ビジネスQ&A

設備投資計画における採算性の計算方法について教えてください。

当社では、主力製品の生産能力を上げるため、新たな設備投資を計画しています。投資案の採算性を評価する方法を教えてください。

回答

生産能力をあげる設備投資では、その投資によって見込まれる収入(売上高の増加分)から増加する費用(直接材料費などの変動費や減価償却費、支払利息など)を差し引いて得られる利益またはキャッシュを算出し、それを投資金額と比較して、採算性を評価します。

【設備投資の評価方法】

設備投資は、多大な資金を伴うので、その採算性を事前によく検討することが必要です。

設備投資の採算性を評価する方法としては、以下のような方法があります。

(1)正味現在価値(NPV:Net Present Value)法

企業の資本コストを割引率とし、投資から得られる年々のキャッシュフローを割り引いて、将来キャッシュフローの現在価値を求め、算出された将来キャッシュフローの現在価値の総和と初期投資額とを比較して、採算性を評価します。

投資の正味現在価値=(投資によるキャッシュフローの割引現在価値)−投資額

正味現在価値法による投資価値の算出式 正味現在価値法による投資価値の算出式

(2)内部利益率(IRR:Internal Rate of Return)法

内部利益率とは、正味現在価値がゼロとなるような割引率のことです。すなわち、投資額=投資によるキャッシュフローの割引現在価値となる割引率を求め、その率を比較することによって複数の投資案件の優劣を評価する方法を内部利益率法と言います。内部利益率は、その投資の予想利益率でもあるので、その率が目標とすべき利益率を上回っていることが、投資を実行する条件になります。

内部利益率法による投資価値の算出式 内部利益率法による投資価値の算出式

(3)回収期間法

投資額を、投資によって得られるキャッシュフローの平均値で割って、投資資金の回収期間を算出する方法です。

投資回収期間の算出式 投資回収期間の算出式

(4)投資利益率法

投資によって得られる増加利益を投資額で割って、利益率を算出する方法です。

投資利益率の算出式 投資利益率の算出式

【将来の利益額またはキャッシュフローの算出方法】

上記のどのような方法で評価するにしても、将来の利益額またはキャッシュフローの見積をあやまっては意味がありません。生産能力を上げる設備投資では、その投資によって見込まれる収益の増加(売上高の増加分)から費用の増加(直接材料費などの変動費や減価償却費、支払利息など)を差し引いて、利益またはキャッシュを算出します(表1)。

キャッシュフローの算出方法 キャッシュフローの算出方法
表1 キャッシュフローの算出方法

キャッシュフロー=当期利益+減価償却費

(1)まず、売上高の増加分を算出します。

売上高増加分=想定販売価格×(計画(投資後)販売数量−現状(投資前)販売数量)

販売価格を想定するにあたっては、現状価格からの売価ダウンがどの程度になるかも考慮しなければなりません。また、計画販売数量は、基本的には設備能力と標準的な機械の稼働時間をもとに生産可能な数量を算出して設定すべきですが、需要動向や自社のシェアによっては、生産能力を埋めるだけの生産量が確保できるとは限りません。

したがって、生産能力に市場予測を加味して、より現実的な計画販売数量を想定すべきでしょう。

(2)次に増加する費用を見積もります。

  1. 直接材料費
    数量増加に見合う直接材料費を算出します。現状の材料費をベースとし、新たな設備を入れることによって、歩留などの改善が見込めるのであれば考慮します。
  2. 直接労務費
    生産量が増加することによって必要となる製造工程の増加人員の労務費を算出します。逆に、新たな設備導入で生産性が向上し、人員削減などが見込めるのであれば、それも加味します。
  3. 変動製造間接費
    設備の増加にともなう光熱費や消耗品などの間接材料の増加分を見積もります。
  4. 販売費および一般管理費
    発送費や保管料などの増加分を見積もります。
  5. 支払利息
    投資資金を借入れる場合、支払利息の増加分を見積もります。
  6. 減価償却費
    設備投資に見合う減価償却費を算出して織り込みます。減価償却費の償却方法や償却率は、企業によりあるいは事業内容などにより異なりますので、確認が必要です。利益額ではなく、キャッシュフローを用いて採算性を評価するのであれば、非資金費用である減価償却費はあらためて利益額に加算する必要があります。

このような手順で、投資による利益またはキャッシュフローの増加額を見積もったうえで、前記【設備投資の評価方法】(1)〜(4)のような方法を組み合わせて、投資の採算性計算を行うとよいでしょう。

回答者

中小企業診断士 岡田弘

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