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フタル酸エステルの4物質(DEHP、DBP、BBP 、DIBP)が0.1wt%以上含有する場合のEU REACH規則の新たな制限の濃度の合計と分母の解釈を教えて欲しい。

2020年 11月 2日

当社はステンレス製の部品に樹脂部品を組付けてEUに輸出しています。樹脂部品に複数のフタル酸エステル類を含有している可能性があります。
新たに、フタル酸エステルの4物質(DEHP、DBP、BBP 、DIBP)が0.1wt%以上含有する場合にEU REACH規則の制限対象となったと聞いています。
複数のフタル酸エステルを含有している場合、濃度の計算と分母の設定の方法を教えて下さい。

回答

EU REACH規則の制限として、2020年7月7日からフタル酸エステルの4物質(DEHP、DBP、BBP、DIBP)の合計で0.1重量%以上を含有する成形品の上市がEU REACH規則で制限されました。
分母は、「可塑化材料」で、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリ酢酸ビニル(PVA)、ポリウレタンなどの樹脂、シリコーンゴム、表面コーティングや接着剤などです。
RoHS指令が適用される電気電子機器に組み込まれる部品などは、RoHS指令の要求が適用されます。RoHS指令の要求は、フタル酸エステルの4物質の合計ではなく、個々のフタル酸エステルの濃度になります。
フタル酸エステルの含有量は、RoHS指令のIEC62321-8で測定できますが、サプライヤーから適合宣言を入手するのが現実的です。

i.規制内容の整理

ご質問のフタル酸エステルの4物質(DEHP、DBP、BBP、DIBP)の規制は、EU REACH規則の制限物質として附属書XVII(制限)の Entry No.51で以下のように規定されています。(注1)

4種のフタル酸エステルを1種類または任意の組み合わせで0.1重量%以上含有する成形品を2020年7月7日以降に上市してはならない。
濃度は、「可塑化材料」中のフタル酸エステルの4物質の任意の組み合わせの質量を合計して含有量を計算します。
分母の「可塑化材料」(plasticised material)の定義は5(a)で以下としています。
「可塑化材料」とは、次の均質材料(homogeneous materials)のいずれかを意味する。

  • ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリ酢酸ビニル(PVA)、ポリウレタン
  • シリコーンゴムおよび天然ラテックスコーティングを除く、その他のポリマー(とりわけ、ポリマーフォームおよびゴム材料を含む)
  • 表面コーティング、滑り止めコーティング、仕上げ、デカール、印刷デザイン
  • 接着剤、シーラント、塗料、インク

ii.貴社製品の解釈

貴社製品の場合は、ステンレス製の部品に樹脂部品を組付けておられますが、樹脂部品が分母となります。組付ける樹脂部品が複数であれば、個々の樹脂部品が分母となります。
接着剤を使用している場合は、接着剤が分母となります。
REACH規則の成形品ガイドでは、接着剤中の特定物質の濃度計算の分母は、接着させている2つの成形品の重量ですが、定義で「可塑化材料」とは、次の均質材料(homogeneous materials)のいずれかを意味する」としているように、RoHS指令の均質材料の解釈と同じです。

iii.規制の除外

従来は玩具や育児用品が対象でしたが、2020年7月7日以降は、この条件が削除されてすべての用途が対象となりました。
しかし、以下の用途で使用する成形品は適用除外としています。

  • 人間の粘膜や皮膚と長時間接触しない工業用または農業用、または屋外でのみ使用する成形品
  • 2024年1月7日より前に上市された航空機または航空機の安全性と耐空性を確保するために航空機のメンテナンスや修理に限定して使用する成形品
  • 2024年1月7日より前に上市された指令2007/46 / ECの範囲内の自動車または自動車の正常な動作に不可欠でメンテナンスまたは修理に限定して使用する成形品
  • 実験室用の測定装置またはその部品
  • RoHS(II)指令で規制される電気電子機器や食品包装材、医療機器、医薬品など他の法規制により制限を受ける用途で使用する場合
  • 2020年7月7日より前に上市された成形品

仮に、貴社製品を電気電子機器に組み込んで上市する場合は、REACH規則ではなく、RoHS指令が適用されます。濃度計算の分母は共通ですが、分子が違います。REACH規則は、DEHP、DBP、BBP、DIBPの合計ですが、RoHS指令は個々のフタル酸エステルになります。
最大許容濃度は共に0.1重量%ですが、サプライヤーからの含有情報を入手する場合に留意しなくてはなりません。

iv.法規制による差異

貴社が取り扱う製品が複数の成形品で構成されていますので、REACH規則の成形品ガイド(注2)でいう「複雑な成形品」となります。
「複雑な成形品」については、複数の成形品が製造プロセスを経た後も成形品の定義を維持している場合、それぞれを成形品として法規制の適用を行うとされています。
したがって、分母の設定は製品を構成するそれぞれの成形品について行います。
さらに、それぞれの成形品について、附属書XVII(制限)の Entry No.51の「可塑化材料」単位で、含有を確認することになります。

v.非含有確認(ご参考)

RoHS指令(2011/65/EU)のDEHP、DBP、BBP、DIBPの含有の測定は、IEC 62321-8(フタル酸エステルの分析法)によっています。
定量分析は、前処理としてソックスレー抽出法を行い、GC-MS分析機またLC-MS分析機で測定します。
スクリーニング分析として、Py(パイロライザー)-MS方式があります。
簡便法として、IEC62321-3-4でFT-IR法が2021年6月に国際標準として発行が進んでいます。
REACH規則でもこの測定法は利用できると思いますが、機器分析は費用と期間が必要ですので、サプライヤーからの情報提供により順法宣言するのが現実的です。

引用情報等:

回答者

中小企業診断士 松浦 徹也

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