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従業員の心の病気を防ぐ

従業員の心の病気を防ぐのイメージ01

継続的・計画的なメンタルヘルスケアが鍵となる

近年、「心の病気」を有する患者は増加の一途にある。労働者が「心の病気」にかかったために、長期欠勤や退職に至ってしまう例も珍しくなくなってきた。そうした事態を防ぐためには、従業員に対するメンタルヘルスケアを、常日頃から継続的・計画的に実施することが有効である。

従業員の心の病気を防ぐポイント

  1. 心の病気を理解する
  2. メンタルヘルスケアを推進する
  3. 衛生委員会等において調査・審議する
  4. 4つのメンタルヘルスケアを継続的・計画的に行う
  5. 関係者が連携した取り組みを推進する

1.心の病気を理解する

我が国における「心の病気(精神疾患)」を有する総患者数は近年増加傾向にある。平成14年に約258万4,000人だった総患者数は、平成29年には約419万3,000人に達している。この数字は日本の全人口に対して30人に1人という割合になる。この間、入院患者数は約34万5,000人から約30万2,000人へと減少しているが、外来患者数は約223万9,000人から約389万1,000人へと大幅に増加している(厚生労働省「地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会 第13回参考資料」 令和4年)。

とくに近年目立っているのが、うつ病などの「気分障害」の増加である。平成14年に約68万5,000人だった患者数が、平成29年には約124万6,000人にまで増えている(同資料)。従業員が気分障害にかかった場合、長期療養が必要になったり、最悪の場合、大切な人材が会社を辞めてしまったりすることもありえる。

「気分障害」が発症するメカニズムははっきりしていないが、その背景に精神的ストレスや身体的ストレスがあることは知られている。近年、労働者の受けるストレスは拡大する傾向にあり、仕事に関して強い不安やストレスを感じている労働者が半数を超えるような状況にある(厚生労働省「労働者安全衛生調査」令和2年)。

職場でストレスを受ける原因としては、「仕事の量・質」(56.7%)が最も多く、次いで「仕事の失敗、責任の発生等」(35.0%)、「対人関係(セクハラ・パワハラを含む)」(27.0%)と続く(同調査)。

2.メンタルヘルスケアを推進する

厚生労働省では労働安全衛生法に基づき、「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(平成27年11月改正)において、事業者が講ずるように努めるべき労働者の心の健康の保持増進のための措置(=メンタルヘルスケア)が適切かつ有効に実施されるよう、その原則的な実施方法を定めている。

事業者は、自らがメンタルヘルスケアを積極的に推進していくことを表明するとともに、衛生委員会等において十分調査審議を行い、「心の健康づくり計画」や、ストレスチェック制度の実施方法等に関する規定を策定しなければならない。

前述の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」においては、職場におけるメンタルヘルス対策を推進していく上で、とくに留意すべきこととして、次の4点が挙げられている。

1. 心の健康問題の特性

心の健康については、本人から心身の状況の情報を取得する必要があり、さらに、心の健康問題の発生過程には個人差があるため、そのプロセスの把握が難しい。

2.労働者の個人情報保護への配慮

メンタルヘルスケアを進めるに当たっては、健康情報を含む労働者の個人情報の保護及び労働者の意思の尊重に十分留意することが重要となる。心の健康に関する情報の収集及び利用に当たって、労働者の個人情報の保護への配慮は、労働者が安心してメンタルヘルスケアに参加でき、ひいてはメンタルヘルスケアがより効果的に推進されるための条件となる。

3.人事労務管理との関係

労働者の心の健康は、職場配置、人事異動、職場の組織等の人事労務管理的な要因によって大きな影響を受ける。メンタルヘルスケアは、人事労務管理と連携しなければ、適切に進まない場合が多い。

4.家庭・個人生活等の職場以外の問題

心の健康問題は、職場のストレス要因のみならず、家庭・個人生活といった職場外のストレス要因から影響を受けている場合も多くある。また、個人の要因等も心の健康問題に影響を与え、これらは複雑に関係し、相互に影響し合う場合が多い。

3.衛生委員会等において調査・審議する

労働安全衛生法第18条において「事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、次の事項を調査審議させ、事業者に対し意見を述べさせるため、衛生委員会を設けなければならない」と規定されている。

メンタルヘルスケアは、中長期的視野に立って、継続的かつ計画的に行われるべきであり、その推進に当たっては、事業者が労働者の意見を聞きつつ事業場の実態に沿った取組みを行うことが重要である。そのために衛生委員会等において十分調査審議を行った上で「心の健康づくり計画」を策定することが求められる。

「心の健康づくり計画」に盛り込む内容

  1. 事業者がメンタルヘルスケアを積極的に推進する旨の表明に関すること
  2. 事業場における心の健康づくりの体制の整備に関すること
  3. 事業場における問題点の把握及びメンタルヘルスケアの実施に関すること
  4. メンタルヘルスケアを行うために必要な人材の確保及び事業場外資源の活用に関すること
  5. 労働者の健康情報の保護に関すること
  6. 心の健康づくり計画の実施状況の評価及び計画の見直しに関すること
  7. その他労働者の心の健康づくりに必要な措置に関すること
  8. ストレスチェック制度の明確な位置づけに関すること。

メンタルヘルスケアの計画及び進め方の例を以下に示す。

メンタルヘルスケアの計画及び進め方の例

4.4つのメンタルヘルスケアを継続的・計画的に行う

メンタルヘルスケアにおいては、心の健康作り計画を策定して、「セルフケア」「ラインによるケア」「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」「事業場外資源によるケア」という4つのケアが継続的かつ計画的に行われるようにすることが大切である。

1.セルフケア

事業者は労働者に対して、次に示すセルフケアが行えるように教育研修、情報提供を行うなどの支援をする。また、管理監督者にとってもセルフケアは重要であり、事業者はセルフケアの対象として管理監督者も含めるようにする。

  1. ストレスやメンタルヘルスに対する正しい理解
  2. ストレスチェックなどを活用したストレスへの気付き
  3. ストレスへの対処 など
2.ラインによるケア※

メンタルヘルス対策の中では、管理監督者を中心としたラインのケアが重要になる。

  1. 職場環境等の把握と改善
  2. 労働者からの相談対応
  3. 職場復帰における支援 など

※「ライン」とは、部長や課長などのように、階層化されたピラミッド型の命令系統を持ち、業務に直接かかわる組織形態の一つ。これに対し「スタッフ」は専門家の立場からラインの業務を補佐するが、ラインへの命令権は持たない(事業場内産業保健スタッフ等)。

3.事業場内産業保健スタッフ等によるケア

事業場内産業保健スタッフ等(産業医等、衛生管理者等、保健師等、心の健康づくり専門スタッフ、事業場内メンタルヘルス推進担当者等)は、セルフケア及びラインによるケアが効果的に実施されるよう、労働者及び管理監督者に対する支援を行うとともに、心の健康づくり計画の実施に当たり、中心的な役割を担うことになる。

  1. 具体的なメンタルヘルスケアの実施に関する企画立案
  2. 個人の健康情報の取扱い
  3. 事業場外資源とのネットワークの形成やその窓口
  4. 職場復帰における支援 など
4.事業場外資源によるケア

事業場内産業保健スタッフ等が、必要に応じて事業場外の医療機関への相談や受診を労働者に促すことも効果的である。

  1. 情報提供や助言を受けるなど、サービスの活用
  2. ネットワークの形成
  3. 職場復帰における支援 など

5.関係者が連携した取り組みを推進する

前述した「4つのメンタルヘルスケア」が適切に実施されるよう、事業場内の関係者が相互に連携し、以下の取り組みを積極的に推進することが効果的である。

従業員の心の病気を防ぐのイメージ02

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