場合も附属書XVの一式文書の作成をします。
各加盟国も物質、混合物または成形品中の物質の製造、上市、使用が、人の健康または環境への適切な管理がされていないリスクが示されて、対応が必須と考える場合に、ECHAに対して附属書XVの一式文書の作成を指示します。
このように、制限提案はいくつかのスタート点があります。

ECHAは附属書XVの一式文書を、リスクアセスメント専門委員会、社会経済分析専門委員会で、附属書XVの要件への適合性の確認を得てから、制限の提言、附属書XVの一式文書をウェブで公開しコメントを求めます。
リスクアセスメント専門委員会は、提言された制限が人の健康及び/又は環境へのリスクを低減するのに適当であるかを附属書XVの一式文書及び寄せられたコメントを考慮し意見をまとめます。
社会経済分析専門委員会は、附属書XVの一式文書および社会経済的影響を考慮して、提言された制限に関する意見をまとめます。意見は附属書XVI(社会経済分析)に適合した情報を考慮します。
ECHAは両委員会の意見をEU委員会に提出し、EU委員会が提言された制限を決定します。

起案から決定の手順のなかの状況は、ECHAが“Consultations”のページで公開しています。これらの情報を入手しながら早めの対応をするのが肝要です。

回答者

中小企業診断士 松浦 徹也

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