ビジネスQ&A

時代の変化を見通した就業規則の直し方を教えてください。

2024年 4月 17日

就業規則が古いので見直したいと思っていますが、これからの時代の変化も見通してどのように直していったらよいのか、ポイントを教えてください。

回答

就業規則を見直そうとするときはまず、今の就業規則の位置づけを改めて確認しましょう。会社側の視点で、「労務問題に備える」ための防衛的な位置づけのみで構成されたものになっていませんか? これからの時代の変化も踏まえた就業規則の見直しのポイントは、検討の場面から従業員を巻きこむこと。そして、働き方改革が普及する時勢に合わせた条項の追加を行っていくことが必要になります。

就業規則を「組織を強くするためのツール」として位置付ける

まずは、今までの自社にとっての就業規則の位置づけ、使い方を確認しましょう。

  • 会社を立ち上げ、事業所に勤務する従業員が一定数に達したので就業規則を作った。
  • 事業を行う中で、従業員の規律や行動、入退社に問題が生じ、企業として労務問題に備えるための改定を行ってきた。
  • 法対応のための改定を行った。

上記のような経緯を踏んできたケースが多いと思います。事業遂行の過程の中で、想定される労務問題の発生可能性を踏まえ、就業規則で問題発生を抑止していくことは勿論大事なことです。

これに加え、就業規則を現場力の向上にも繋がるツールにするためには、就業規則を「従業員が活き活きと働くためのツール」「組織を強くするためのツール」として位置付けることが重要です。そのためには、従業員が日々の実務と関連付けて就業規則を理解する仕組みと、従業員の声を反映させることが必要となります。

就業規則は従業員が就業規則の内容を普段の仕事の中で意識できなければ、就業規則は従業員の意識や行動に影響を与えるためのツールとして機能しません。まずは、従業員が自分事として就業規則を理解し、自分の所属する職場のルールとして意識するための仕掛けが必要です。就業規則の見直しは、そのチャンスでもあります。検討の際、経営者の思いを盛り込むだけでなく、現場の管理職やスタッフの意見を聴いていくのがよいでしょう。

次のようなテーマで、経営者から従業員まで、意見を出し合っていくことから始めてはいかがでしょう。

【経営者や管理職で意見を出し合うテーマの例】
経営者や管理職の立場として、会社の持続的発展のため従業員にどのような働き方を求めていくべきか。

【従業員に意見を出してもらうテーマの例】
時代変化を踏まえた働き手の視点で、自分個人の人生と、会社の風土の両方をより良くするためにはどのような働き方をすればいいか。

経営者や従業員が意見を出した後、現在の就業規則を確認し、どのあたりの条項を見直すのが良いのか、変えるべきポイントを洗い出します。経営者と従業員の双方を巻きこみながら、就業規則を変えていく過程そのものが、組織を強くしていくために重要になります。

「自分の意見を聞かれることもなく、誰かが会社の都合で勝手にルールを作った」となると、従業員側に就業規則を主体的に理解しようとする気持ちも生まれず、「どうせ会社は都合の良いように従業員を使いたいだけだ」という解釈になります。そうなると、一人ひとりが、会社やお客様との関係、職場を主体的に良くしていこうという意識をもって仕事をすることに繋がらず、いつになっても組織は強くなりません。

最初のステップとして、各会社の従業員の働き方の理想像を経営者の視点、管理職の視点、従業員の視点で出し合い、現在の就業規則を見直すべきポイントのあたりをつけるところから始めます。

これからの時代を踏まえた条文項目を検討し加える

前段で、内部の視点で「働き方」に対する経営者や社員の意見を出すことの重要性を述べましたが、外部からの視点を取り入れることも並行して必要になります。現在の世の中の標準的な流れを押さえた上で自社の就業規則の課題を把握します。仕事の特性、現場仕事の制約などを踏まえ、何を選択していくかは、それぞれの企業によって変わってきます。

(1) 休暇の取得方法の多様化、就業時間の柔軟性に関すること

組織を強くするために、従業員にとって働きやすい制度にしていく必要があります。ワークライフバランスが提唱される中で、従業員の意志で仕事とプライベートの時間をやりくりできる形にしないと、現在の時代の中で働き手に選ばれ、さらには顧客にも選ばれる企業として生き残ることが難しい時代です。以下、検討や導入が必要な取り組みを挙げます。

・半日単位、時間単位での有給休暇の付与

法律上では、有給休暇は従業員に対して1日単位で付与すれば良いことになっており、半日単位や時間単位で付与する必要はありません。しかし、今の時代、夫婦での子育てや介護、家事の都合など、1日は必要ないけど午前か午後の半日は休みたい、1日の中で数時間の単位で休暇を取得したいという働き手のニーズを組むことが必要な要素になっています。時間単位の休暇制度は、労使協定等の締結により、年次有給休暇のうち5日の範囲内で、1時間単位での休暇取得を付与することができることになっています。

・勤務時間の柔軟性(1か月単位での変形労働時間制、フレックス制の導入)

1日の勤務時間を一定の範囲で従業員が使いやすいように、業務開始や終了の時間の柔軟性、週の中での日による勤務時間の調整要素を持たせることも検討可能です。1か月平均で週40時間までの労働時間であれば、日や週によって労働時間の差異を持たせることが可能です。また、1日の中でのコアタイム(必ず働いている時間帯)を設けた上で、始業や終業の時間を従業員ごとに設定してもらうフレックス制を導入している職場も増えています。

・従業員の有給取得が進まないことへの対応

有給休暇の取得が進まないことに対して、単に規則や規程を変え、現場の管理職層に有給取得を職場で推進するように指示するだけでは、職場の体質は変化しません。そればかりか、現場の仕事の仕組みが変えられないのに、上位の方針として制度の変更を押し付けてくる経営者や本社に対して現場の不満が募るばかりになります。

管理職や従業員を含め、意識を変えてもらうことも必要ですが、それ以上に現場の仕事の運営を変えていく取り組みを促進する、支援していくことが重要です。

有給休暇の取得が進まない、残業が減らない現場で、どんな仕事を、誰が、何人で、どのように運営しているのかをまずは可視化します。その上で、従業員が残業しない、休暇を取得できるようになるための改善課題を設定し、解決策を出していく。忙しい現場では、日々の仕事を回すだけで手いっぱいで、改善するための手法を学んで実践することをいきなり押し付けても実行できないことが多い実情があります。一つひとつの現場の状態をまずは把握し、現場の状態に合わせた支援を行う必要があります。

(2) 牽制が必要な従業員の言動に関すること

SNSが普及し、従業員が通勤の途中にスマートフォンでウェブサイトなどを閲覧している姿を多く見かけるようになりました。様々な投稿をし、反応することが当たり前になった時代において、会社の外に出してはいけない情報を無邪気にSNSに投稿する事例も散見するようになりました。加えて、ハラスメントや会社の秩序を乱すことに繋がる行為など、社員の油断や自分本位の意識から生まれる迷惑行為を牽制することも必要です。

牽制の観点で、就業規則に盛り込むべき事項は主に以下の通りです。

  • 会社に帰属する情報、業務上で知り得た情報に関する私的利用の禁止(インターネットやSNS等を通じた外部への情報流布の禁止を含む)
  • セクシャルハラスメント、パワーハラスメント、その他あらゆるハラスメントの禁止
  • 会社内でのマルチ商法等や宗教活動等への勧誘行為など、会社の秩序を保つために禁止すべき事項に関する記述
  • 従業員が退職する際の、他の従業員に対する引抜き行為の禁止

(3) 在宅勤務に関すること

新型コロナウィルス感染症の影響から、在宅勤務の仕組みを導入した企業が多くありました。その後も従業員の働き方改革の一環で、在宅勤務の取組みを継続して導入し続けている企業もあります。在宅勤務に合わせた就業規則の変更ができていない場合は対応が必要です。見直しが必要なルールを挙げます。

  • 就業開始と終了時の連絡方法の指定
  • 就業可能場所の指定(自宅のみに限定する場合、会社が認める外部スペースでの勤務を認める場合)
  • 会社の情報を社員以外の第三者に見せない、聞かせないこと
  • ネット回線の接続に関すること(保護されていない公衆回線に会社の端末を接続しない)
  • 勤務時間中に業務に集中する上での決めごと(コミュニケーションツールで随時連絡が取れるようにしておく、業務時間中に離席する場合に事前に連絡するなど)

更新した就業規則を使って社員が対話する仕掛けをつくる

作り直した就業規則を使い、従業員が具体的に自分の仕事に置き換えて、就業規則を理解していく過程が重要です。多くの企業では、「就業規則を見ておくように」とだけ伝えて、その理解や解釈を従業員任せにしている現状があります。これでは、就業規則が理解されて守られる効果も低く、強い組織を作ることにもつながりません。

就業規則を浸透させるための第一歩として、変更になった就業規則の変更を元に、説明会または研修を実施します。その際に、「どんな背景があり、何をどう変更したのか」「その変更により、従業員にどんな行動をしてもらう(あるいは行動を抑止してもらう)のか」について、具体例を使って説明します。

可能であれば、説明を受けた後、説明会や研修に参加する従業員を小グループに分けて、意見交換をしてもらうようにするとより良いでしょう。従業員同士で話し合う中で、腑に落ちないこと、「こういうケースではどうしたら良いのか」といった質問も出てきます。従業員ひとりひとりに自分事として新しい就業規則を理解してもらい、意識を変えるための取り組みを行うことが、強い組織を作るための就業規則の変更には欠かせない要素です。

回答者

中小企業診断士・事業承継士 吉井 洋

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