業種別開業ガイド
ネイルショップ
トレンド
1. サービスとしても職業としても女性に人気
爪の美容に関しては、ネイルアートと呼ばれるものが1990年代から存在していたが、用途はブライダルやパーティの場などにおけるおしゃれに限られていた。しかし、2000年頃に爪に付けるジェル素材を硬化させる技術が広がったことから利便性が増し、多くのネ イルサロンが登場するようになった。
現在では、高級店から低価格店などバリエーションが増え、また、美容院などのサービスの一つとして導入している店舗も多く、女性のおしゃれとして定着している。1997年に初めて「ネイリスト技能検定試験」が実施されて以来、ネイリストの資格制度も整備・拡充されており、独立開業を目指す女性の間で、ネイリストは人気が高い職業の一つとなっている。
2. セルフネイルの広がりを背景とした市場規模拡大の鈍化
NPO法人日本ネイリスト協会「ネイル白書」によると、2016年のネイル産業全体の市場規模は2,247億円に達する見込みとされている。しかし、このうちネイルサービス市場の伸びは近年、鈍化している。その背景としては、セルフネイルの広がりが指摘されている。今では、ネイルのテクニックを紹介する本やサイト、教室がすでに多くあることや、材料もネイル専門のショップなどで取り揃えられる。このため、セルフネイルを始める人も増えてきており、今後も注視すべき動向だと言える。
3. 新規顧客の取り込み
主な客層は10代~40代の女性であるが、これまで利用率の低かった50代以上の顧客獲得に積極的に取り組むネイルサロンも出てきている。また、割合としてはまだ低いが、ビジネスマンを中心とした男性のネイルケアの需要も着実に増えており、専用のサロンも増えてきている。
ネイルサロンの特徴
- サービスの内容は、手足の爪の美容、カラーリング、デコレーション、フットケア、ハンドマッサージなどである。基本的にオーナー一人でもできるビジネスであり、広い店舗設備も大きな仕入在庫も必要としないため、個人で開業する人も多い。客単価は1万円前後のところが多いが、チェーン店の中には、オペレーションの効率化を実現し、5,000円前後まで価格を下げているところもある。
- 基本メニューとしては、ネイルケア(甘皮の除去、爪の整形など)、カラーリング(マニキュアの塗装)、カラーオフ(マニキュアの除去)、カラーチェンジ(マニキュアの塗り直し)、ハンドケア(手や腕の保湿などのトリートメント)、フットケア(かかとの角質除去、膝下までの保湿など)がある。
これにオプションとして、ジェルネイル(ジェルによる爪先の延長、装飾)、アクリルネイル(アクリルパウダーによる爪先の延長、装飾)、アート(絵付け、飾り付けなど)といったメニューが加わる。 - たとえばアートにおいても、装飾に石を付けるもの、爪先に穴を空けてピアスを付けるもの、デザイナーがフリーハンドで絵を描くもの、エアブラシで絵の具を吹き付けて模様を描くものなどさまざまな技法が開発されており、各ネイルサロンともにネイリストの得意分野をウリに差別化を図っている。
- 施術時間は両手で、カラーリングの場合1時間程度、ジェルによる場合で1時間半から2時間程度である。すでに施されているネイルの取り外しが必要な場合は30分程度の時間がさらに必要とされる。ネイルへの施術は時間がかかるため、1人の技術者が1日に対応できる客数は限られる。このため、事前予約による施術の比率を高め、空き時間をできるだけなくすことが重要である。
ネイルサロン業態 開業タイプ
ネイルサロンは、主として個人店とチェーン店に分かれる。最大の違いは出店場所である。チェーン店は駅ビルやショッピングセンターなどの好立地に出店していることが多い。これらの立地は、費用などを考えると個人店での出店は難しい。よって個人店は、チェーン店の立地に負けない魅力や集客力を磨く必要がある。
(1)個人店
街中に5坪程度の簡易な店舗を構えるタイプや、マンションの一室や自宅の一部を店舗に転用して開業するタイプもある。オーナーとスタッフの1~2名で運営している店舗が一般的である。独自の裁量での店舗運営が可能であるが、集客力を高める努力が必要である。また、個人のネイリストとしての技術や才能が業績に大きく影響する。個人の技術を磨いてネイルコンテストへの出場、ネイル雑誌に紹介されるなど、自己研鑽や積極的なPR活動も必要とされる。
(2)チェーン店
知名度と集客力のある駅ビルやショッピングセンターなどの好立地にテナント出店しているタイプが多い。スタッフ数は多く、4~5席程度の座席を構えている店舗も多い。店舗運営に関しては、本部からマニュアルが提供されるため、事業運営の経験が浅くても開業しやすい。また、店舗立地の良さや、チェーンのブランドに対する信頼感により集客もしやすい場合が多い。
開業ステップと手続き
(1)開業ステップ
開業に向けてのステップは、主として以下の8段階に分かれる。
(2)必要な手続き
ネイルサロンを開業するに際して必要な許認可などはない。
メニューづくり
開業当初は、以下のような施策で営業開拓を行う。
- 手足の爪の艶出し、爪に色を施すカラーリングとデコレーションを施すアートが主流であるが、このほか、ネイルだけではなく、各種マッサージ、頭皮・毛髪のケアなど、さまざまなオプションメニューが設けられている。カラーリングの色の種類が100種類を超える店舗も多い。また、ハンドクリームやキューティクルオイルなど、来店客が自宅でケアに使う各種用品の販売なども行える。
- ネイルアートは日常的なおしゃれになりつつあるが、成人式や卒業式、結婚式、学校の夏休みや花火大会、ハロウィーンやクリスマスの時期には利用者が特に増えるので、技術者の人員確保やオペレーションの準備が必要となる。
- リピート客を増やすために、基本的な技術力を磨くのはもちろんのこと、サービス・メニューを拡充することが必要となる。また、施術時間が長いことから居心地を重視する顧客も多いため、ホスピタリティの向上(雰囲気や椅子、飲み物など)や、付加価値的なサービスとして、爪のケアに対するコンサルティングや、物品販売などを行い、ユーザーの満足度を高める努力も必要となる。
必要なスキル
- 技能については、技能認定機関が行うネイリスト向け講習に参加するほか専門学校での技術習得、通信教育を受けるなどして身に付けるのが一般的である。技能認定試験としては、公益財団法人日本ネイリスト検定試験センター(JNEC)が実施する「ネイリスト技能検定試験」や、NPO法人日本ネイリスト協会が「JNAジェルネイル技能検定試験」「JNA国際ネイリスト技能検定試験」を、NPO法人インターナショナルネイルアソシエーションが「ネイルスペシャリスト技能検定試験」「ジェルネイル技能検定試験」を実施している。資格は「1級」「2級」「3級」「初級」「中級」「上級」などに分かれているものもある。常に技術の研鑽・サービス向上に励み、より高位の資格取得を目指したい。
- 個人で開業する場合は、資格取得後にいきなり開業することも可能だが、まずネイルサロンにスタッフとして勤務することも考えるべきだろう。スタッフとして接客する中で、技術の向上や接客力を身に付けたい。同時に、自らを指名してくれるリピーターを作れば、独立した際に引き続き利用してくれる固定客となる。
- 自社でホームページを持ち利用者が予約しやすくすることのほか、複数のネイルサロン予約検索サイトにも登録し、ネットから広く顧客を誘導できるよう、間口を広げる仕組みをもつことも重要である。
- なお、ネイルの施術に用いる溶剤の中には引火性の高いものや、揮発ガスが人体へ悪影響を及ぼすものもある。このため、店内は禁煙とし、換気設備を十分に設け、顧客や従業員の健康にも留意する必要がある。
開業資金と損益モデル
(1)開業資金
ネイルサロンは、5坪程度の狭い店舗でも開業が可能である。完全予約制の営業で、マンションの一室を店舗にしているケースもある。自宅マンションを転用する場合は、下記試算より費用を抑えて開業が可能である。
【参考】:店舗面積約5坪のネイルサロン(個人店)を開業する場合の必要資金例
(2)損益モデル
■売上計画
店舗の立地や業態、規模等の特性を踏まえて、売上の見通しを立てる。平日、土曜、日曜、祝日で来客予想数を変えるなど、細かく作り込むことが重要である。
(参考例)ネイルサロン(個人店)
■損益イメージ(参考例)ネイルサロン(個人店)
- 個人事業主を想定していますので、営業利益には個人事業主の所得が含まれます。
- 開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況などにより異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元に作成した一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)
掲載日:2019年2月